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「働きたいのに仕事がない」老後の二極化進む 職失い生活苦に陥る人も 現役世代にできる備えは

  • 2024年4月26日

2500万円以上の貯蓄がある世帯が34%に上る一方で、300万円未満の世帯が14.4%-。
高齢者の貯蓄が二極化しています(令和4年 総務省家計調査報告)。

今後“就職氷河期世代”が高齢者になると、二極化の傾向はますます進むおそれがあるという指摘も。

「働きたいのに仕事がない」など、高齢者が直面する深刻な現実と、現役世代にできる備えについてお伝えします。(全2回の後編/前編を読む

(首都圏情報ネタドリ!取材班)

働く高齢者のリアルに迫る「首都圏情報ネタドリ!」はNHKプラスで配信しています。
(配信期間4月26日(金)19:30~5月3日(金)19:57)↓

働かないと生活できないのに…

高齢者の登録が急増しているスポットワークのメリットや注意点について、前編の記事でお伝えしました。

生きがいのために働く高齢者がいる一方で、「働かないと暮らせない」高齢者の厳しい現実も見えてきました。

都内に住む77歳の阪本さん(仮名)は、この10年、生活のために2つの仕事をかけもちして働き続けています。

週に3日は、公園の清掃業務。このほかに3日、学校の食堂で調理の仕事もしています。休日は週に1日しかありません。

阪本さん(仮名)
「最初は大変でしたけども、もう体が慣れているので」

かつて、経営していた会社がバブル崩壊後の不況の波に襲われた阪本さん。

今、もらえる年金は妻と合わせて月に10万円ほど。生きていくためには働くしかないといいます。

しかし、その命綱の仕事を半年にわたり休まざるをえなかった、苦い経験があります。

7年前、当時働いていた食堂で、炊きあがったごはんが入った約10キロの炊飯器の内釜を持ち上げたときでした。

「反動をつけて炊飯器を持ち上げたときに、肩にビシっという痛みが走りました」

しかし、阪本さんは生活していくため、痛みを我慢しながら翌日以降も仕事を継続したといいます。

その後、受診した病院で肩の腱板断裂だと診断されても、阪本さんは働き続けました。

痛みを感じてから5か月後。いよいよ手術が必要になり仕事を休む事態になって初めて、労災を申請しました。

しかし、業務上のけがかどうか証明できないとして、労災は認められませんでした。

阪本さんはこの決定の取り消しを求め裁判も起こしました。

しかし、けがの発生当初に職場に報告しておらず、加齢もあり、「日常生活動作の中で発症した可能性も否定できない」などとして、主張は認められませんでした。

「そのうち治るだろうと、我慢していました。職場でのけがは、本当に初期の対応がどれだけ大事かということを、思い知らされました」

働きたいのに仕事がない

今、働く高齢者の8割近くはパートや契約社員などの非正規雇用です。

個人で加入できる労働組合には、高齢者からの深刻な相談が相次いでいます。

コミュニティユニオンあだち 高島章寿書記長
「年金や社会保険など、日本の制度の恩恵をほとんど受けない方々が我々の前に現れることが日常茶飯事です。命が尽きるのが先か、金が尽きるのが先かという、厳しい状況の方も少なくありません」

「仕事がなくなり生活できない」と、労働組合に相談を寄せた石田さん(仮名)夫妻です。夫は82歳、妻は79歳です。

2人で長年にわたり、警備会社で契約社員として働いてきました。寒さが厳しいときは、カイロを10枚ほど体に貼って仕事に出かけました。

工事現場での安全確保に貢献したとして、夫婦そろって表彰されたこともあります。


「事故ひとつなく、何の苦情もなく終わらせたんです」


「もう一生懸命やっていてよかったなと感じましたね。本当に楽しかったんですよ」

しかし3年前、東京オリンピックの繁忙期が終わったあと、妻には仕事が回ってこなくなりました。
家で過ごすことが多くなり体力が低下。次の仕事に就くことはできませんでした。

「仕事辞めちゃうと、ダメになっちゃうの、体が。日に日に悪いところが出てきちゃって」

その後は、夫が一人で働き、なんとか生活してきました。
しかし、82歳になった今年、ついに契約の更新はしないと告げられました。

年金はほとんどなく、これまで納め続けてきた後期高齢者医療保険や介護保険の支払いすら、ままならない状態に陥っています。

「この年じゃ、ほかの仕事はなかなか見つからない。死ぬにも金がいる時代。生活できないよ、正直」

「切ないね。もうね、正直言って生きていたくない」

二極化が進む老後の生活 現役世代の備えは

高齢者の貯蓄は、2500万円以上の貯蓄がある世帯が34%に上る一方で、300万円未満の世帯が14.4%となっています。

仕事を通じてスキルを蓄積できている人がいる一方で、もともと厳しい雇用環境に置かれていた場合、スキルが積み重なっていないケースも少なくないと専門家は指摘します。

日本大学経済学部 安藤至大教授
「高齢者の二極化が進んでいるという現実から、目を背けてはいけないと思います。今後は失われた30年で安定した仕事に就けなかった人たちが高齢者になっていくため、二極化はさらに進行していくおそれがあります。

行政に求められるのは『ハイブリッド型の支援』です。現在は、生活は福祉で、仕事のことは労働の窓口で、といった形で支援体制が分かれていますが、個人を総合的に見て必要なサポートをするハイブリッド型の支援が必要になってくるのではないでしょうか」

現役世代にできる備えについても聞きました。

「シニアワークの鍵は、逆算です。もらえる年金の金額や、老後の生活費、子どもや孫へのプレゼント代などを洗い出して、どれくらいの収入があると安心か、自分の体力をふまえてどの程度の働き方を希望するのか、定期的に確認しておくといいと思います。

もうひとつ必要なのは、老後の働き方も考えたキャリア設計です。同じ会社で働き続けることが難しいケースもあるし、別の会社でこれまでの経験を生かすほうがよい場合もあります。50代のうちに早期退職して別の仕事にうつることも選択肢の1つです。

家族も重要です。自分が家族の中でどういう役割を果たしていくのか、家族がどう思っているか。たとえば大型連休などに家族で話してみるのもよいのではないかと思います」

<前編の記事>
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