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“何もない”キャンプ場 人気の訳は

  • 2022年11月15日

徳島が誇る日本最長87.7キロの林道「剣山スーパー林道」。急カーブが続く道をひたすら進んだ先にある“何もない”キャンプ場が今、静かな人気を呼んでいます。空き地にトイレと水場を置いただけの場所に、なぜ人は引き寄せられるのか。そこには何もないことで生まれる価値がありました。

“何もない”キャンプ場

徳島県上勝町から那賀町木頭まで続く87.7キロの林道「剣山スーパー林道」は全国最長の林道で、標高600メートルを超える沿道では紅葉や渓谷の絶景を楽しむことができます(12月~3月末は冬期通行止め)。道沿いにある「いくみキャンプ場」は県内外から多くの人が訪れるキャンプ場として今、静かな人気を呼んでいます。1日に3組限定で1人1000円という手頃さもあって、オープンから1年で150人以上が訪れ、週末は予約がとれない日も多いといいます。

このキャンプ場の売りは「何もないこと」

整地していない敷地はいたるところにゴツゴツした岩やくぼみがあり、設備といえば地元の人たちが作ったトイレと水場だけです。利用するキャンパーはここで好きな場所にテントを張り、思い思いの時間を過ごします。

キャンプ場の水場はここ1つだけ

キャンプ場を運営する石本耕資さんは地元・上勝町出身の写真家で、7年前からは実家の商店があった場所で喫茶店も営んでいます。近所の住民から「にぎわいが生まれるように何かをしてほしい」と相談され、実家が所有する山奥の遊休地にキャンプ場をオープンしました。

運営する石本耕資さん

オープン当初は設備が乏しいキャンプ場が受け入れられるのか不安もあった石本さん。ところが利用客に話を聞いてみると、むしろ“何もない”ことが新たな価値を生んでいることに気づきました。

(石本耕資さん)
「ここに来るのは本当にひとりになりたいとか、大きなキャンプ場が苦手という人が多いですね。設備もこれで十分みたいで、帰り際には『ひとりぼっちになれました』と言われます。ひとりぼっちになりたい人が多いんだと思いました」

ひとりで過ごすかけがえのない時間

キャンプ場には街灯などの明かりがなく夜は真っ暗になります。満天の星空のもとで川のせせらぎと虫の音を聞きながら過ごす夜は、都会で味わうことができない時間です。6月ごろには蛍を間近で楽しめるということで、写真家でもある石本さんがそのときの写真を見せてくれました。

石本さんが撮影したキャンプ場の蛍

ランタンの明かりをともしたテントのすぐそばで、花火のように鮮やかな光を放つ蛍たち。これほどの光景をひとり静かに眺めることができるのは、ほかの観光名所にはない、ここだけのぜいたくだといいます。

石本さんが制作しているキャンプ場のホームページ

石本さんがキャンプ場のホームページやSNSで四季折々の写真を発信すると、「ひとりぼっちの時間を楽しめる」と評判が広がるようになりました。

過疎の地域が秘めた可能性

反響に手応えを感じた石本さんは、今、新たなキャンプ場を増やそうと動き始めています。目をつけたのが石本さんの実家が所有する「畑」です。ここでは「ゆこう」という柑橘類を無農薬で作っていて、キャンプ場としても安心して過ごせるといいます。

ゆこう畑を手入れする石本さん

(石本耕資さん) 
「柑橘類はそのまま植えておいて、木と木の間にそのままテントを張っていただく形ですね。ここはゆこう畑ですが、使われなくなった畑はたくさんあると思います。その活用方法としてキャンプ場はおもしろいと思います」

空き地や畑だけでなく、その土地ならではの魅力を生かしたキャンプ場が増えれば、過疎の地域にも賑わいが生まれるのではないか。石本さんは「ひとりぼっち」になれるキャンプ場の可能性をそう話します。

(石本耕資さん) 
「何もない場所に、自分だけの時間を過ごせるという価値を作り出している感じです。全国には使われていない遊休地はたくさんあるので、少人数のキャンプ場として活用すれば人が来てくれます。キャンプ場を訪れるのは『ひとりぼっち』になりたい人たちかもしれませんが、週末だけでも少しにぎやかになるのはいいことだと思います」

  • 徳島局・ディレクター

    森川 雄一郎

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