NHKスペシャル

ミラクルボディー 第3回 未知の能力を呼び覚ませ
義足のジャンパー マルクス・レーム

第3回は、シリーズで初めて、障害者アスリートの肉体に迫る。ロンドンパラリンピック金メダリストのマルクス・レーム選手(ドイツ)は、右足が義足の走り幅跳び選手。去年10月の障害者陸上世界選手権で、世界新記録8メートル40センチを跳躍。これはロンドン五輪の金メダルの記録を上回る。
レーム選手は、なぜ健常者のトップ選手に匹敵するジャンプができるのか。NHKは、最新の撮影技術を駆使して、ドイツ、日本、アメリカの大学・研究機関とともに、レーム選手の体と脳をあらゆる角度から科学的に解析した。見えてくるのは、右膝下を失ったがゆえに発達した脳の機能、独特の体の使い方など、人間の身体がもつ無限の可能性だ。
番組では、レーム選手の“ミラクルボディ”に肉薄するとともに、五輪をも視野に入れた挑戦を描く。

放送を終えて

「オリンピックとパラリンピックという、従来の枠組みさえも跳び越えてしまうのではないか」。そんな思いで、マルクス・レーム選手の取材を始めたのは去年の7月。『ミラクルボディー』として放送するまで、1年間取材を続けました。
 取材を通して、彼は“問い続ける人”なのだと感じました。
不慮の事故で右足を失っても、「本当にできないことはあるの?」。
走り幅跳びを始めてからも、「健常者に勝てないって本当?」
リオ五輪出場を巡って義足が有利か不利かという議論が起きた際には、
「本当の意味で、公平な評価って何?」と…。
「スポーツとは何か?」「障害とは何か?」など、まるで純真な子どものような問いの数々に、現場スタッフの“常識”は揺さぶられ続けました。まだまだ答えにはたどりつけていませんし、答えがあるのかもわかりませんが、彼のように限界に挑み続けることでしか、前に進めないということも学びました。
 彼は、「オリンピックとパラリンピックを近づけたい」と語るとき、一番イキイキしていました。9月のリオデジャネイロパラリンピックでも、世界に“問い”を投げかけるようなパフォーマンスを見せてくれるはずです。そのジャンプが、2020年の東京オリンピック、パラリンピックにどんな影響を与えていくのか。彼が示してくれる“無限の可能性”に、これからも向き合い続けていきたいと思います。

ディレクター 安田哲郎