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富山でクマ出没相次ぐ 被害を防ぐには?

地図データ分析から見えてきた移動ルート どう対策すれば
  • 2023年12月04日

全国でクマの出没が相次ぎ、人への被害が過去最多に。
NHKは、富山県のクマ出没情報の地図データ専門家と分析しました。
見えてきたクマの移動ルートから、被害を減らす対策のヒントを探りました。

(この記事は11月17日に富山県で放送した番組、UPっぷ富山きとラボ「富山で相次ぐクマ出没 被害をどう防ぐ?」のダイジェスト版です)

クマに襲われた男性の顔

男性の顔の傷。
10月23日、富山市安養寺でクマに襲われた時のものです。
男性は頭や足などに全治1か月の大けがをしました。

男性は、自宅近くの実家を訪れたところ、蔵の中に身を潜めたクマ1頭と遭遇したということです。

クマは体長が1メートル20センチほど。
男性に気付くとゆっくり近づき、立ち上がって数秒間にらみ合い、取っ組み合いになったということです。(※クマに遭遇したとき、クマを興奮させる行為は危険とされています) 

【クマに襲われけがをした男性】
クマが蔵の奥から出てきてにらみ合いになった。無我夢中であまり記憶がない。手や足、脇腹など数え切れないくらいの部位を、爪で引っかかれたり、かまれたりした。これぐらいのけがですんでよかった。

富山県でクマの出没が急増

富山県によりますと、県内で11月1か月間に確認されたクマの目撃や痕跡の出没情報の件数は176件と、去年の同じ月の29倍余りに増えました。

今年に入って11月までの累計は618件で、去年の同じ時期の2点8倍です。

今、全国各地でクマの出没が急増しています。
全国の人への被害は212人(今年度~11月末)と、過去最多です(環境省まとめ)。
富山でも、今年に入ってこれまでに9人がクマに襲われ、そのうち70代女性1人が死亡しました。

どうすればクマの被害を防げるのか。
山から人の生活圏へとクマが下りてくるルートを辿ると、被害を減らすヒントが見えてきました。

地図データから見えてきた「移動ルート」

富山県は住民に注意を呼びかけるため、クマの出没情報地図「クマっぷ」をホームページで公開しています。

富山県ツキノワグマ出没情報地図【クマっぷ】 ©Google

NHKは県の許可を得て、このクマっぷから過去10年、約3700件(~11/12)のデータを入手し、クマの生態に詳しい、県自然博物園「ねいの里」の野生鳥獣共生管理員、赤座久明さんと分析しました。

今年のデータです。
黄色の点は、クマを目撃したり、足跡や糞などの痕跡があったりした場所を示しています。 
10月上旬までは、山での出没が中心でした。

ところが、10月中旬以降、平野部での出没が急増
11月に入ってからも相次いでいます。

これに人口のデータを重ねると…。 
人が多く住む赤いエリアのすぐそばでも、出没の点が集中していることが分かります。

この地区は、新興住宅地で、近くには小中学校などもあります。

今年はクマの食べ物となる山のブナやミズナラなどが不作のため、クマが冬眠を前にエネルギーを蓄えようと、人の生活圏に下りてきたといいます。

赤座久明さん

冬眠の時期が近づくと、これでは冬眠に備えるだけの栄養がとれないということで、1歩踏み出し、2歩踏み出し、そのうちもうダダダッーと複数のクマが同時に平野のほうに下りていく。

山から人の生活圏に伸びている黄色の点。 
分析すると、クマの移動ルートが浮かび上がってきました。

クマの移動ルート① “川”

赤座さんが注目した1つ目のルートは「川」です。 
川に沿って、点が集中しています。

富山市内の河川沿い

出没した現場周辺を訪ねてみると…。

身を隠す場所がいっぱいあるんですよね。

川沿いに生い茂った草木
本来、臆病で人を避ける習性のあるクマにとって、隠れながら移動しやすい場所になっていたのです。

川沿いというのは、人が利用していないがゆえに動物にとっては、わりあい安全に移動できる。通路になって一気に川づたいに下流へ下りるというルートが1つある。

クマの移動ルート② “河岸段丘”

