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高齢化に後継者不足 コロナ“空白の3年”が防災に与えたもの

  • 2023年07月05日

新型コロナの5類移行でかつての日常が戻りつつある一方、私たちの命を守る地域の防災組織が思わぬ事態に直面しています。活動の縮小を余儀なくされた3年間の影響を取材しました。

4年ぶりの防災訓練 しかし参加者は…

4年ぶりの「避難まつり」に参加する人たち

ことし4月、徳島県南部の美波町由岐地区で、地域住民でつくる自主防災会が4年ぶりに防災訓練を開きました。南海トラフ巨大地震が起きると、最短で10分ほどで12メートルを超える津波が来ると想定されているこの地区では、住民主体の訓練や「避難まつり」と名付けられたイベントを定期的に行い、災害時に地域ぐるみで助け合う態勢作りを続けてきました。

この日は高台への避難訓練を行ったあと、避難所となる公民館で参加者がグループを作り協力しながら段ボールのベッドを組み立てたり、非常食を作って試食をしたりと、訓練に参加してもらうための工夫をこらしていました。

協力して段ボールベッドを組み立てる参加者

ところが、会場で取材してみると「いつもより参加者が少ない」という声も聞かれました。コロナ禍前は100人ほどだった参加者が、今回は70人ほどにとどまりました。人口およそ1000人の由岐地区では、住民の55%が65歳以上の高齢者です。主催した自主防災会の会長(当時)はコロナ禍によって活動の多くを諦めざるを得なかった「空白の3年」の影響を感じ取っていました。

自主防災会の酒井勝利会長(当時)
「コロナ禍でも訓練はしておかなければいけないと思っていたが、やっぱり皆さんが集まったときに感染したらいけない。かなり葛藤があったが、感染防止を優先して訓練を中止していた。
3年間やっていないことで、高齢者の中には今まで歩いて避難できていたのに坂や階段を登れないという人が出てきてしまったのだと思う」。

2011年の避難まつり(提供:西の地防災きずな会)

訓練が再開しても参加は難しくなったと話す地区の男性は、ここ3年間は感染防止に気を遣わなければならず外出の機会がすっかり減ったことを理由に挙げました。

参加が難しいと感じる男性

避難訓練があれば大概出てきたが、もうこの年になったら訓練もよう出んようになった。この3年間、外に出る機会が減って体が衰えてしまったことを一番先に感じる。

地区にとって防災訓練やイベントは多くの住民が外に出て一同に集まる数少ない機会でした。自主防災会の会合では、メンバーからこの3年間で住民の高齢化が加速した現状への懸念の声が挙がりました。

自主防災会の役員会
自主防災会のメンバー

訓練で避難場所に行っても、いつものメンバーがいなかった。毎年訓練をやるのと、何年かやってないのとでは、慣れというか、いつもやってることができないということがある。

自主防災会のメンバー

コロナ禍で横のつながりが希薄になって高齢化も進んだ。今回の訓練で「避難しようか」って言っても「もう年やけんいいわ」ということになったのではないか。

防災訓練の減少は各地で

徳島県内の自治体や地域の防災訓練実施数

由岐地区のケースを見ると地区の防災訓練は、高齢者にとって外出したり、近所とのつながりを深めたりする貴重な機会になっていたことがわかります。ところが消防庁の統計を見ると、2019年度に徳島県内で1年間に行われた防災訓練が報告されたものだけで1040回だったのに対し、コロナ禍が始まった2020年度はおよそ半数の535回、さらに2021年度は361回と大きく減少しました。全国でも同様の減少傾向で、まちの高齢化が加速し訓練の参加者が減ったという由岐地区のような状況は各地で起きている可能性があります。

防災活動の後継者不足にも影響

新型コロナは、これからの防災活動を担う後継者探しにも影響を与えています。

徳島市の津田新浜地区で活動する「津田新浜防災学習倶楽部」は、もともと防災学習をテーマにした中学校の部活動でしたが、顧問の教員が異動したため、3年前から地区の自主防災組織の青少年部として活動しています。メンバーの多くは中学の部活動を経験した高校生たち。津田新浜地区は防災活動の中心を若い世代が担うという、全国でも珍しい地区です。

しかしグループで部長と副部長を務める高校3年生の戎井さんと西さんは、後継者不足という課題に直面しています。

津田新浜防災学習俱楽部のメンバー
戎井さん

立ち上げメンバー以降、新入部員が入っていないんです。

この3年は新型コロナの影響で思うような活動ができず、中学生など自分たちより若い世代にグループの活動を知ってもらう活動が乏しかったといいます。 

西さん

地域の人と対面したり会ったりする活動を行ってきたので、ソーシャルディスタンスのためにメインの活動ができなかった。若い世代に私たちの活動を知られなくなってしまったのだと思う。

地域を歩くメンバーたち

大学進学を目指している戎井さんと西さんは、来年には県外に移り住む可能性があります。

後継者を確保し活動を続けられるよう、グループのメンバーはことし5月、4年ぶりに地区を回る意識調査の活動を再開しました。地区を1軒1軒訪ね、玄関口で防災意識に関する聞き取りを行う地道な作業です。ただアンケートを配り回収するだけではなく、対面で行うことでグループの存在を知ってもらい、若い世代を活動に巻き込む狙いがあります。

声をかけた別地区の中学生も一緒に活動

意識調査の結果を集計してみると明るい材料もありました。一次避難場所を知っているか尋ねる質問に対し、「知っている」と答えた人の割合がコロナ禍前より10%あまり増加するなど、地区の防災に対する関心自体は減っていないことがわかったのです。

行動制限のない今、グループは新たなメンバーを探すとともに、別の地域で防災活動に取り組む中学生にも声をかけて活動を次につなぐ考えです。

津田新浜防災学習俱楽部 部長 戎井光来さん
南海トラフ巨大地震が来るまで、仮に来てからもずっと「津田の防災」を引き継いで地域で被災する人が少なくなるようにしたい。

コロナで傷ついた市民のつながり 再構築を

新型コロナで加速した高齢化や、後継者不足という課題を前に地域防災をどう立て直せばいいのか。

防災の専門家は行動制限がなくなった今が地域の防災を立て直す重要な時期だと指摘します。

徳島大学 環境防災研究センター 上月康則教授

地域で防災に取り組む人からは、この3年間、実際にみんなで会って活動することが難しかったと聞いている。人と人とのつながりこそが安心感・防災力と言ってきたが、感染防止のため『離れなさい』となって防災を進める立場にとって厳しい時間だったと思う。
今は傷ついた市民のつながりや地域防災を再び回復させていく時期だ。新しいメンバーが増えるのはこの3年間、かなり難しかったと思うので、いっそうオンラインなどを使って呼びかけていくことが必要だ。

人と人の距離を遠ざけたウイルスは、防災に欠かせない地域のつながりにも大きな影響を与えました。以前よりウイルスの脅威が薄れ、さまざまな活動が再開しつつある今、地域の防災を見つめ直すチャンスなのかもしれません。

  • 大橋 夏菜子

    徳島局・記者

    大橋 夏菜子

    2020年入局
    事件から環境・教育問題まで広く取材
    趣味はアウトドア
    県南最高!

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