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13人で立った夢の舞台 センバツ高校野球 徳島 城東高校

  • 2023年03月27日

この春のセンバツ高校野球で、21世紀枠で初出場した徳島の城東高校野球部。
部員は今大会で最も少ない13人。その「13人で戦う」城東の象徴になったのは、女子マネージャーの存在でした。

史上初 甲子園で女子マネージャーがノック

3月22日、甲子園での城東の初戦。試合前の練習でグラウンドにユニフォーム姿で現れたのは女子マネージャー永野悠菜さん。ノックバットを持ってホームベースに走って行き、一礼すると、グラウンドに散った仲間たちにノックを打ったのです。多くの観客も見守るなか、2分間にわたって力強いフォームでしっかり打ち続けました。

以前、甲子園で女子部員は練習に参加できませんでしたが、去年の夏からノッカーにボールを渡す補助役をすることが認められ、ことしのセンバツからはノックを打つことも認められました。甲子園の試合前練習で女子部員がノックを打ったのはこれが初めてです。

部員が13人と少ないのを補うため、永野さんはふだんの練習からノックを打ってチームを支えています。そんな永野さんに本番でもノックを打たせてあげたい。学校の希望は受け入れられ、甲子園で初の女子部員によるノックが実現しました。

(甲子園でノックを打つ女子マネージャー永野悠菜さん)

試合は去年秋の東京都大会を制した東海大菅生との対戦となりました。城東は持ち味の機動力を生かした攻撃で先制。追いつかれた2回にもスクイズを決めて勝ち越し、序盤は城東ペースの展開に。しかし、3回に相手打線に逆転を許すと、追加点を奪えず2対5で敗れ、初戦突破はなりませんでした。それでも選手たちは甲子園という夢の舞台で守備で走塁で随所に光るプレーを見せました。

試合前の女子マネージャーのノックだけでなく、選手たちも強豪相手に一歩もひかず堂々とした戦いぶりを見せ、9回に最後の打者がアウトになるまで全力でプレーし続けました。その姿に、試合後スタンドの観客からは大きな拍手が送られていました。

(センバツの試合後 応援団にあいさつ)

不利な環境を乗り越え つかんだ甲子園への切符

城東高校は、徳島県内屈指の進学校。毎年60%の生徒が国公立の大学に進学します。

野球部は当初、軟式でスタートして、27年前に硬式野球部になりました。

マネージャー含め13人という部員数の少なさに加え、グラウンドも狭く、練習時間も限られ、強豪校に比べれば恵まれた環境ではありません。それでも、選手が自分たちで考え、工夫しながら練習に取り組んできました。

狭いグラウンドを一緒に使うほかの部活の選手たちにボールが当たってけがをしないよう、守備練習でテニスのボールとラケットを使ったり、打撃練習も校舎の片隅でバドミントンのシャトルを打ったり。人数不足を補うために、マネージャーの永野さんが練習でノックを打っているのもそうした工夫のひとつです。

そうした努力のすえ、去年秋の県大会で甲子園常連校と並んでベスト4まで勝ち進み、センバツの21世枠で選出されました。まさに全員で考えて、力を合わせてつかみ取った夢の舞台への切符でした。

(相談して練習メニューを決める)
(校舎の片隅でボールの代わりにバドミントンのシャトルを打って打撃練習)

“もう一度あの舞台に”

センバツでの戦いを終えた城東野球部のメンバーは、徳島に帰ってきました。

「もう一度あの舞台に立ちたい」。甲子園を経験した選手たちは夏に目を向けています。

副キャプテンの加統蒼眞選手は、練習中ひときわ大きな声を出し、一段と気合いが入っていました。

大会で加統選手は1番センターで出場。初回にチームの甲子園初ヒットを記録するなど、リードオフマンの役割をはたしました。守備でもみごとな送球でランナーをアウトにしてピンチを防ぎ、攻守でチームを引っ張りました。夏に向けて、さらに自分たちの野球に磨きをかけたいと力強く話します。

(副キャプテン 加統蒼眞 選手)

「どこの高校も城東が甲子園出たことで、対抗意識はあると思う。そこにしっかり向かっていけるように、練習からしっかりチームメートとお互いにプレッシャーかけあいながら、徳島県大会にしっかり備えていきたい」

甲子園の舞台 13人でひとつに

(練習でノックする永野さん)

女子部員として初めて甲子園でノッカーを務め、注目を集めたマネージャーの永野悠菜さん。チームのためにノックを始めたのは1年前でした。

「部員が少ない中で選手の練習時間を増やすために、自分にできることはないだろうか」

考えた結果、自分もノックできるようになろうと決めたのです。しかし運動部の経験が全くなく、むしろ運動は大の苦手。はじめは、バットにボールが当たらず・・・。素振りから始め、そのうちボールを打てるようになりました。

ひたすら打ち続けるうちに手はまめだらけになり、手や指の皮が裂けることもありました。それでもテーピングを巻いて、練習を続け1年。甲子園で見せたノックは堂々としたものでした。甲子園でのノックの自己採点は「もっとできていたときがあったので100点満点ではないけど、楽しかったので100点」と振り返っていました。