さらに、赤座さんが注目する2つ目のルート。 
川がない場所に伸びている点です。

地形データを重ねると、そこは、平らな土地と崖が階段状になっている「河岸段丘」と呼ばれる地形でした。

富山市にある河岸段丘

こうした崖には林が広がっていて、かつては里山として地域の住民が日常的に利用していたといいます。

(里山は)昔は枯れ枝を取ったり、木を切ってまきにしたりと生活の場だった。人が山を離れたおかげで、クマたちが自由に動ける場所になってしまった

人の生活圏に向かう、川と河岸段丘という、2つのルート。

そこから離れた、市街地の方向にも、複数の点があることが分かりました。
これが、赤座さんが特に警鐘を鳴らす3つ目のスポットです。

クマの移動ルート③ “屋敷林”

風を防ぐなどの目的で、住宅の周りに植えられた「屋敷林」と呼ばれる木々です。

屋敷林が1つの森になってしまって、そういう屋敷をつたって、平野部に点と点を結ぶような感じで下りる。屋敷林の茂みに日中はこもって、また同じ場所に行って食べる。クマにとっては快適なえさ場になってしまっている。

今年10月、県内では、70代の女性が亡くなるなどの人的被害が4件発生。
現場には、いずれも近くにこうした屋敷林などの木々がありました。

そして、被害現場の多くで見られたのが・・・

柿の実でした。

別の出没地点でも、クマが食べたと思われる柿が見つかりました。
クマはこの柿の実を求めて市街地にまで下りてきていました。

河岸段丘、そして屋敷林
こうした場所がクマが人の生活圏にたどりつく移動ルートになっていたのです。

田園地帯だけじゃなく、もうちょっと踏み込んだ新興住宅地の中にも、リスクとしては同じぐらいある。わが身に降りかからないという保証はないわけですよね。

繰り返されるクマの被害 過去にも

クマによる人への被害は、今年だけでなく、過去何度も繰り返し起きています。

2004年。
県内各地でクマが大量出没しました。人への被害は24件で、死者も出ました。

2010年。
この20年で最も多い出没情報が寄せられました。

釣りをしていた人が襲われた現場

また、海岸で早朝、釣りをしていた人が、突然、背後から襲われてけがをしました。

4年前の2019年。
犬の散歩中や農業用ハウスでの作業中に人が襲われる被害が、5日連続で発生しました。

クマに襲われた人たちがラジオ体操をしていた公民館

また、公民館でラジオ体操を終えた3人が次々に襲われました。

2004年以降、富山県内のクマの出没情報をまとめました。

2010年には、1387件の出没情報があり、
最近では、4年前の2019年に、919件の出没情報がありました。

こうした年は、被害にあった人も多くなっています
2004年には24人。2019年には20人、どちらも全国最多でした。
2004年、2006年、そして今年は亡くなった方もいます。

クマの出没は、山のブナやミズナラなどの実の成り具合が大きく影響しています。
不作や凶作だった年は、クマの大量出没の年と、ほぼ一致しています。
ブナやミズナラなどは、定期的に不作や豊作を繰り返すので、今後も大量出没は起こりうるのです。

クマを寄せつけない対策は?

クマを引き寄せる原因を減らさない限り、ブナなどが不作になるたびに、クマは山から下りてくることになります。
では、クマを人の生活圏に近づけない環境を作るために、私たちはどうすればいいのか。
赤座さんに、対策を2つあげてもらいました。

それがこちら、「クマを引き寄せる誘引物の除去」
そして、隠れ場所となる「移動ルートを断つ」ことです。

対策①柿の実を取り除く 

1つ目の対策は、クマを引き寄せる誘引物の除去です。

県などは、クマを近づけないよう、柿の実の収穫や木の伐採など、対策を呼びかけています。
しかし、高齢者の家や空き家などでは、多くの柿の実が収穫されないまま取り残されているのが実態です。

