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浸水想定区域でなくても注意 安全な川はない!香川の川の防災

  • 2023年07月21日

「ハザードマップを確認しておけば大丈夫!」と思っていませんか?

しかし、そこには大きな落とし穴があります。毎年のように各地で豪雨災害が発生していますが、その中には浸水想定が周知されていなかった河川での氾濫被害もあとをたちません。こうした状況は香川県内でも同じ。被害を最小限に抑えようと取り組みが進む現場を取材しました。

浸水想定ない小規模河川で“誤解”

2023年6月に和歌山県を襲った大雨

ことし6月、記録的な大雨に襲われた和歌山県。線状降水帯が発生し10の川が氾濫しました。

和歌山県・真国川の氾濫発生か所

×印で示したのが川が氾濫した場所です。支流の真国川は、ピンク色の浸水想定エリアが示されていません。しかし、多くの地点で氾濫が発生していることが分かります。こうした浸水想定が示されない支流の川での氾濫は、平成30年の西日本豪雨や令和元年の台風19号の際にも発生しました。

では、浸水想定はどういう河川で作られるのでしょうか。

国は当初、流域面積が大きく甚大な損害を及ぼすおそれがある河川などを「洪水予報河川」「水位周知河川」と定めて作成の対象にしましたが、その支流や小規模な河川は、いわば後回しにされ、作成の対象に入っていませんでした。

でも、どうでしょう。お住まいの地域で浸水想定が作られずハザードマップに色が塗られていなければ、「ここは安全だ」と思ってしまいませんか?これは、大きな誤解なのです。

近年、ハザードマップの重要性が認知され始めたことや、作成されていない地域での浸水被害が相次いで発生したことなどを踏まえ、国は中小河川でも浸水想定を作成するよう対象を拡大。

香川県はいま、これまで対象外だった支流などの中小河川についても、浸水想定を作っています。浸水想定が作られている河川は2年前の15河川から55河川に増えています。(令和5年6月時点)

県は、すべての二級河川にあたる291の中小河川で浸水想定を公表することにしていますが、出そろうのはいまから2年後の令和7年度の予定です。

さぬき市の津田川支流で対照的な川を発見

さぬき市を流れる津田川の支流・栴檀川

こうした現場を実際に訪ねてみました。まず向かったのは、さぬき市南部を流れる津田川の支流の栴檀川。ふだんは水の量が少なく流れも穏やかですが、過去に大雨で増水し被害をもたらしてきた川です。

2004年10月の台風23号の被害 栴檀川上流

平成16年の台風23号では、流れ込んだ土砂で川の水がせき止められ土石流が発生。下流でも水があふれ周辺の住宅が浸水しました。川の近くに住む人たちに聞いてみると、「地面から50~60センチほど浸水した」とか「夜だったら逃げることができないのでやっぱり怖い」などと不安の声が聞かれました。

過去の浸水想定区域図は津田川のみ表示

この栴檀川、当初は浸水想定の対象ではなく、ハザードマップで川の周囲に色は塗られていませんでした。

栴檀川が加わった浸水想定区域図(2022年5月公表)

去年5月に新しく公表されたものでは、広い範囲で最大3メートルの深さで浸水するとされ、栴檀川の危険性がようやく地図上でも明示されることになりました。

一方、同じ津田川の支流の爛川では、新たに浸水想定を作ることになってはいますが、現時点(令和5年6月)ではまだできあがっていません。ハザードマップでは川の周辺に色は塗られず、一見すると安全な場所のように見えてしまいます。

2004年台風23号の被害 爛川

しかし、この爛川も平成16年の台風23号で水があふれ、周辺の道路を削り取るなどの大きな被害をもたらしていました。

爛川沿いの自主防災組織で会長を務める齋藤弘さんに話をききました。

齋藤さん

竹やぶは全部えぐられたしアスファルトの道もえぐられて落ちていたんです。それを見て初めて恐怖を感じましたね。そういう地域に住んでいるんだって初めて実感しました。

この経験をきっかけに、浸水想定がなくてもみずからできることを始めようと動き出した齋藤さん。大学などの協力を得て、川の2か所にカメラと水位計を設置し、地域の人がそのデータをいつでも確認できるようにしました。

過去の被害状況を記した地図

さらに、川沿いの住民から話を聞いて、過去の被害の状況を記した地図を作成。集落の全世帯に配布しました。自分たちが住む地域ならではの情報を集めて避難に生かしたいと考えています。

齋藤さん

どのタイミングでなら安全なうちに避難できるかという避難スイッチを入れるタイミングを検証するためにずっと記録して残しています。

どうやって確認したらいいの?浸水想定ない地域では

大雨のとき、まずどうすればいいのか。災害時の避難行動について研究を行っている専門家は、それぞれの地域に即した情報を集めることが重要だと指摘します。

静岡大学防災総合センター 牛山素行教授

『まとまった雨だ』という目安は地域によって数倍違います。例えば、ふだんから雨が多い高知県で400ミリの雨が降る場合よりも、ふだん雨が少ない香川県で300ミリの雨が降るほうが災害は起きやすいんです。各地で大雨が降ったときに雨量だけで比べると、香川県は雨量としては少なく、一見するとほかより危険性も少ないように思ってしまいがちですが、瀬戸内海側はふだん日本の中でも一番雨が降らないところなので、ふだんより多く雨が降れば大きな災害が発生することは大いにあり得ます。

「洪水キキクル」気象庁HPより

その上で、自分の住む町の危険度を簡単に確認できる情報を得るために気象庁の「キキクル」を活用してほしいと呼びかけています。

「キキクル」では、洪水、浸水、土砂災害について、5段階で危険度を表しています。
▼赤は、高齢者などの避難が必要なレベルに相当。
▼紫は、浸水が想定される地域の人全員の避難が必要なレベルに相当します。
▼黒は、すでに災害が発生しているおそれがあるという状況です。

牛山教授

キキクルは単に量的にたくさん雨が降っているのがどこなのかを示しているのではなくて、地域ごとの危険性を考慮した情報提示ができるようになっています。こういう情報を見ることの重要性は、香川県がほかの地域よりもひときわ高いといってもいいかもしれません。安全で氾濫しない川は存在しないと考えていただくといいと思います。

浸水想定のあるなしにかかわらず、大雨が降ったら、まずは「キキクル」などでお住まいの地域の情報を集めることが重要です。

  • 山本 陶子

    高松放送局 記者

    山本 陶子

    岡山県のケーブルテレビ勤務を経て、2023年入局。行政担当。西日本豪雨を経験して以来、防災減災などをテーマに取材を続ける。

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