NHKスペシャル

ミラクルボディー 第3回
マラソン最強軍団 持久力の限界に挑む

陸上種目の中で最も過酷な競技といわれるマラソン。その世界記録は、100年の間に1時間近く短縮された。今、その高速化を牽引しているのがアフリカのランナーたちだ。人類初の2時間3分台を記録した“皇帝”ことハイレ・ゲブレシラシエ(エチオピア)。去年、その記録を一気に21秒も短縮した現在の世界記録保持者パトリック・マカウ(ケニア)。そして、マカウの記録に4秒差にせまるウィルソン・キプサング(ケニア)。彼らの驚くべき省エネ走行フォームの秘密を徹底分析。さらに医学撮影の技術も駆使して、驚異的な“心肺機能”の秘密に迫る。さらに、ロンドン五輪・マラソン男子の日本代表に決まった山本亮選手も実験に参加。アフリカ勢との違いを突きとめ、日本のマラソンが再浮上する鍵を探る。
人類は果たして2時間の壁を破れるのか?アフリカ最強軍団の秘密に迫る中で、人間の持久力が持つ可能性を見つめる。

放送を終えて

「ロンドンオリンピックのマラソンで、誰が優勝するかなんて予想することは不可能だ。」
今回の番組の取材を始めた時、ある専門家に言われた言葉だ。当時は、この言葉の真の意味を理解していなかったが、男子マラソンの最前線を追いかけてみると、それがいかに的を得た“予言”だったのかが身にしみてよく分かる。
実際に、当初、主人公として考えていたのは、エチオピアのハイレ・ゲブレシラシエだった。しかし、取材を始めて間もない去年9月のベルリン・マラソンで、ケニアのパトリック・マカウに敗れ、世界記録保持者がいきなり交代してしまった。そのため、番組でも、マカウの取材を進めていたところ、五輪出場の選考レースとなった今年4月のロンドン・マラソンで、同じケニアのウィルソン・キプサングに敗れ、代表選考から落選するという波瀾の結果となった。世界記録保持者でもオリンピックに出場できない程の競争の激しさ。番組では、そうしたマラソン最強軍団の強さの秘密に迫ると同時に、次から次へと新しいランナーが出現する“ミラクル”な状況自体を伝えたいという思いで、最後まで制作を続けた。番組をご覧いただいた視聴者の方には、五輪のマラソンを観戦する時に、かくも激しい戦いがあったということを、思い出してもらえれば幸いである。

ディレクター 善家賢