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巨大地震に備えろ 街まるごとフェーズフリーで持続可能な防災

  • 2023年02月08日

フェーズフリーという言葉を知っていますか? 
フェーズは「局面」の意味。日常と災害時の局面をなくす=フェーズをフリーにして、ふだんの生活のなかで使うものを防災にも役立てていこうという考え方です。徳島県でも大きな被害が想定されている南海トラフ巨大地震に備えるために、このフェーズフリーの考え方が注目されています。
“備えない防災”とも呼ばれるフェーズフリーに、地域をあげて取り組んでいるのが鳴門市です。

“ふだん使いを災害時にも” 子どもたちも考える

これ何だと思いますか・・・?

鳴門市第一中学校の生徒たちが考案した“靴底を取り外しできる上履き”なんです。靴底が磁石でつけられるようにすれば、地震が起きて外に避難するとき、靴を履き替えなくても避難できるというユニークなアイデア。

考えた生徒は、「避難訓練で、上靴のまま外に出るときに汚れるのが嫌で、素早く上靴から外靴になったら便利だなという考えから作りました」と話してくれました。ふだん使っている物をひと工夫で災害時にも使えるようにという発想です。

鳴門市では子どものころから防災の知識やスキルを自然に身につけてもらおうと、フェーズフリーを取り入れた教育が進められています。

学校で開かれたフェーズフリー商品のアイデア発表会では、ほかにも、“寝ていて災害にあった場合に助けを呼ぶ笛が付いた置き時計”とか“ペットボトルを利用して作った照明”など、「なるほど!」と思わされる個性的なアイデアが生徒たちからどんどん出されていました。

中学校の教員

もうすぐ南海トラフ巨大地震が起きると言われている中で、少しでも“もしも”を考えてもらって、いざというときに対応できる力、困ったときを想像できる力を身につけてもらえたらと思います。

人気の「道の駅」も“持続可能な防災”

こちらは去年4月にオープンした鳴門市の道の駅「くるくるなると」

地元特産のグルメが味わえるとともに、子どもたちが遊べる遊具も整備され、週末になれば、たくさんの家族連れや観光客でにぎわう人気スポットです。

海に面した鳴門市の津波避難場所に指定され、いつ地震が起きても逃げられるように24時間開放されています。ここにもフェーズフリーの考え方が取り入れられています。

例えば、写真に写っている緑の坂。ゆるやかなスロープになっています。道の駅を訪れた親子連れなどがそりで滑り降りて遊ぶ場所ですが、地震が起きて津波から逃げるときは、高齢者や車椅子の人が登って高い所まで避難しやすくなっているんです。ふだんは遊び場、いざとなったら避難路という考え方で作られています。

備えているのは施設の建物だけではありません。

売り場の棚には、特産のさつまいも「なると金時」を使ったスイーツや海の幸がぎっしり。約2500種類の商品が販売されています。災害時の避難生活のためには食料や水の備蓄が必要ですが、これだけの量の食料を災害時のためだけに備蓄するとなれば、消費期限切れのものを入れ替えなければならず費用がかかります。そこで、商品を“備蓄食料”と考えれば・・・。こちらでは災害時に1000人の避難者が3日間、生活できるそうです。

防災のためだけに無理をして備えないことが、“持続可能な防災”につながるという発想です。

鳴門市はほかにも、市内の登山情報を載せた地図をハザードマップ(災害想定地区や避難場所を記した地図)としても使えるようにしています。

鳴門市戦略企画課 𠮷川慎太郎さん
「フェーズ(局面)を分けて対応するのではなく、平常時もやっている中で少し工夫することによって、命を守ったり、防災対策をしたり、それが地域の賑わいにもつながっているみたいなまちづくりですね。ハード・ソフト両面で市全体として取り組んでいけたらと思います」

フェーズフリーが街を豊かにも

フェーズフリーを提唱して全国で普及に取り組んでいる団体の代表も、鳴門市の取り組みは、ほかの地域に参考になると評価しています。

「フェーズフリー協会」佐藤唯行 代表理事
「鳴門市は危機管理の予算だけでなく、教育や福祉の予算、街を豊かにする政策が災害時にも役立つというフェーズフリーを実行している。ほかの自治体でも、一般市民から、行政、学校といろんなレベルでフェーズフリーを取り入れることで、災害への対応という問題が解決できるのでは」

取材後記

いつ起きるか分からない南海トラフ巨大地震。大切な命を守るために徳島でもいろいろ備えを続けなければいけませんが、労力も費用もかかって本当に大変です。その備える大変さを軽減してくれるのがフェーズフリーです。

「無理はせず、ふだん使っている物が災害時にも役立ってくれればいいよね」という考え方であれば、取り組みやすいですし、続けられると感じました。日常生活のなかで防災への意識も自然に高めてくれます。

鳴門市だけでなく、県南部の地域でもフェーズフリーの取り組みを始めようという動きもあります。
この新しい防災のあり方が徳島でどう広がっていくのか、取材を続けていきたいと思います。

  • 永橋 あずさ

    徳島局・記者

    永橋 あずさ

    2022年入局
    徳島生まれ東京育ち
    ”ふるさと”徳島で取材に奮闘中

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