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ボクシング木下鈴花 アジア大会への秘策

パリオリンピック出場権がかかるリングへ
  • 2023年09月29日

ボクシング女子、米子市出身の木下鈴花選手
開催まで1年を切った来年のパリオリンピックの出場権をかけて、9月23日に中国・杭州で開幕したアジア大会に出場しています。
この階級では小柄な木下選手。リーチの長さを補うため、秘策を携えて大事なリングに挑みます。

世界との壁 “リーチの差”

軽やかなフットワーク。サウスポースタイルから繰り出す鋭い左ストレート。
22歳の木下選手はこれを武器に去年のアジア選手権で優勝。ことし3月の世界選手権で銅メダルを獲得しました。

しかし、世界と戦う上で、みずからのスタイルに限界を感じていました。
その理由は、海外選手とのリーチの違いです。

自分のスタイルじゃ全然通用しないなって、1ラウンド目の手合わせの瞬間からすぐ気付いたので。

ことし3月世界選手権 女子52キロ級準決勝
(写真提供:国際ボクシング協会)

世界選手権の準決勝、イタリアの選手に敗れた試合。
腕の長い相手にうまく距離をとられ、有効打を打つことができませんでした。

イタリアの長身選手に判定負け
(写真提供:国際ボクシング協会)

木下鈴花 選手
「相手は自分より圧倒的に身長も高くリーチも長かった。苦手意識を持ったまま試合に出てしまって、何もできないまま終わってしまった。課題がずっと残ったまま世界選手権に行ってしまったのが敗因だったのかなと」

肉体改造でスピードアップ

アジア大会ではさらに体格差のある相手と戦う可能性も。
オリンピックの実施階級に合わせて、これまでより2キロ重い54キロ級で出場するからです。
そこで必要と考えたのは、「スピード」のレベルアップです。

低い姿勢のまま両足を入れ替えるトレーニング
都内 ことし7月(写真提供:シュガーナックルボクシングジム米子)

そのため、励んでいるのが「肉体改造」です。
東京で専門のトレーナーのもと、下半身を中心に筋肉量を増やすトレーニングを続けてきました。
動きのキレを磨くことでリーチの差を補う狙いです。

下半身の筋力アップへ 自らを追い込む
都内 ことし7月(写真提供:シュガーナックルボクシングジム米子)

木下鈴花 選手
「体重が増えたけど、逆にステップワークがすごい楽になって、体を動かすスピードがまた速くなったと感じている。
相手の懐に入って、パンチを打たせて、フットワークでよけて、スピードでカウンターを打つという形につなげていけるんじゃないかな」

パンチを遠くに伸ばす“スイッチ”

そして、もう1つの秘策は。

私はサウスポーなんですけど、“オーソドックス”でも戦えるように。どのタイミングでもどの角度でもパンチが打てるように今、改善しています。

サウスポーから → 左足を前に オーソドックスにスイッチ

木下選手はふだんは右足が前、左足がうしろのサウスポースタイル。
そこから左足を前に出して「オーソドックススタイル」にスイッチ。

これを練習するよう提案したのが、中学生時代から指導を続けるジムの伊田会長。
より遠くに素早くパンチを繰り出すのが狙いだといいます。

シュガーナックルボクシングジム 伊田武志 会長
「間合いが遠いとき、2歩踏み込んでようやく届くところを、スイッチして踏み込めば、1発で届く。スイッチして追いかけた方が速い。
右でも左でも打てるようにして、スイッチで一気に距離を詰めたり、一気に下がったりするテクニックも覚えていこうと。リン(鈴花)の場合、それをできる運動神経を持っている」

オーソドックススタイルでサンドバッグを打つ

ボクシングを始めてからおよそ10年間、サウスポーで戦い続けてきた木下選手。
その感覚が体にしみついていたため、最初は、左右を逆にした「オーソドックススタイル」をなかなか自分のものにできませんでした。

違和感もすごいし。始めた頃はやっぱりうまくできなかったし、手応えも感じなくて。

伊田会長とスイッチの練習を繰り返す
左足を踏み込みながら左ジャブを伸ばす

練習では伊田会長とともに、スイッチからジャブを打つ動きを体になじませます。
半年間、練習を続けてきたことで、実戦でも使えるようになってきたと手応えを感じています。

ちょっとずつ慣れてきて、自然とオーソドックスでもパンチが打てるようになって、実際にそれが当たるので。いい武器になってるのかなと思います。

進化した姿を見せるとき

アジア大会へ向けて、どれほど成長できたのか。

ことし8月 米子

大会まで1か月となったこの日。スパーリングでは、海外の選手を想定して、自分より体格の大きな男子選手と拳を交えました。

リーチの長い男子選手とスパーリング
左右の足を入れ替え スイッチしながら間合いをはかり・・・
スイッチして繰り出した左ジャブがヒット

練習どおり、左足を鋭く踏み込み、スイッチして伸ばした左ジャブが、タイミング良く相手の顔面を捉えました。

今まで当たらなかったパンチが当たるようになったし、こうやってたまに帰省してここ(米子のジム)で練習したら“あれ、やりやすくなってる”って思うと、“あ、自分ちゃんと成長できてるのかな”って感じる。

夢の舞台への切符をつかむために。
課題と向き合い、進化した姿を見せるときです。

この半年間ずっと課題克服で練習してきたので、アジア大会でしっかりそれが出せたらいいかなと思います。
表彰台入りをすれば、オリンピックへのチケットが手に入るので、まずは表彰台入りを目標に。そして最終目標がオリンピックで金メダルを取ることなので、そこにしっかりつなげられるように頑張ります。

木下選手は9月24日に行われたアジア大会の初戦は、ネパールの選手に5-0の判定勝ち。
30日(土)の準々決勝でウズベキスタンの選手に勝てば、来年のパリオリンピックの出場権を獲得できます。

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