子育ての常識は時代とともに変化します。そのため、祖父母とパパママの意見が食い違うことってありますよね。でも、経験に裏打ちされたアドバイスには役立つことも多いんです。おばあちゃんたちの意見を、専門家と一緒に聞いていきます。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学学長 発達心理学)

ママの子育て、おばあちゃんの孫育て、お互いどういうスタンスをとればいいの?

違うことをおもしろがろう

回答:大日向雅美さん

子育てというのは時代や社会を映す鏡です。ですので、違って当然と思うことが大切です。
どちらが絶対的に正しい・間違いということは少なく、むしろ違いをおもしろがって、お互い話し合っていきましょう。


昔と今ではやり方が違う! どう伝えればいい?

子育てに関する情報は日々変化しています。アンケートで多く寄せられた、子育て常識の「昔」と「今」の違いを紹介します。

【授乳について】

昔は、時間を決めて3時間おきに授乳するのがいいと言われていました。今は、母乳の場合は、赤ちゃんが欲しがったら授乳していいとされています。

【うつぶせ寝について】

昔は、頭の形がよくなる、寝つきがよくなるとされていました。今は、乳幼児突然死症候群から守るため、医学上の理由で必要なとき以外は「あおむけ寝」が推奨されています。

【果汁について】

昔は、母子健康手帳に3、4か月ごろから果汁をスプーンで与えることが記載されていました。今は、果汁の過剰摂取による母乳の摂取量の減少から低栄養や発育障害との関連が報告されており、推奨されていません。

【日光浴について】

昔は、日光浴をしないとビタミンD欠乏症になるとされていました。今は、母子健康手帳から「日光浴」の言葉が消え、赤ちゃんを外気や温度差に慣らす「外気浴」をすすめる記載になりました。

【沐浴について】

昔は、母親教室などで水が入るのを防ぐため両耳をおさえるように指導されていました。今は、どちらでもよいとされています。乳児の場合、外耳道が短くストレートなため、たとえ水が入ったとしても放っておけばすぐに出るのでふさがなくてもよく、反対に、ふさいだからといって鼓膜などに影響があるわけでもないとのことです。

おばあちゃんの意見

  • 私たち世代の子育ての常識と、今の常識は全く違うと思いますので、よっぽどのことがないと口出ししないようにとは思っています。
  • 一番驚いたのは、入浴後の「湯冷まし」です。私たちの時代では飲ませていたのですが、今は必要ないということで、私がやっていたことは何だったのだろうと思うこともあります。
  • 私の子はお腹に乗せると安心して、すっと寝てくれたので、その延長で「うつぶせ寝」が習慣になっていました。今はあまりよくないと聞いています。いろんな情報がありますし、その時ごとに違うけど、どちらにしても子どもは育つと思っています。ですので、若い人には若い人なりのやり方で育ててもらえればと思っています。

第三者の意見として伝える

回答:大日向雅美さん

もしも、祖父母世代と意見が食い違って、伝えにくいときは、保健所や病院で「こういう指導をいただいた」など、第三者を上手に使うと、さりげなく今のやり方を受け入れてもらえると思います。

ただ「そもそも、どうしてこれだけ違うのか」と、考えることも大切です。
子育ての常識は、180度変わることもあります。その中には、小児医学や心理学の研究結果で、よりよい方法がわかってきた部分もあります。でも、科学がすべてだとは思いません。
その時代の価値観や、人々がどういう生活をしていたのかなど、その文化によって“子育ての常識”も大きく変わってくることを見ないといけないと思います。

「湯冷まし」はやめたほうがよいのでしょうか?

