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デジタル化で授業革命!話し合いを可視化 鳴門市の小学校の取り組みとは?

点数化できない“非認知能力”を伸ばせ 徳島 鳴門
  • 2023年12月01日

子どもたちの話し合いをデジタル技術を使って分析。
コミュニケーション能力、粘り強さ、問題を解決する力などの、点数で表せない力を伸ばそうという取り組みが、徳島県鳴門市の公立の小学校で始まっています。
3年生の授業の様子を見せてもらいました。

話し合いを収録 リアルタイムで分析

小学校の児童たち
「かくれんぼがいいと思う!」
「サッカーがいいと思うよ」「ぼくも!」
「なんで?」「理由は?」
「楽しいから!」

訪ねたのは徳島県鳴門市にある公立の里浦小学校。
国語の時間、児童たちがグループに分かれて活発に意見を交わしています。その真ん中には卵のような形をした装置が置かれています。これで話し合いを記録しているのです

話し合いの音声を収録する装置

装置の中には小さなマイクが8つ入っていて、どの方向から音声が聞こえたかによって、どこに座った人が発言したかを区別します。そして参加者の発言の長さをもとにリアルタイムで分析されます。
発言の多さ(長さ)をあらわす「発話量」や、相づちなどの反応を示す「重なり量」、活発な議論のきっかけとなった度合いを示す「盛り上げ量」が参加者別に色分けされて示されます。

参加者別に発話量や盛り上げ量を可視化

だれとだれがどのくらい会話をしたかも、矢印の向きと太さで一目でわかります。

会話の関係が一目でわかる

児童の感想
「自分がどれだけしゃべっているのか分かるのが楽しい。」
「こんなに便利なものが世の中にあるんだなと思いました。」

数値で測ることのできない力を伸ばすために

話し合いを“見える化”するシステムは、教育現場のほか企業でも取り入れられていて、里浦小学校では、経済産業省の補助金を活用して9月に導入されました。
ICT(情報通信技術)を活用することで、コミュニケーション能力や粘り強さ、それに問題を見つけて解決する力など、これまで数値化できなかった非認知能力と呼ばれる力を伸ばす狙いがあります。

鳴門市里浦小学校 武知将人教頭
「本校でアンケートをしたところ、3人に1人が人前で話すのが苦手という回答をしました。コミュニケーション能力を育てることが全学年共通の課題だとわかったんです。
 テストをすれば点数が出るのですごくわかりやすいんですけど、こういう話し合いってどうしても評価するのはすごく難しいんです。何か違うアプローチができないかということで、しっかりデータに基づいて助言できるので、システムを使ってみようかなと今回導入しました。」

 

3年生の国語の授業

この日は3年生の国語の授業。学習の目当ては、「より良い話し合いにしよう。
4人のグループで話し合い、それを分析します。
話し合いのテーマは、1年生と遊ぶなら何をするか

「私はおにごっこがいいと思います。」
「おにごっこはこけたらケガするけど大丈夫なんですか?」

「なぜそんなに宝探しをやりたいと言うのですか?」
「私も宝探しが好きだし1年生も宝探しが好きそうだからです。」

約10分間の話し合いのあと、グループごとに結論とその理由を発表。
1人1台のタブレット端末で投票した結果、「おにごっこ」に決まりました。

データで話し合いを客観的に評価する

このあと、「話し合い」を振り返ります。
記録した音声を聞きながら分析データを見て、自分の目標が達成できたかどうか確認します。

グラフの山が高いほど話が活発。その部分の音声を再生して内容を確認できる

児童
「前よりはだいぶ増えた。会話量と重なり量と盛り上げ量が上がった。」


また、別の児童は今回、たくさん意見を言ったり友達の意見に相づちをしたりしたといいます。
前回のデータと比べてみると変化が一目でわかります。

重なり量(相づちなど)と盛り上げ量が増えた

児童
「前の話し合いよりも盛り上げ量と重なり量が増えました。」


さらに、別のグループで司会を担当した児童は、前回の話し合いの結果を踏まえ、同じグループの友達の発言を増やすことを目標にして取り組みました。

司会をした児童
「友達に質問をしました。友達の発話量が増えていました。うれしい。」

見える化することでわかること

ICTを活用して話し合いを「見える化」することで、これまで感覚で捉えていた課題を具体的につかむことができます。児童たちは変化を目で見て実感できるうえ、自身の課題を見つけ、次の目標を立てやすくなるといいます。

児童の感想
「自分のだけじゃなくてみんなの結果も見られて、わかった。」
「人から言われるとちょっと気になるけど、(データで示されると)これはそうなんかなってもっと思わせてくれるところがいい。」
「すごくわかりやすい。次はもっと盛り上げ量をあげたい。」

鳴門市里浦小学校 武知将人教頭
「教師のイメージとか先入観で話し合いのようすを評価するのでなく、データでちゃんと数字に基づいてっていう部分は大きいと思いますね。そのデータからどうしたらいいのかっていうのをちゃんと子どもたちに考えさせていく力も身につけさせたいと思っています。」

“よりよく生きていくために”ICTの活用を

里浦小学校の取り組みについて、教育のデジタル化に詳しい鳴門教育大学大学院の藤村裕一教授は次のように評価しています。

藤村裕一教授
「これまでは先生がほめてくれない限りは子どもたちが伸びた実感ができませんし、例えば40人学級だったとしたら、先生が40人1人1人にフィードバックできるかっていったら、とてもできなかったですね。ところが、このようなシステムを使うと1人1人が自分の今の姿、目指したい姿を意識して、そして頑張ったらここが伸びたよって、ちゃんとデータからわかって、ほめてもらった以上に証拠をもって自信を持てる、すごくいい仕組みだと思います。」

そのうえで藤村教授は、今、ICTを使って学校教育を支援することが強く求められていると指摘しています。 

藤村裕一教授
「今日本の教育に必要なのは、1人1人の子どもを価値ある存在だと認めて、その1人1人に応じた教育、子どもを主役にして自分の力でよりよく生きていけるという教育です。
画一的な一斉型授業で教師が教え込んでいると“指示待ち人間”しか育ちません。
 どんなに変化が激しくて、想定外のことに出会ったとしても、自ら問題発見して、仲間と力を合わせてよりよく問題解決できるような、そういった教育をする。そのためにICTの力もどんどん生かしながら最大限いい教育をすることが大事だと思っています。

 日本では江戸時代から読み書き(言語スキル)、そろばん(数量スキル)が基本と言われてきましたが、実は21世紀では、「情報スキル」も基礎学力の1つです。ICTを上手に使いこなして豊かな生活を築く力、仲間と協力して問題解決する力、生きる力を育てるために、教育にICTを入れているのです。」

里浦小学校のように新しいシステムを積極的に取り入れている学校がある一方で、1人1台タブレットをあまり活用していない学校もあります。
学校によってICT活用に差が出ていることについて、藤村教授は、次のように話しています。

藤村裕一教授
「やっぱり差があるのは良くないと思います。子どもたちは日本のどこに住んでも良い教育を受けられるべき。そのために、国は予算をちゃんとつけられるよう神経を使ってほしいと思いますし、学校も「○○のシステムが欲しい」などと声を上げてほしいと思います。さらには、先生方も一緒に頑張りましょう。研修をちゃんとして、これからの教育のあり方に積極的にチャレンジして1人1人の子どもたちのために頑張るということが必要です。」

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