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徳島の命を伝える 靴職人のトップランナーが目指すもの

  • 2023年04月21日

数々のブランドに携わり日本を代表する靴職人が今、徳島でユニークな靴作りを始めています。猟師が捕獲した野生動物の皮を使い、持てる技術を惜しみなく注いだ靴で目指すのは、故郷・徳島に広がる命を伝えることでした。

徳島市出身の五宝賢太郎さんは埼玉と東京に店を構える靴職人です。海外の名だたる老舗ブランドから最近は有名スポーツブランドまで数々の靴作りを手がけ、日本を代表する靴職人の1人と評価されています。

五宝さんが作った黒いスニーカーは徳島で捕獲されたシカの革をベースに、表面には徳島の伝統工芸品の阿波和紙を使ったデザインをあしらっています。

長年、生活を豊かにする道具としての靴作りにこだわってきました五宝さん。40歳を間近に控えた今、技術と経験すべてを注ぎ込んで故郷の徳島を表現する靴作りに挑みたいと考えるようになったといいます。

(五宝賢太郎さん)
「徳島の素材で靴をつくることができれば、プロフェッショナルとしての1つのラインだという思いがありました。自分の培ってきた経験と技術を将来、徳島に還元できたらという思いを靴にしようと考えました」

(大杉隼平さん)
(家形智史さん)

靴作りは2人の仲間とともに行いました。五宝さんの知人で写真家の大杉隼平さんと、わな猟師の家形智史さんです。徳島の原風景を撮影して回る大杉さんから、農作物の被害を引き起こす野生動物を捕獲している家形さんを紹介されました。家形さんがイノシシやシカなどの皮の使いみちに困っていると知り、その皮で靴を作ることにしたのです。

五宝さんも野生動物の捕獲に同行し、猟師の家形さんの地元で海と山に囲まれた徳島県南部の牟岐町に向かいました。家形さんは「フィールドサイン」と呼ばれる足跡や糞などの痕跡を見極めて、野生動物の通り道に罠を仕掛けます。

捕獲するのは山奥の動物ではなく、あくまで農作物の被害を起こす動物だけ。しかし人里に下りてくる多くは、山奥でえさを確保できないほど弱い動物や、人間のことを知らない若い動物だといいます。日頃からそうした動物と向き合う家形さんは、わなにかかった動物をひもや粘着テープで「生け捕り」にしています。その場で駆除する場合と比べて、高い技術と経験、体力が必要ですが、この手法にこだわっているといいます。

(家形智史さん)
「動物に対してやっぱり駆除するだけじゃなく思いをもって捕獲している。命を扱っている猟師としてはそこまで考えてあげるのが大事じゃないかな。動物も生きるために山から下りてきて農作物被害をおこしているけど生きるために必死なんです。そこはくんであげたい」

同行した五宝さんも、わなにかかったイノシシを家形さんが捕獲する様子を真剣なまなざしで見つめていました。このとき胸の中に湧き出たのは、命をもらって靴を作ることの重み、そして感謝でした。

(五宝賢太郎さん)
「本当に泣きそうになりました。家形さんが命とちゃんと向き合った時の謙虚さに感動しました。本当にありがとう」

家形さんが捕獲したシカやイノシシなどの皮を託された五宝さんは、一枚一枚、厚みや質感が違う素材を靴に仕上げていきます。

獲物を大切に扱う猟師の思いを受け止めながら、これまで培った技術を靴に込める五宝さん。余った革もパッチワークのようにつなぎ合わせ、のれんなどの製品に使うことですべて使い切りました。

(五宝賢太郎さん)
「これが徳島県産のイノシシだから、シカだからいい革だという話じゃない。命を奪っていることに責任を持つという思いは、毎日毎日靴を作る上で頭に残ると思います。こうした背景を知ってもらって、その先は骨董品ではなく、それぞれの生活に入って玄関の真ん中で脱ぎ履きされるような靴が一番いい靴だと思います」

靴職人と猟師、そして写真家は3人で靴のブランドを設立し、2023年6月から徳島市東船場の新たな店舗でオーダーメイドによる販売を始めます。3人が交わりできあがった1足の靴には、履く人が徳島へと思いをはせるような力が宿るのかもしれません。

動画はこちらから

 

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