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“学ぶことを諦めない” 32歳の高校生

  • 2023年12月01日

    宇都宮市に住む一人の女性。
    生まれ育ったフィリピンでは、十分な教育を受けることができませんでしたが
    30歳を過ぎてから教育を受け直そうと、勉強に励んでいます。
    子どもたちに語学を教えるという夢に向かって努力する女性を追いました。

    (宇都宮放送局記者・梶原明奈)

    夢に向かって学ぶ32歳

     

    「先生、この漢字はなんて読むんですか?」

    授業中、手を挙げて質問したのは村山エマリンさん、32歳。
    フィリピン出身で宇都宮市の定時制高校で学ぶ、現役の女子高校生です。
    子どもが大好きなエマリンさん。
    日本で子どもたちに語学を教えるALT=外国語指導助手になる夢のため
    大学を目指して高校で学んでいます。
     

    2022年1月 民間の夜間中学で学ぶエマリンさん

    彼女を最初に取材したのはおととし。
    当時は、民間が運営する夜間中学に通う生徒の1人でした。
    フィリピンで貧しい家庭に生まれ、母国では小学校しか卒業できなかったことから
    結婚を機に移り住んだ日本で義務教育レベルから学び直していました。

    村山エマリンさん
    「私は小学校を卒業したあと13歳の時に働きに出ました。
     ほんとうは勉強が好きで勉強したかったんですが、かないませんでした。
     だから、いま学ぶことができるこのチャンスを逃したくない。
     子どもが好きなので、ALTとしていつかちゃんと教えることができるようになったら、
     楽しい授業をして、子どもたちに英語が好きだと言ってもらいたいです」

    憧れていた高校生活

     

    前の席のクラスメートは大の仲良し

    エマリンさんは去年から、定時制高校に進学。10代の子たちに混じって学んでいます。
    クラスメートには、難しい日本語の言い回しを教えてもらうなど助けてもらいながら、
    勉強に励む毎日を送っています。
     

    授業中も真剣そのものです。
    英語の授業で、ある英単語の日本語訳が聞きとれなかったエマリンさん。
    すかさず、手を挙げて先生に質問し、
    初めて耳にする日本語の単語を何度もノートに練習していました。
     

    仲のいいクラスメート
    「エマリンさんが日本語をちゃんと勉強してるから 私も英語をがんばりたいなと思います」

    担任の先生
    「とてもまじめな生徒で、ほかの生徒よりもちょっと年齢は上なんですけども、
     それを感じさせないくらい溶け込んでいますね。
     クラスメートと冗談を言いあっていて、お互いにいい影響を与えている感じがします。
     何事にも本当に熱意を持ってとても前向きに取り組んでいるし、
     時間をとても大事にして、過ごしているんだと思います」

    家では2児のママ 

     

    子どもたちに朝食を食べさせるので大忙し

    エマリンさんは、10年前に日本人の男性と結婚、2人の子どもに恵まれました。
    今は小学生と年中の2人を育ててながら高校に通っていて、
    勉強と家事を両立するため時間のやりくりを工夫しています。

    毎朝、起床と同時に家族の食事を用意して子どもたちを学校などに送り出します。
    午前中のうちに洗濯や夕食の用意など、すべての家事を済ませて午後から高校に通うのです。

    そんなエマリンさんは、自分が夢に向かって努力する姿を子どもたちに見てもらうことで
    感じ取ってほしいものがあるといいます。 
     

    村山エマリンさん
    「子どもたちに“ほら勉強しなさい”って言えない。
     だって私だって勉強していないし、言いづらいです。
     私はそもそも「勉強ってなんなのか」がわからない。
     だから、わかるようになりたいんです。今、私頑張っている姿を子どもたちに見せたい。
     “私も勉強してるよ。ママ、頑張ってるように見えるかな?”って」

    思いを知ってもらいたい

    エマリンさんの思いを、家族の前で示すチャンスが訪れました。
    県内の定時制高校などに通う生徒たちがみずからの体験を述べる発表会に
    高校の代表として参加することになったのです。
    発表に使う作文は、エマリンさんが先生にアドバイスをもらいながら書き上げました。

    発表練習するエマリンさんと先生たち

    多くの人の前で、日本語を使って発表するのは、エマリンさんにとっては、初めての経験です。
    先生たちの力を借りて、本番まで何度も練習を重ねたといいます。
     

    迎えた当日。
    会場は、県内の定時制・通信制高校から多くの生徒たちが集まっていました。
    クラスメートや先生、家族の姿もありました。

    他校の生徒たちが次々と発表し、いよいよエマリンさんの番です。
    エマリンさんは、勉強を諦めざるを得なかった過去と、
    夢に向かって学び直しに取り組む今の気持ちを発表しました。
    タイトルは、「今だからこそ学びたい」。
     

    ステージ上で発表するエマリンさん

    小さいころ私は学校へ行くことが大好きでした。

    小学校を卒業したら高校に行けると思っていました。

    でも、貧乏な家族を見ていると私にはわかりました。

    私にはその夢を見ることでさえもいけないことだと。

    つらくて、たくさん泣いて夢をあきらめました。

    でも、また学校へ行くチャンスがきました。

    だからこそもっと勉強を頑張り、大学にも行きたいと思います。

    そして、残りの高校生活を精一杯楽しみ、

    いろいろなことを学んでいきたいと思います。

    いつか立派なALTとして働く日を目指して。

     

    発表を聞き終えた長男・来友(らいと)くん

    会場でエマリンさんを見守った子どもたちは、
    終了後に「かっこよかった」「かわいかった」と口にしていました。
    エマリンさんのメッセージは、確実に子どもたちに伝わっているようでした。

    発表会で自信をつけたエマリンさん。これからも夢に向かって突き進みます。
    まずは高校を卒業し、その後は大学入学も視野に入れているそうです。

     

    村山エマリンさん
    「発表したことで、自分の言いたいことを伝えることができました。やってよかったです。
    以前は自分に自信がありませんでしたが、今では少し自信をを持てるようになったと思います。
    これからも、モチベーションをもって、ゴールをセットして、そのゴールを手に入れるまで
    頑張りたいです。頑張ればそのゴールにいつか届くと思います」

    取材を終えて

    エマリンさんの取材を通して、今回初めて、定時制高校にお邪魔しました。
    クラスメートと話すエマリンさんのうれしそうな表情、
    授業の内容を聞き漏らすまいと、真剣に取り組む表情、
    学校を心の底から楽しんでいる彼女の表情がどれも心に残っています。

    思うように学べない過去があっても、今学べる、このチャンスを逃さず
    成長を続けるエマリンさんに、何度も勇気づけられました。
    「私はどうせ〇〇だから」「きょうは忙しいから」私も普段そんな言い訳をしがちですが、
    彼女を見習ってやりたいことにはとことんチャレンジしなければ。
    エマリンさんに背中を押された気がしました。
     

      • 梶原明奈

        宇都宮放送局 記者

        梶原明奈

        2019年入局
        現在は栃木県政を
        担当しています。

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