課題は高齢化と空き家

こうした現状を受けて、立山町では、行政が動き出しています。
この日、町の職員が住民のもとを訪ねました。

柿の木の伐採を依頼した立山町の80代の男性

町に木の伐採を依頼した80代の住民です。
庭には、家を建てた約40年前に植えたという柿の木が・・・。

柿の木の伐採を依頼した立山町の80代の男性

クマの出没が相次いだことから、伐採を決意しましたが、体力的に、自分1人で木を切ることは難しいと感じてきました。

【80代の男性】
自分では年取ってきたから無理です。木切るなんて、できるもんじゃないですよ。

木の伐採を無償で代行する地域おこし協力隊

そこで、町は4年前からこうした高齢世帯を対象に、木の伐採を無償で代行
今年はこれまでに30件余りの依頼が来ています。
人手が限られる中、町の依頼を受けた「地域おこし協力隊」の隊員が対応に追われています。

【80代の男性】
来年から柿の実の楽しみがなくなったけどしかたありません。うちの柿はおいしいんです。でも毎朝、柿の木にクマが登っているんじゃないかと、心配していたんですよ。これで一安心です。

空き家対策も

また立山町では、柿の除去を進めるため、空き家への対策も行っています。
過疎化で増えている空き家で柿を取るには、持ち主の許可が必要なため、多くが放置されたままです。

近くの住民は、クマが柿を食べに来るのではないかと、不安を感じていました。

【空き家近くに住む住民】
今もクマがいないか怖いです。子どもや孫も柿の木見るといやだって言って来ないんですよ。

そこで、住民の依頼を受けた町が持ち主を調査
伐採に向けて、同意を取り付ける作業を進めています。

この日は、持ち主の同意が得られた空き家で枝の伐採が行われました。

立山町農林課 大﨑喜孝係長

【立山町農林課 大﨑喜孝係長】
住民は困っているけどなかなか手が出せないという感じだと思います。クマの緊急対策ということで、ご自身で切れないけど、柿の木なんとかしたいと思っているというご相談がありましたら、町で順次対応をしていきたい。

地域ぐるみで木の伐採 効果も

さらに、住民が地域ぐるみで伐採を進め効果が出ているところも。

富山市の庵谷地区です。
山に囲まれた集落で、約40世帯が暮らしています。

地区では、4年前のクマの大量出没をきっかけに、住民みずから柿の木の伐採を進めました。
自治会では、伐採を災害対策事業と位置づけ、作業にあたる住民に自治会費から日当を支給

さらに担い手を増やすため、木の切り方も教え合いました。
これまでに伐採したのは、全体の8割にあたる約120本
この秋も、クマの姿は見かけていないといいます。

実際あれからクマを見たりしたものはおりません。

ここら辺、全部切ってしまっているから、クマは来ないという安心感はあります。

クマが頻繁に出没する地域では、作業控えて

ただ、富山市内では今年11月、住民たちが柿の木の伐採で集まっているときに、2人がクマに襲われる被害が出ました。

県では、被害を受けて、呼びかけの内容を変更しています。

▼クマが頻繁に出没している地域で、クマの出没情報がある場合
不要不急の外出や、柿の実除去など屋外での作業を控える
▼そのほかの場合
引き続き、柿の実など誘引物除去を進める

また、富山市は頻繁に出没していない地域で、柿の木の伐採などを行う時は、ヘルメットを着用し、クマよけスプレーを携帯してほしいとしています。

柿の実の除去は正しい行動だが、クマも冬眠目前で食べ急いでいるので、作業する場合は十分警戒してほしい。

対策②クマの移動ルートを断つ

2つ目の対策は、「移動ルートを断つ」ことです。
草木が生い茂る川沿いは、クマが身を隠しながら、市街地へ下りてくるルートになっていました。
そのルートを断とうと、動き出した地域があります。

