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防災士に聞く 「地区防災計画」

命と暮らしを守るために
  • 2023年05月18日

地震、大雨、土砂崩れなど、毎年のように起こるさまざまな自然災害。全国各地で大きな被害が発生しています。

富山は災害が少ない県と言われてきました。でも、これまで起きなかったから今後も起きないとは限りません。

現に、大型連休中の5月5日に震度6強の揺れを観測する地震が起きて以来、能登半島では活発な地震活動が続いています。富山県内でも震度4の揺れを2度にわたり観測しました。

こうした突然襲ってくる災害に、どう備えたらいいのか? 県内の防災士に話を聞き、“命と暮らしを守る”ために役立つ情報をお届けします

今回は、『地区防災計画』についてです。

 

 

そもそも「地区防災計画」って???
という方が多いと思いますので、まずはその概略について、Q&A形式でお伝えします。

 

Q:地区防災計画とは何ですか?

災害が起きたときに、住民どうしでどう助け合うか、行政ではなく住民がみずから主体となり、まとめる計画のことです。地区の大きさに決まりはありませんが、例えば富山市内では、小学校区ごとに計画作りが進められています。

 

Q:なぜ地区防災計画が必要なのですか?

県や市町村には、災害が起きたときの対応を定めた"地域防災計画”があります。ただ、大規模な災害が発生したとき、警察や消防をはじめ行政がそのすべてを助けられるとは限りません。例えば、平成7年の阪神・淡路大震災では、倒れた家から助け出された人のうち、およそ8割が、家族や近所の人などに助け出されたとされています。また平成23年の東日本大震災では、地震や津波により市町村役場などが大きな被害を受け、行政が機能しない状況も発生しました。そのため、国は平成25年に災害対策基本法を改正し、地区の住民が自発的に防災活動を行う『地区防災計画制度』を新たに定めました。

 

Q:具体的には、どんな計画なのですか?

例えば、災害が起きたときの連絡体制や住民間の役割分担、また手助けが必要なお年寄り・障害者の避難誘導や、避難所の運営など、住民がどのように災害に対処するか、それぞれの地区の状況に応じて自分たちで決めていきます。

 

Q:どうやって計画を作るのですか?

自治会などで計画を作ることを決めたら、地図上で災害を想定した訓練(災害図上訓練)を行ったり、まちを歩きながら危険な箇所をチェックしたり(防災まち歩き)して、自分たちの住む地区の特性を見つめ直し、さらに話し合いや会合を重ねて、具体的な計画を練り上げていきます。なるべく多くの住民が参加し、さまざまな立場の人の意見を取り入れて、計画を作ることが大事だと言います。

 

南砺市福野北部地区で行われた災害図上訓練の様子

こちらは、南砺市で地区防災計画作りに向けて行われた、“災害図上訓練”(地図上で災害を想定した訓練)の様子です。指導にあたっているのは、富山県防災士会の佐伯邦夫理事長です。県内の地区防災計画作りに積極的に携わる佐伯さんに、地区防災計画を作ることの意義について、詳しい話を聞きました。

 

◯まずは、地区ごとに個別の計画が必要な理由です。

NPO法人 富山県防災士会 佐伯邦夫理事長
佐伯さん

災害の起こる可能性のあるものって、地域ごとに違うと思う。海のそばだと津波、山のほうだと土砂災害、それぞれの場所によって災害特性って違います。まずはそこから、その災害が起きたら地域の住民の方たちはどうしなきゃいけないか考えて、本当に身近な防災計画を作っていく。

例えば、現在、計画策定に向けて動いている南砺市の福野北部地区は、近くを流れる小矢部川など河川による洪水被害をたびたび受けてきました。ここではまずは、水害への備えが重要になってきます。ただ同じ南砺市内でも、山沿いの地区ならば、備えるべきは土砂災害かも知れません。このように、当然地区ごとに違ってくるため、それぞれ個別の計画が必要になってくるのです。

 

◯佐伯さんは、県や市町村など行政にも防災計画はあるが、住民が自ら作ることが何よりも大事だと言います。

佐伯さん

市町村が作っている地域防災計画で避難はこうなんだよと明示されています、けど何となくひと事なんです。役所ってしっかり地域を見ていますけど、細かなことってやっぱり分からない。実際に住んでいる住民じゃないと分からないことがいっぱいあると思うんです。それぞれの地域地域によって事情がみんな違う。そこを加味して、自分たちが実際に避難するとどうなるのかって考える。

例えば、富山市の安野屋地区では、指定された避難場所が神通川から近い位置にありました。しかし、大雨などで避難をする際、「神通川の近くの避難所に行くのはどうなのか」という議論になり、住民たちが話し合って、地区防災計画では神通川から遠ざかる方向に避難場所を変更したそうです。

行政が作った計画が、本当に自分たちのまちにあっているのか、地区防災計画を作る中で確認することにもなりますし、また、住民どうしの絆が深まり地区の防災力が高まる効果もあると言います。

 

◯ただこの計画、一度作ってそれで終わりではありません。

佐伯さん

計画をせっかく作っても、ただ作っただけでは何も意味がない。作って安心してしまうんじゃなくて、作ったあと実際に活動して、どうなのかというチェックをして改正を加えていく、そういうことが必要になります。

作った計画に基づいて、継続して防災訓練を行う中で、現状に即して計画を常に見直していく。それが大事だということなんですね。

 

◯佐伯さんは最後に、災害が少ない富山県だからこそ、地区防災計画を作ることが大切だと強調されていました。

NPO法人 富山県防災士会 佐伯邦夫理事長
佐伯さん

この防災というのは、あるかないか分からないものに対して備えて準備をすることです。なので、災害が少ないことが富山県内の防災に関して、ちょっとマイナスになっている気はします。ただ、災害が起きてからでは本当に間に合わないんです。あるかないか分からないけど、やっぱりそれに備えることが必要じゃないでしょうか。

「災害が起きてからでは間に合わない」という佐伯さんのことばが、グッと心に響きました。このところ各地で地震が相次いでいますし、家の耐震化や水・食料の備蓄に加えて、自分の暮らす地区の防災についても改めて考えてみたいと思いました。 

佐伯さんは、「まずは気軽に、隣近所の方々に声かけすることから、はじめられてはいかがでしょうか」と話していました。

 

 

参考:富山県内の地区防災計画取り組み状況 (令和5年4月1日現在)

・提出済:富山市 10地区
     氷見市、砺波市、魚津市、立山町、入善町、黒部市 各1地区

・作業中:富山市、高岡市、射水市、南砺市などの9地区

  • 牧野雅光

    NHK富山局(防災士資格所持)

    牧野雅光

    報道の仕事に携わる中で、防災・減災報道の大切さを痛感し、 防災士の資格を取得しました。 とは言え、まだまだ。日々勉強中です。

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