どちらでもよい。でも、わかり合おう

回答:大日向雅美さん

あげてもいいし、あげなくてもいいと思います。
赤ちゃんに必要な水分は別のところでとるというのが、今の医学・小児医学のトレンドのようです。
でも、湯冷ましをあげるのが悪いというわけではないと思います。私ならあげたいと思ってしまいます。

このようなとき、若い世代がおばあちゃん世代の話を「絶対ダメ」などと言わずに、意見に耳を傾けてくれるといいなと思います。お互いに考えをぶつけあうことも大事なことです。

育児で困ったことがあると、インターネットで調べています。
ネットで調べたことと、祖父母のアドバイスが違うとき、どちらを選択したらいいのか迷います。

良い面、悪い面を含めて、一番確かなのは親です

回答:大日向雅美さん

インターネットはとても便利で、私たちの生活に欠かせないものだと思います。
でも、ネットの情報は、出典が何かわからず信じてよいか心配なこともあります。一番確かなのは、ママ・パパを育ててくれた祖父母の情報だと思います。
自分たちがよく育ったと思うなら、親の言うことを取り入れたらいい。でも、よくなかったこともあると思います。その部分は、反面教師にしたらよい。例えば、理不尽な叱り方でつらかった覚えがあるなら、それを子どもにしないことです。


おばあちゃんから聞いて役立ったことは?

ママたちが、おばあちゃんから聞いて役立ったと思ったことを紹介します。

【伝統行事と育児日誌】

二世帯住宅に住む母のことを何かと頼りにしています。例えば、「お食い初め」や「七夕」など伝統的な風習について教えてもらうことが多いです。
もうひとつは、自分たちを育てていたときに母が書いていた育児日誌です。育児で困ったときに母はどう対処していたのかを見たり、自分が不安なとき育児日誌で母の苦労や思いを見ると励みになります。私はこんな思いで育てられていたんだと、自分自身が子どもを育てるうえで軸になるものができました。
(2歳6か月の女の子をもつママより)

【泣きやませる方法】

子どもがどうしても泣きやまないときの泣きやませ方を教わりました。その方法は、だっこして歩くだけというシンプルなものです。母は、替え歌をつくったり、1日のできごとを詞にするなどして、やっていたそうです。
(11か月の女の子をもつママより)

【育児用品について】

出産準備で育児グッズを一緒に買いに行ったとき「あなたのときもこれを使ったのよ」「こういうふうに使ってたのよ」と母の話を聞きながら買い物ができたので、何をどう使ったらいいのかなど、参考になりました。例えば、ほ乳瓶ひとつとっても、ビンとプラスチックがどう違うのかなど、そういうアドバイスを聞けました。
(8か月の女の子をもつママより)

【ミルクのあげ方】

母のミルクはごくごく飲むのに、私からはあまり飲んでくれなくて困っていた時に「ほ乳瓶の乳首を、赤ちゃんの下唇にちょんちょんとあてて、くわえるまで待ちなさい。赤ちゃんも自分が飲みたいタイミングがあるから、待ってあげるといいよ」と言われました。そのことを意識してミルクをあげるようにすると飲んでくれるようになりました。
(8か月の女の子をもつママより)

祖父母世代は、失敗体験も伝えよう

回答:大日向雅美さん

おばあちゃん世代が語るのは大事なことですね。ただ、成功体験ばかりじゃないはずです。

私たちの世代ぐらいから、伝統というものが受け継がれない時代になり、昔のことを知らないこともあります。そのため、おばあちゃんネットワークが欲しいと思うほどです。同世代の人たちが「私たちのころはこうだった、でも失敗したのよね」といったことを共有するようなネットワークです。

ネットワークがなくても、ママ・パパに語るのは、成功体験だけではなく、失敗の話もしたほうがよいと思います。若い世代も「自分も自信がないけど、おばあちゃんたちもそうだったんだ」とわかって安心できますよね。


祖父母ではなく、一時保育に預けるのはかわいそう?

一時保育を利用しようとしたとき、祖父母が「子どもを知らない人に預けるのはかわいそう」「だったら、私たちが見るよ」と言うので、3~4時間ほど預けてみたのですが、疲れ切っているようでした。
私も気を遣って「急いで帰らないと」となるので、保育のプロに任せれば、私も気が楽だし祖父母も楽かなと思うんです。祖母は「長い時間ではないし、二世帯住宅だから、やっぱりかわいくて見てあげたい」と言います。
(2歳6か月の女の子をもつママより)