富山市の月岡地区です。
クマの出没が多い熊野川沿いにあります。

住民自らが毎年秋に、河川敷の草刈りを行っています。
クマが隠れながら移動する場所をなくすことで、少しでも集落に近づくのを防ぐねらいです。

【月岡校下自治振興会 真田峰夫さん】
山からずっとクマが下りてきて、獣道、クマの通り道があるはず。どこかに潜んで、朝まで潜んでいて、こちらの方に入ってくる。

この地区では、2004年、住民2人が相次いでクマに襲われ、けがをする被害が発生しました。

こうした被害をきっかけに始まった草刈り。今年9月も、住民40人余りが集まりました。

写真提供:月岡地区センター(今年9月)

約1メートル50センチまで伸びていた草木を伐採。

上の写真と同じ場所(今年11月)

その後も、見通しがよく、クマが潜みにくい環境になっています。

今では地区に欠かせない行事に。今後も自分たちにできる対策を続けていきたいとしています。

【月岡校下自治振興会 真田峰夫さん】
9月になったら熊野川沿いの草刈りがあるんだということで、全町内に行事の予定に組み込んでもらっている。みんなで守ろうということだと思います。

河川を管理する県も対策

河川を管理する県も、全域で河川敷の対策を行っています。
「クマっぷ」を活用し、県が管理するおよそ300の河川のうち、クマの出没が多い23の河川を選定し、草木の除去などを行っています。

【県河川課 森田仁課長】
河川内の除草等につきましては、やはり予算の関係もございまして、すべてというのはなかなか難しい。より効果的、そして効率的なクマ対策の除草をどのようにやっていけばいいのか検討したい。

クマの隠れる場所を減らす

川の他にも、山林の見通しをよくしてクマが隠れる場所を減らす取り組みが行われています。
自治体が行っている「里山再生整備事業」です。

2枚の写真を見比べると、伐採前は、河岸段丘の林が放置されてうっそうと草木が生い茂っていますが、伐採後は、草木がきれいに刈り払われ見通しがよくなっています
こうした林は私有地であることが多く、住民が所有者の同意を取り付けるのが難しいため、行政が支援し伐採を進めています。

クマ被害を「自然災害」と捉えて「減災」を

県自然博物園 赤座久明さん

富山では過去、何度もクマの大量出没が起きていました。
今後、繰り返さないために赤座さんは、クマによる被害を「自然災害」と同じと捉えて対策するべきと訴えます。

【県自然博物園 赤座久明さん】
クマの出没は、まさに周期的に繰り返される台風や豪雨と同じような「自然災害」と考えて、自然災害に対してこれまで地道に対処してきたように、クマ対策についても「減災」を目指して対応を考えていかなければいけないと思います。
個人でできること、地域社会でできることを行っていき、難しければ市や県、国に協力要請して、みんなでできることを一生懸命、前向きにやっていく。これを続けたいですね。
 

もしクマに遭遇したら

もし、クマに遭遇したらどうすればいいのか。
クマの生態に詳しい、立山カルデラ砂防博物館の白石俊明学芸員に聞きました。
白石さんは、背中を見せずに後ずさりするなど、クマを刺激しない対応が重要だと指摘します。

【立山カルデラ砂防博物館 白石俊明 学芸員】
クマを興奮させてはいけない。素早く物陰に隠れるなどしてクマを落ち着かせることが大切。走って逃げることは危険なので、クマをしっかり観察しながら後ずさりし、できるだけはやく物陰に隠れることを実践してほしい。

それでも襲われそうになった場合は、手を首の後ろで組み、顔とおなかを地面につけて伏せる姿勢が有効だといいます。

クマは顔や頭部などを攻撃することが多く、攻撃されると重傷化する傾向がある。そういった大事な部分をしっかり守るために、うつ伏せ姿勢が有効です。その時に帽子やヘルメット、ランドセルやリュックを背負っていると、クマに攻撃された際にけがをする場所が格段に少なくすることができる。

県は、クマが冬眠するまで、12月いっぱいは注意が必要だとしています。

  • 富山クマ取材班

    富山局記者:草野航、杉山加奈富山局ディレクター:伊藤理生 ネットワーク報道部記者:齋藤恵二郎

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