江戸川乱歩賞 “蒼天の鳥” 三上幸四郎さんに土田翼アナが聞く
- 2023年10月04日
「名探偵コナン」や「特捜9」など、人気アニメやドラマの脚本を担当する
米子市出身の脚本家・三上幸四郎(みかみ・こうしろう)さん。
大正時代の鳥取を舞台にした推理小説 “蒼天の鳥”(そうてんのとり)で第69回江戸川乱歩賞を
受賞しました。 (応募作品数390篇)
推理作家の登竜門と呼ばれ、過去には東野圭吾さんや池井戸潤さんなどが受賞者に名を連ねる
江戸川乱歩賞。脚本家でありながら小説家として新たなスタートを切った三上さんに、
受賞作「蒼天の鳥」の執筆の裏話やふるさと鳥取への思いなどを伺いました。
第69回“江戸川乱歩賞”受賞について
三上さん、宜しくお願いします。
宜しくお願いします。
早速ですが江戸川乱歩賞を受賞されたときの心境はいかがでしたか?
賞を受賞した時はちょっとまだ信じられないなっていう感じがすごく大きくて。
“蒼天の鳥”の本が発売されてから、ようやく本を自分が手にすることができて。
それでようやく受賞は本当なんだなとか、自分が書いたものがちゃんと活字に
なっているという喜びを感じました。
脚本家としてキャリア30年!なぜ小説に挑戦?
米子市出身で高校まで鳥取県で過ごした三上さん。
東京の大学を卒業した後、3年間の会社員生活を経て、脚本家としてデビューしました。
その後、30年にわたって「名探偵コナン」や「電脳コイル」、「特捜9」、「特命係長 只野仁」など
数々の人気アニメやドラマのシナリオなどを手掛けてきました。
小説を書こうと思ったきっかけが何かあったんでしょうか?
昔から本を読むのが大好きでした。中学生の頃から江戸川乱歩賞という存在は知ってまして。それで地元の本屋さんに行って受賞作を探して買って、毎年読んでいました。
いつか応募したいなっていう、憧れはあったんですね。ただ、脚本の仕事を20代後半から
続けてきて、20年ぐらいたって40代後半ぐらいなってそういえば小説書きたいって昔思ったことあったなって思い出して。それで小説をちょっと書いてみようかなって。
江戸川乱歩賞に三上さんが惹かれた部分はどういったところですか?
江戸川乱歩賞というのは1950年代から始まってまして。
日本の中ではミステリの公募の中で一番古いんですよね。私が子供の頃からやっていて。
私自身、やっぱり受賞作を読んで育ってきました。今回で69回目になるんですけど、
僕、過去の受賞作全部読んでます。
受賞作 “蒼天の鳥”の主人公は実在の人物
三上さんが去年、半年間をかけて書き上げたのが、第69回江戸川乱歩賞の受賞作「蒼天の鳥」。
小説の舞台は、大正時代の鳥取県です。
当時、日本では、フランスの怪盗映画 「兇賊(きょうぞく)ジゴマ」が大流行していました。
その兇賊ジゴマを模倣した殺人事件に、女流作家とその娘が巻き込まれていくというストーリーです。
小説の主人公は、 鳥取市気高町出身の女流作家・田中古代子(たなか・こよこ)。実在の人物です。
小説や詩などを数多く残し、女流作家として将来を期待されましたが38歳の若さでこの世を去りました。
古代子の娘・千鳥(ちどり)も、子どもながらいくつも詩を残したことでその名が知られています。
鳥取市気高町にある文芸の小径には田中の業績を称え、石碑が作られています。
なぜ田中古代子を主人公に今回小説を書かれたんですか?