昭和初期、子育てはみんなでするものでした

回答:大日向雅美さん

この場合「かわいくて見てあげたい」ですね。
でも「かわいそうでしょ、それなら私が見てあげる」と、人に預けることを否定するような年配の方も多くいらっしゃいます。「3歳までは、自分たちの手で育てないといけない」という考え方を持っているのです。

実は、おばあちゃんの世代が子育てしていた頃、社会にそのような考え方が広まった時期でした。男性が仕事をして、女性が家事・育児をするのがよい。そこに心理学などの知識が加わって「母親が自分で育児をしないと、子どもがかわいそう、成長・発達がゆがむ」という考え方になりました。現在、この考え方は否定されています。

何より、昭和の始めの頃を考えてみると、農業・漁業などで母親が育児に専念できるような時代ではありませんでした。みんなで、家族ぐるみ、地域ぐるみの子育てをしていたわけです。
今、この時代の子育ての、子どもが家族以外の信頼のおけるところで見守ってもらえるよさが見直されています。

これも、子育ての方法が時代とともに変わっていく、ひとつの典型的な例になります。

ママも自分でみてあげたい、ひとりで預けるのはかわいそうと思っている?

かわいそうと思う気持ちも大事

回答:大日向雅美さん

一方で、かわいそうと思う気持ちも大事だと思います。だからこそ、かわいそうじゃないように、子どもが楽しく過ごせるような場所を選ぼう、人にお願いしようと工夫できます。
何でも「大丈夫」と割り切るのも極端だと思います。


祖父母は孫のしつけをどこまで厳しくすべき?

子どもが、だんだんと大きくなって、しつけ面から孫にどう接したらいいのか迷っています。
ある程度厳しく、ママ・パパと同じように、悪いことは悪い、無理なことは無理というように、きちんと言ったほうがいいのか。やっぱりどうしても甘くなってしまいます。
(8か月の女の子の孫をもつおばあちゃんより)

しつけを決めるのはママ・パパ

回答:大日向雅美さん

しつけを決める中心は、ママ・パパだと思います。おばあちゃん世代は黙っていたほうが、やがてママ・パパが意見を聞いてきてくれる。そのときに「私はこう思うのよ」と言ったほうが効果的です。
最初から口を出してしまうと、ママ・パパの自主性が育たないこともあります。言いたくなっても、ぐっとガマンしたほうがいいですね。

逆に甘やかし過ぎるときは、どうしたらいいでしょう?

祖父母はよい程度の甘さで

回答:大日向雅美さん

ママ・パパ世代にお伝えしたいのですが、祖父母世代が甘くなるのは当然なんです。
人生でいろんなことがあって、酸いも甘いも経験して、ちょっとのことでは動じなくなる。甘いというより「よい加減」ができています。

家の中が厳しいところばかりだと、逃げ場がなくなります。どうしても一緒に厳しくしないといけないことは、1つや2つぐらいでいいと思います。あとは、甘くしてあげてもいいと思います。

ただ、祖父母の方に心してほしいのは、絶対にママ・パパの悪口を言わないことです。「ママはあなたのことを思ってやってくれているのよ。だけどおばあちゃんのところではいいのよ」と子どもに伝えれば、やがて子どもはきちんと使い分けができるようになります。
厳しさはママ・パパに委ねながら、隙間をうめていく程度の甘さがちょうどよいのではと思います。


子育て孫育てをしている方へ大日向雅美さんからのメッセージ

子育てというのは「ラグビー」というが、私の持論です。楽しい、苦しい、美しいと書いて「楽苦美(ラグビー)」でもあります。
ラグビーというのはチームプレーで、ボールが主役で、みんなで守っていきます。子育ても主役は子ども。おばあちゃんも、おじいちゃんも、ママもパパも、みんなでできることを分かち合っていきます。

また、ラグビーのボールは落とした時に乱反射します。同じように、親がどんなによかれと思っても、子どもがその通りにならないことはたくさんあります。そんなとき、人生経験が豊かな祖父母世代がキャッチしてくださることもあります。

そのような意味で、ラグビー(楽苦美)です。楽しいこと、苦しいことをみんなで分かち合っていくと、あとで振り返ると美しい日々だったと思えます。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです