めざせ!徳島名産グルメ ご当地サーモンへの挑戦
- 2023年05月26日
寿司ネタで大人気のサーモン。このサーモンを県内で作ることはできないかと、ことし徳島県が養殖に乗り出しました。県内各地のノウハウを結集させた取り組みを追いました。
初出荷!徳島県産サツキマス
淡いサーモンピンクの刺身。先月、初めて出荷されたサーモンの一種、徳島県産のサツキマスです。
サーモンとは「生で食べられる養殖されたさけやますの仲間」のこと。サーモンといっても実は、海外から輸入されているアトランティックサーモンや、トラウトとも呼ばれるニジマス、東北で多く養殖されているギンザケなどさまざまな種類があります。近年サーモンは、寿司ネタなどで需要が高まっていて、全国各地で地域の特色を生かした“ご当地サーモン”の生産が盛んに行われているのです。
今回、徳島県が養殖したサツキマスもこの一種で、徳島の山あいの川に住むアメゴ(一般的にはアマゴと呼ばれる)から育てられました。
アメゴは川魚ですが、自然界では一部が海に下り、サツキマスになります。徳島県の取り組みは、この習性を生かして、アメゴを人工的に海水に慣らしてサツキマスにし、県産の“サーモン”を作ろうというものです。
県内の養殖アメゴに新たな活路を
背景には、県内のアメゴ養殖に新たな活路を見出したいという思いがありました。
アメゴは塩焼きや姿ずしなどで地域で親しまれ、料亭などでもおいしい川魚として人気です。アメゴの住む渓流が多い山間部の上勝町では、長年アメゴの養殖が続けられてきました。養殖業者によると最盛期の1990年代には、年間30トンほど生産されていたということです。
しかし、エサ代の高騰やアメゴの単価の低下で、いまでは生産量は3分の1ほどに減少しています。アメゴ養殖業者の岡本龍太さんの養殖場でも、1000匹ほどのアメゴが生けすで群れを作って泳いでいましたが、昔と比べて飼いにくくなったうえ、新型コロナウイルスの感染拡大も追い打ちをかけたと話します。
「そもそもの市場からの注文が、コロナ禍になる前より個数自体が減った。どうしても旅行に行く人が減ったりして、食べてもらえる量自体も減った」
どうやって海水へ?
県は、アメゴをサツキマスに養殖できれば新たな販路になると考え、プロジェクトを開始しました。課題は、淡水で暮らすアメゴをどうやって海水に慣らすかです。アメゴは一部が海に下る習性がありますが、すべてが海水に適応できるわけではありません。山にいるアメゴは体の色が黒っぽいものが多いですが、海に適応しやすいのは、体が銀色の“スモルト化”した個体だと言われています。
アメゴからサツキマスへの養殖は他の県でも行われてきましたが、専門家によると、スモルト化した個体でも人工的に海水に慣らす際に死んでしまう場合もあります。このため県は、スモルト化した個体を選別したあと、一気に海水に入れるのではなく、まず1月に海陽町にある施設に移し、海水の濃度が30%の水槽に入れました。
そして2週間かけて、海水の濃度を60%、100%と段階的に上げて慣らしていきました。時間をかけて慣らしたこともあり、運んできたアメゴのほとんどが海水に適応できました。
そして2月。鳴門の海の生けすへ移動させました。県が養殖を依頼したのは、鳴門で名物のたいやぶりを養殖している業者です。生けすのたいやぶりは、冬場は水温が下がってしまうため、温かい南の海に移動させています。この間、空いている生けすを活用することで、設備や養殖のノウハウも生かせるし、養殖業者の新たな収入源になると考えました。
待ちに待った初水揚げ
上勝町から海陽町、そして鳴門市の海へと、県内の養殖技術を結集させて生まれた県産のサツキマスは、4月下旬に初水揚げされました。海に入れてからおよそ3か月間でしたが、大きいもので体長およそ40センチ、重さ1キロほどになり、小さくて黒っぽかったアメゴと比べると一目瞭然です。
水揚げを祝って開かれた試食会には、これまで取り組みに関わってきた人たちも参加し、水揚げされたばかりのサツキマスに舌鼓を打ちました。
「甘みがあって本当にうまい。これは寿司ネタにいいな」「自分たちの魚がここまで大きくなってうれしい」
「上勝の業者さんから預かった魚を鳴門の北灘の海で大きくできて、皆さんに食べてもらえたというのは本当にうれしいかぎりです。冬に養殖をするのは初めての経験で、ことしは雪も雨も多くて、寒くてもうやめようかという日もあったんです。けれども魚のことを考えたら少しでもエサをやらないとと思い、休みも取らずがんばりました」
「やっぱり海水に慣らすっていうところで、いっぱい死んだりとかですね、不測の事態が起こるのではないかという不安があったが、そこも無事に乗り切って、実際に海で養殖して、無事1キロを超えるような大きな魚ができたというので、うまくいったのではないかと思っています。」
今後の課題も
初めての試験養殖で本格的な事業化に向けての課題も見つかりました。その一つが魚の大きさです。今回水揚げされたサツキマスは大きさにばらつきがあり、サーモンとしては小さい個体もありました。原因の1つは、上勝町で養殖されてきたアメゴが大きなサツキマスにすることを想定していなかったことが考えられます。事業化に向けては、大きく育ったサツキマスから採卵して、増やしていく必要があります。
専門家「いいサツキマス作って 世間を驚かせて」
水産研究・教育機構の専門家によると「ご当地サーモン」を養殖しているのは、5月時点で全国の113か所。その中でも徳島県の取り組みには可能性があるといいます。
「全体で養殖を始めて2%以内の減耗率、死亡率しかないというのは、今まで聞いた中ではかなり高い生残率(生き残った割合)だと思います。海で飼育するのに適したアメゴの系統を徳島県内の業者さんがお持ちだった。選抜育種などを取り入れて海水養殖に適した系統を作っていくことで、サイズの大型化が期待されると思います。サツキマスは非常に希少価値が高くて、肉質がいいことで、知る人ぞ知る魚だが、全国的に見て継続的に成功してちゃんと養殖できているっていう事例が非常に少ない魚です。徳島県でいいサツキマスを作って世に出すことで、ぜひ世間をあっと驚かせてほしい。」
養殖サツキマスを、徳島名産グルメに。挑戦はまだ始まったばかりです。