ページの本文へ

よむ富山人

  1. NHK富山
  2. よむ富山人
  3. 障害者団体が防災訓練を開催 一緒に避難を考える

障害者団体が防災訓練を開催 一緒に避難を考える

  • 2023年12月11日

“災害が起きたとき、自分たちは助かるのか”―そんな思いから、障害のある人たちが防災訓練を開き、住民全体で避難について考えている地域があります。
(記者 吉田紘生)

災害は不安、でも学ぶ機会は少ない

小矢部市で洋服店を営む山田正弘さん(81)。緑内障のため、およそ30年前に視力を失いました。

ことし5月のある日、店番をしていたところ、揺れを感じました。

石川県能登地方で、震度6強の揺れを観測する地震があったのです。小矢部市でも、最大で震度4を観測しました。

店の商品が落ちるなどの被害はなく、山田さんも無事だったといいますが、余震で身の回りに被害が出ないか心配だったといいます。

山田正弘さん

「ふだん通る道でも、建物が壊れたり、道路がひび割れたりした場合、白杖だけでそうした変化を見つけるのは難しいと思う。それでは移動するのも難しいから、動かないでそこにいるしかない」

災害時に自分たちは助かるのか。

山田さんのような思いは、障害のある人の多くが持っています。

しかし、こうした人への対応は、全国で十分に進んでいないのが実情です。

日本障害者リハビリテーション協会が6年前に全国の自治体に行った調査では「障害者が地域の防災訓練に参加している」と答えたのは、回答した516の自治体のうち、およそ4分の1にとどまりました。

災害時に障害のある人にどう接すればいいのか分からないという人も少なくありません。

障害者団体が防災訓練を開催

こうした中、小矢部市では、障害のある人たちでつくる団体「小矢部市障害者団体連絡協議会」が、地域全体で理解を深めてもらおうと、7年前から防災訓練を開いています。

参加したいという人は年々増え、ことしは、障害のある75人を含む180人あまりが参加しました。

この協議会を構成する視覚障害者団体で会長を務める山田さんは、当事者の立場で、参加者に避難所までの支援のポイントを伝えています。

山田正弘さん

「一緒に訓練することで自分たちの姿を見てもらい“、自分たちの障害はこういうものだ”、“こういうことに気をつけて配慮してほしい”ということを知ってもらいたい」

会場には、曲がり道や段差のあるコースが設置され、目や足などの不自由な人が障害のない参加者と一緒に歩きます。

山田さんを先導した人は、引っ張るように案内すると転ぶリスクがあることなどを、歩きながら実感していました。

参加した人

「手を握って引っ張っていくようなイメージをしていたんですが、そうではなくて、つかまってもらって自分が先に歩くのだとわかりました。いざ災害が起きたときに自分のいる場所で目の見えない人がいたら、きょう習ったことを生かしたいです」

段差の手前では、どれくらい足を上げればいいか考えるため、具体的な高さを伝えてもらいます。

参加した人たちも「15センチくらいの階段があるので、足を上げてもらえますか?」などと声をかけていました。

こんどは降りようとしますが…。

こんど降りるでしょう。私たちは、降りるのがいちばんおそろしい

確かに、怖いですね

先にあなたが降りてください、そうしたら私も降ります

わかりました、先に降ります

こうしたやりとりを通して、参加した皆さんの心の距離も縮まっていったように、記者には感じられました。

参加者のひとりが山田さんに「いい経験になりました。ありがとうございました」とお礼を述べると、山田さんは笑顔で「これが私たちの毎日歩くコツなんです」と答えていました。

山田正弘さん
「この訓練がどんどん広がれば、われわれのような目の見えない、あるいは耳の聞こえない人に役に立つと思う。もっと多くの人に体験してもらえば、世の中もだいぶ変わるんじゃないか」

一緒に避難、どうすれば

防災訓練を開催した「小矢部市障害者団体連絡協議会」は、訓練のたびにメンバーの意見をとりまとめて、障害ごとの誘導方法を冊子にまとめ、次の訓練に参加する人たちに渡しています。

以下、書かれていることをいくつか紹介します。

【視覚に障害がある人】
▼白杖を持っていない側の斜め前に立ち「私のひじ(服)をつかんでください」と伝えてほしい。服を引っ張られると転びそうになる。
▼「側溝があり、段差2センチ、幅30センチです。またげますか?」と問いかけてほしい。細かく状況を教えてもらえば、白杖で確認して判断できる。

【聴覚に障害がある人】
▼目の前に近寄ってほしい。遠くから手を振られても気づきにくい。
▼手ぶりや筆談(スマートフォンのメール機能などが便利)で伝えてほしい。ゆっくり大きな声で話せば、口の動きでわかる人もいる。

【車いすを利用している人】
▼「次の交差点を右折(左折)します」と伝えてください。事前に伝えてもらうことで、体のバランスを整えられる。
▼下り坂は後ろ向きに降りてほしい。前向きで降りようとすると、体が前のめりになって落ちかねないし、怖い。

【知的・精神・発達障害の人】
▼びっくりするとパニックになる人もいるので、大声で呼ばないで、静かに対応してほしい。
▼複数の人を誘導するときは、全員に向けて1回だけ説明しても理解できない人もいるので、個別に説明してほしい。

 また、どんな人と接する場合でも、コミュニケーションをしっかりととる必要があるといいます。

「お礼を伝えたいので、誘導が終了したら知らせてほしい」という意見もありました。

いきなり進む方向が変わったり、一緒にいた人が気づいたらいなくなっていたりしたら、誰でもびっくりするのではないでしょうか。

私も、相手が何をしてほしいのか、どんなことに困るのかを教えてもらいながら、少しでも助けになることができればと思います。

「自助」と「共助」を国も評価
「小矢部市障害者団体連絡協議会」は、この防災訓練で「自助」と「共助」の向上に努めたとして、ことし9月に国から表彰されました。
今回は主に「共助」についてお伝えしましたが、会場には「自助」につながるコーナーも設けられていました。
例えば、避難所で使う仮設テントや段ボールベッドの組み立て。障害のある人もない人も一緒に作業を行い、完成したベッドの寝心地を確かめていました。
また、制震装置の体験や防災グッズの紹介もされていました。ある弱視の女性が「さまざまな防災グッズを触って 確かめられてよかったです」と話していたのが印象的でした。

  • 吉田紘生

    富山局 記者

    吉田紘生

    2020年入局
    岐阜局を経て、2023年8月から富山局で県政を担当。

ページトップに戻る