たまたまネットで田中千鳥っていう、7歳で亡くなられた詩人がいると知ったんです。
このお母さんも田中古代子という方でその人も女流文学、短命だったっていうことを知って。江戸川乱歩賞に応募するときに、この田中古代子と田中千鳥のことを思い出して、この人たちを主人公にしたら、ちょっと面白く描けるかもしれないって思いました。
作品中で実在した人物を描くにあたり、実際に現地を訪れ徹底した取材を行ったといいます。
自分で取材ノートは結構いっぱいつくりました。まず鳥取市っていうものを県立図書館に行ったときに具体的に昔の地図を見て。それで自分でノートに自分で再現しました。
それから浜村ですね。気高の方の浜村のほうに行きまして、それで実際に駅前を含めていろいろ歩き回ったりしました。実際に、当時お店がこういう風に並んでてみたいなのを、自分の頭の中で考えて、一応地図をちゃんと作って自分で確かめてみました。
大正時代の鳥取を鮮明に描く“描写力”
作品中では、大正時代の風景が巧みな描写で表現されています。
例えば、若桜街道を描いた、この一文。
山本洋服店、戎座、鳥取電燈会社、横山書店
廻り燈籠のように、両脇につぎからつぎへと看板や店先が流れていく。※「蒼天の鳥」第一章より引用
取材を元に当時、鳥取に実在した施設や店名などを連ねることで、大正の鳥取の風景を鮮明に描きました。
三上さんの描写力は、江戸川乱歩賞の審査においても高く評価されました。
評価ポイントとして挙がったのが“描写”ですね。非常に光る描写があって、新人離れしている。
大正期の鳥取の時代風俗、東京ではなく地方の時代風俗が我々分からない。分からない人間でもありありと思い描けるような筆致が非常に素晴らしいという評価がありました。
(日本推理作家協会代表理事 貫井徳郎さん)
アニメ「名探偵コナン」の経験が作品に活きた部分はありますか?
「名探偵コナン」の経験はすごく活きましたね。
ミステリーとしてどうやって証拠を残しておいて、主役探偵役ですね。
それがどの程度、どこのタイミングで気が付くか。あるいは犯人はどういう人が、
どういうふうにして捕まるのか、みたいな部分は基本的には自分がこれまで脚本の
仕事で実践したことをそのままやっているという感じです。
次は鳥取“西部”を舞台に書きたい
作者、そして舞台も主人公も鳥取。“鳥取づくし” の受賞作「蒼天の鳥」。
鳥取県内各地の書店では、本の発売と同時に特設コーナーが展開されました。
地元からの応援や反響についてどのように感じていらっしゃいますか?
実際に発売されてからも本買ったよとか写真送ってくれて。自分の本がディスプレイ
されている、こういう風に並んでたよとか、っていう連絡を結構頂いてまして。
それはやっぱりすごくうれしく思うし、ちゃんと形になってよかったなと思っています。
鳥取の皆さんからも、連絡は来ましたか?
江戸川乱歩賞を受賞してニュースで取り上げられるようになってから、知り合いであるとか
友達からメール、LINE、メッセージがものすごくありました。特に中学校・高校ですね。中学校の友達は、割と米子でそのまま過ごしている生まれ故郷の米子にいる人がすごく多いので。すごくみんな喜んでくれて、うれしかった。
地元を舞台にした作品の執筆を通してふるさとに対する思いに変化はありましたか?
鳥取っていいなっていう思いは、「蒼天の鳥」を書いてみてよりすごく感じるようになって。本を読んで頂いて、鳥取を意識して貰えるととうれしいなと思います。
作品を実際に書く時に、割となるべく「鳥」という言葉を出そうと思って、
1ページに必ず "鳥” って書こうと思ったんです。千鳥であるとか、鳥取とか、
可能なかぎり「鳥」という漢字を入れようと思ってすごく努力はしました。笑)
今後、作品で描きたい舞台はありますか?
「蒼天の鳥」は、鳥取の東部のほうが出てくる話ですので、もし鳥取であれば今後は県西部、米子であったり境港だったり、あの弓ヶ浜、そこを舞台にして何かやりたいなっていうのはあります。次は西部やりたいな、みたいなのはあります。
鳥取愛を詰め込んだ“蒼天の鳥”
最後に鳥取のみなさんにメッセージをお願いします!
今回第69回江戸川乱歩賞を「蒼天の鳥」という小説で受賞をすることができました。
主役は田中古代子と田中千鳥という大正時代の親子です。
母と娘です。古代子と千鳥が、兇賊ジゴマと戦うミステリー小説です。
その2人についてもっともっと知ってもらいたいなっていうこともありますし。
“蒼天の鳥”には私の鳥取愛を詰め込みました。作品は、今生きている自分たちにも通じる
テーマになっていると思います。ぜひ感じて見てもらいたいと思います。