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「不登校支援の格差をなくしたい」徳島出身 大学生の取り組みとは

  • 2023年11月21日

いま、学校へ行きづらい子どもたちが増えています。
昨年度、徳島県内の不登校の児童・生徒の数は10年前の実に2倍以上に。
一方で、子どもたちへの支援態勢は、都市部と地方では差があります。
こうした不登校支援の格差をなくすために取り組む大学生を取材しました。

徳島県内で増え続ける不登校

上のグラフは、徳島県内の不登校の児童・生徒の数です。
昨年度は、過去最多の1736人となり、10年前の実に2倍以上になりました。
内訳を見ると、これまで中学生が中心でしたが、小学生も年々増えています。

一方で、都市部と比べて、地方は不登校の子どもたちの受け皿が少なく、地域によって支援態勢に格差があります。
こうしたふるさとの現状を変えようと、大学生が子どもの居場所作りを始めています。

学校に行きづらい子どもたちに居場所を

徳島県南部の牟岐町は人口約4000人の小さな町です。
この町の廃校になった小学校に、毎週木曜日、子どもたちが集まります。

フリースペース「われもこう」

フリースペース「われもこう」は、学校に行きづらい子どもたちの居場所として、去年9月に開かれました。
現在は小学生から高校生までの約20人が利用しています。
代表を務めるのは、牟岐町出身の大学生、川邊笑さん(22)。
高校卒業後、進学した東京で不登校の子どもたちをめぐる都市部と地方の「格差」を感じたことが、活動のきっかけでした。

「われもこう」代表 川邊笑さん
※「邊」は1点しんにょう

川邊さん
もともと先生になろうと思っていて、ボランティアで学習支援を3年くらいしていたとき、学校に行けない子や、いじめられてる子、いろんな子どもに会った。
そうした子どもをサポートしていく機関は都市部には多いけど、地方には全然ないことに気づいた。

教員を目指して関東の大学で学ぶかたわら、ボランティアで子どもたちの学習支援を行っていた川邊さん。
さまざまな子どもたちと触れ合う中で、家庭と学校以外の居場所が大切だと感じるようになったといいます。

そして転機は20歳のときでした。
地元の牟岐町で開かれる成人式に出席するため、東京から戻ってくると、かつての同級生が不登校になって以降、家から出ることができず、式も欠席したことを知りました。
人口が少ない牟岐町とその隣町には、不登校に関する公的な支援センターはありませんでした。

こうした現状を変えようと、去年大学4年生になった川邊さんは1年休学して地元に戻り「われもこう」を立ち上げることを決めました。元小学校の校長など4人の元教員たちが、ボランティアで活動を支えています。

元教員たちがボランティアで活動を支える

寄り添う支援 地方ならではの強みも

文部科学省の調査によると、不登校のおよそ半数は無気力や不安など、理由や解決策をはっきり示すことが難しいものです。
「われもこう」に通う子どもたちも、学校の授業やクラスの人間関係になじめないなど、人によってさまざまな理由を抱えています。

中学の女子生徒
学校で忘れ物や遅刻をしてしまって、それが積み重なっていっぱいいっぱいになった。
ここはほとんど自由やし勉強とか無理にさせられんでいいから、すごく気持ちが楽で楽しい。

「われもこう」では、子ども自身のペースで考えて行動する力を養おうと、特定のカリキュラムは用意せず、1日の予定は子どもたち自身が立てるようにしています。
体育館で体を動かしたり、料理したりと、さまざまな体験活動ができます。

学習はスタッフがサポート

学校の宿題に取り組む時間も設け、教員免許を持つスタッフが学習をサポートしています。
学習状況や生活の変化は毎月、各学校に報告することで出席と同じ扱いになるよう学校と連携しています。

そして人口が少ない地域ならではの強みもあります。
子どもたちのなかには、気持ちの面から外に出られなかったり、保護者が仕事で送迎できなかったりと、「われもこう」に来ることができないケースも少なくありません。
川邊さんはそうした子どもたちの家を訪問しているのです

家庭訪問する川邊さん

川邊さん
人が怖いとか出て来にくいお子さんはずっと家にいるので、気持ちが一番しんどいんですよね。待っていてもなかなか来ないので、こちらからつながりに行くという感じです。

文部科学省の調査によると、全国の不登校の小中学生のうち、公的な支援センターに通っているのは1割ほどに過ぎません。民間も含め支援機関に相談できていない子どもも約4割に上り、不登校に悩む子どもや保護者がまずは支援機関とつながりを持てることが重要です。

その点、「われもこう」がある牟岐町は、隣の2つの町とあわせても不登校の小中学生が約20人。
都市部と比べると少なく地域のつながりも強いため、川邊さんたちは家庭訪問も含めた活動によって、約7割の子どもたちとつながりを持っているといいます

毎年綱渡り 課題は運営資金

一方、運営にかかる資金が課題となっています。
家庭環境にかかわらず来てもらえるよう、参加費を無料にしているため、資金繰りは楽ではありません。
自治体の補助金は、その地域に住む子どもにしか使えない制約などがあるため、近隣の自治体や高知県からも子どもが訪れる「われもこう」では、民間の補助金だけでやりくりしています。

川邊さん
お金の状況はとても厳しい。民間の補助金に申請をして通れば出るし、通らなければないという賭けみたいな感じ。
理想としては行政の委託が取れれば1番安定するが、そのためにも運営の実績を積み上げていかなければいけない。

 

地元のスーパーから無償で弁当をもらう

こうした厳しい運営を知った地元のスーパーが、子どもたちの給食代わりにと、毎週、弁当を無償で提供してくれています。
地域に支えられて、なんとか活動を続けてきました。

どの地域に生まれても、子どもが幸せに暮らせるように

「われもこう」の立ち上げから1年あまり、川邊さんたちスタッフが手応えを感じていることがあります。子どもたちが学校で参加できなかった文化祭をやろうと提案し、準備を進めているのです。

デザートのティラミスを試作

文化祭の内容や、そこで出すデザートはすべて自分たちで考えました。食べ物を試作し、看板や飾りづくりに熱中する子どもたちからは、自然と笑顔がこぼれるようになりました。

高校の女子生徒
文化祭は楽しみ。ここに通ってから結構周りから変わったねって言われることが増えました。

 

川邊さん
ここに来ている子どもたちは本当に可能性も力もあり見ていて面白いけど、この場所がなかったら行く場所が家しかない。
彼らの可能性が広がる場所がなかったと思うと、こういう場所はすごく大事なんだと感じている。
全国的に過疎地域は増えているので、ほかの地域でも展開できたり、真似できるようなモデルの取り組みにして広げていきたい。

編集後記

学校だけでフォローしきれない不登校の子どもたちへの支援は、川邊さんたちのような民間団体やボランティアが多くを担っているのが現状です。
どの地域に生まれても、子どもたちが幸せになれるように。そんな川邊さんの願いを不登校が増え続ける各地で実現するには、行政のいっそうの後押しが欠かせません。

フリースペース「われもこう」は、運営する一般社団法人「うみのこてらす」のホームページや公式SNSなどから連絡すれば利用できます。

  • 大橋 夏菜子

    徳島局・記者

    大橋 夏菜子

    2020年入局
    事件から環境・教育問題まで広く取材
    趣味はアウトドア
    県南最高!

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