凡人から超人へ パリ五輪にかける思いとは
- 2024年04月09日
レスリングの男子グレコローマンスタイル77キロ級で、パリオリンピック出場を決めた選手がいます。高松市出身の日下尚選手です。
みずからを「才能はほかの人よりない方だと思う」と話す日下選手。オリンピック内定までの道は決して平坦ではなく、練習をこつこつと積み上げてきました。一方、映画「スパイダーマン」を見て「スパイダーマン」のようになりたいと話すお茶目な一面も。
オリンピックで「超人」を目指す、日下選手の姿を追いました。
日下選手の魅力とは
「バン!!!」練習場に響き渡るマットに豪快に投げ飛ばす音。
23歳の日下尚選手です。
神戸の企業に所属しながら、神奈川にある母校の大学を拠点に練習に取り組んでいます。
去年の世界選手権では香川出身のレスリング選手として初めてのオリンピック出場を決めました。
オリンピック出場のために小学校からずっと練習してきたので、
決めたときの気持ちは最高でした!
「全体練習で頑張るのは当たり前」と、激しい練習に打ち込む日下選手。およそ2時間のレスリングの練習に加え、ランニングやウェイトトレーニングなどもほぼ毎日こなしています。練習の終わりにはいつもくたくたになると話す日下選手、自分自身のことをどのように思っているのか聞くと・・・。
自分のことは「凡人」だと思っています。
出てきたのはまるで正反対の言葉、なぜ自身を凡人だと思っているのでしょうか。
幼い頃の日下選手
日下選手は3歳からレスリングを始めました。週の半分以上を練習に費やすなどレスリングにのめり込んでいきます。しかし小・中学校で目立った成績を残すことはできず、レスリングが好きではなかった時期もあったといいます。
才能はほかの人よりかはないと思っています。
ほかの人たちを見て、めっちゃセンスあるなあって多少うらやましくなったりはします。
転機となったのは高校時代。高松北高校レスリング部の竹下敬監督からの言葉が励みになったといいます。
『才能は努力で超えられる』って、ずっと指導されていました。
普通の全体練習するのは当たり前。そのほかで頑張らないとその人たちよりも強くなれないっていうのはずっと言われていました。
自分の強みは何か。その答えが小学校からおよそ5年間習っていた「相撲」にありました。
相手を押してじらす、自分のペースに持って行って戦えなくする、そしてとにかく前に出る。
派手な技はできないものの、これが自分の持ち味だと話す日下選手は、相撲で培った足腰の強さを生かし、今の「前に出るレスリング」を形成していきました。
訪れた転機
高校に入り徐々に結果がでてきた日下選手。2年生のときに出場した17歳以下の世界選手権で5位に入るなど、練習の成果が表れてきました。
その一方で・・・。
ちょっと勘違いしてしまったじゃないですけど、
調子に乗ってしまう自分がいて・・・。
そんな日下選手が精神面で成長するきっかけとなったのが世界選手権から1か月後の国体。
結果はまさかの1回戦敗退でした。
その数日後、自戒を込めて「丸刈り」に。レスリングとの向き合い方を考え直したといいます。
ちょっと鼻伸びてたところをおってくれた。
練習を続ける、ひたむきに努力し続けるっていうことを本当に学んだ。
竹下監督に「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と常に教えられたという日下選手。全体での練習が終わっても自分は残って人がいないときに練習する、これが現在にも生かされ、さらに日下選手を強くしています。
日下選手の素顔とは
日下選手は、栄養を管理するため、毎日自炊をしています。この日のメニューは野菜炒めです。
中身はキャベツと豚肉、パプリカとかです。
実はこの具材にも日下選手を強くする秘密が。
トレーニングしている人は鶏肉食べる人が多いと思うんですけど、疲労の回復の効果も期待できる豚肉を選んでいます。
パプリカはカリウムがむくみを取る効果のカリウムが入っています。自分は体がむくみやすいので食べるようにしています。
練習後、「お酒が飲みたい!」「大好きな甘い物が食べたい!」と思う日もあるといいますが、それはぐっと我慢。すべてはオリンピックの金メダルのためです。
すべてをストイックに取り組む日下選手、周りの選手からは・・・。
いつもしゃべっていて本当にいい子だとおもう。
でもレスリングに対してはすごい気持ちが入っていて、オンとオフがしっかりしてる子だなと思います。
先輩だけど負けたくない人であるし、一緒に頑張りたいって思える先輩です。
五輪で夢の金へ
この日、拠点とする練習場に日下選手の姿がありました。
日下選手が苦しそうにうめく声、それもそのはず相手は体重が15キロ以上重い監督。
アジア大会優勝、全日本選手権で10連覇の経験がある「レジェンド」です。
体格が大きい方が有利とも言われるレスリング。
外国人選手にパワー負けしないための特訓を重ねています。
僕の特集ですか?
本当にきついっす。こんなボコボコにやられることないんで、めちゃくちゃいい練習になります。強すぎます、化け物です・・・。
練習も、私生活も、すべてはレスリングのために。
ことしのパリで、夢の舞台に挑戦します。
そんな日下選手の目標は・・。
「金メダルをつかみ取る」。
今まで自分のことを凡人って言っていました。
そういう人生を変えられる憧れの景色っていうのを努力でつかみ取って、香川県の人たちに夢や希望を与えたいです。パリで優勝して『超人』になりたいです。
最近の日下選手は
4月に開かれるアジア選手権や6月にハンガリーである大会に向けて練習を続けているという日下選手。オリンピックのシード権を獲得し、本番でより優位な形で戦いたいと話しています。
オリンピックで最終的に信じられるのは自分自身だと思っているので、やれることすべてを尽くしたいです。
取材後記
自分の性格の強みは「ど根性」だと話す日下選手。
今回、日下選手を取材して感じたことは、難しいことでも頑張り続ければ夢は叶えられるかもしれないということです。たとえ自分がほかの人より才能がないとしても、努力で超えられるかもしれないということに勇気をもらいました。これはスポーツだけに関わらないと思います。
日下選手が金メダルを獲得すれば日本のグレコローマンスタイルの選手として40年ぶりの快挙となります。「凡人」から「超人」への飛躍になるか、注目したいです。