永野さん
「(みんなが)今までやってきたけん いけるよとか、頑張ってとか言ってくれました。最初はめっちゃ緊張しとったんですけど、始まったら全然緊張もせずに楽しめました」

永野さんが、甲子園でチームがひとつになったと実感した瞬間がありました。それは試合が始まる直前。

グラウンドで選手たちが気合いを入れるために円陣を組んでいましたが、ノックを終えた永野さんは記録員を務めるためベンチにいて、1人だけ離れていました。それに気づいた選手たちが全員でベンチ前に近寄って、永野さんの手を取り、13人で円陣を組んだのです。

永野さん 
「記録員はグラウンドに出たらだめで、みんなが円陣を組んでいるのをただ見てるだけで。1人で手を広げていました。そうしたら、選手が気づいてくれて。永野さんも入れるようにって、こっちに来てくれました。 
やっぱり城東高校の野球部は(自分も入れて)13人でひとつなんだなって思いました」

チームに欠かせないマネージャーのノック

(永野さんに感謝を伝える吉田優選手)

甲子園で好守備をみせたショートの吉田優選手は、「永野さんのノックのおかげ」と照れながら話しました。 吉田選手の守備が光ったのは7回。ランナー2塁のピンチで三遊間の深いところに打球が飛びますが、落ち着いてアウトにして無失点に抑えました。実は、試合前に受けた永野さんのノックで同じような打球があったことが好守備を引き出してくれたと感謝しています。

吉田選手 
「三遊間を抜ければ1点入るケースだったので、何としても止めてランナーを返さないってことを考えていました。あの永野さんのノックで、自信につながって緊張がほぐれて、いつもの自分が出せたのかなと思います。去年からノックを打ち続けてくれていたことが、自分も周囲も、成長につながっていると思います」

(新治良佑監督)

この1年、永野さんにノックを指導してきたのが新治良佑監督です。甲子園で永野さんがノックを打つ姿が、チームを甲子園の雰囲気にのまれないようにしてくれたと振り返ります。

新治監督 
「最初は緊張していたみたいでしたが、想像以上にちゃんとしたノックでした。私は上手なノックよりも、思いのこもったノックが大事だと思っています。それを甲子園で実現してくれて、球場全体が城東を応援するっていう雰囲気を、彼女が作ってくれたんかなと思います。 
彼女のノックは、僕たちが思っている以上に大きなことだと思います。ノックを打つ彼女の強さが見えたあの時間は、本当にすてきな時間でした」

約束を果たすため 夏は勝ちたい

(甲子園の土を分ける永野さん)

選手たちが初めて踏みしめた甲子園の土は小分けにして選手や野球部を支えてくれた人たちに渡すことにしました。永野さんがひとつひとつ容器に土を分けて詰めて、選手たちに手渡しました。

永野さんには、キャプテンの森本凱斗選手が、「ノックありがとう」と声をかけて甲子園の土を贈りました。

永野さんが野球部のマネージャーになったきっかけは、幼なじみの森本キャプテンでした。

「甲子園につれていくけん、入ってくれん?」

そう言って野球部に誘ったそう。森本キャプテンは「やると決めたら最後までやってくれる人だと知っていたので声をかけた」と振り返ります。その信頼に永野さんも応え、今ではチームを支える存在になりました。

森本キャプテンも有言実行でセンバツ出場までチームを牽引。試合でもキャッチャーとして盗塁を何度も阻止、積極的な走塁で勝ち越し点のホームを踏みました。

夢だった甲子園でプレーし、「夏にもう一度甲子園に帰ってきて野球がしたい」という思いを強くしているだけでなく、もうひとつ目標があると言います。

森本キャプテン
「甲子園でプレーできたのは、本当に夢の時間でした。絶対人生の大きな財産になると思うし、もう1度あの舞台に戻りたいって全員思っています。今回は21世紀枠で推薦していただいての出場で、永野さんを甲子園に連れて行くという夢はかなえられたけれど、野球部に誘った時に言ったのは“夏の大会に勝って連れて行く“ということだったので、当時の思いをもう一度思い出して。徳島大会は強いチームも多いですけど、しっかり勝ちきって、もう1回約束を守りたいと思います」

取材後記

取材を通して強く印象に残ったのは、部員ひとりひとりが、「チームのために自分に何ができるか」を常に考えている姿でした。少人数だからできないことも多い一方で、人数が少ないからこそ全員で思いをひとつにして、甲子園の大舞台でもふだん通りのプレーをみせることができました。

甲子園でスタンドから大きな拍手と歓声が送られていたのを見ても、センバツ出場校にふさわしいチームだったとあらためて感じましたし、観戦した人たちにもそのことが伝わっていたと思います。

野球の盛んな徳島は、甲子園での優勝経験もある強豪校が名を連ね、夏の県大会は激戦が予想されます。

全国の舞台を経験した城東野球部がどんな成長を見せてくれるのか、取材するのが楽しみです。

  • 平安 大祐

    徳島局・記者

    平安 大祐

    元高校球児
    スポーツ・防災の取材を担当
    野球・バスケの観戦が週末の楽しみ

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