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副業で収入アップを目指すリスクは? 個人と企業それぞれの課題

  • 2023年7月21日

ふたつ以上の仕事を掛け持ちする「副業」を容認する動きが広がり始めて5年。やりがいやスキルアップを目的とする人がいる一方で、本業の収入だけでは生活が厳しいために副業をせざるを得ないという人との二極化が取材からみえてきました。

そうした中、本業の会社に告げずに副業を重ね、体を壊してしまったという人。また、副業をする人を雇う側の企業も、労働時間の把握や健康状態の管理といった課題を抱えています。個人や企業にとってのメリットだけでなく、リスクも知ることで副業とのつきあい方を考えます。
(全2回 後編/前編を読む
(首都圏局/ディレクター 鷲野千遥・千葉柚子)

生活のため“副業せざるを得ない”

前編の記事では、副業によってやりがいや自己実現につながったという会社員や公務員を取材。さまざまな分野で働く人たちに副業が広がっている実態を紹介しました。一方で、収入のために副業せざるを得ない人も少なくありません。

モリヤさん(40歳)。半年前まで、7年にわたって介護施設で正社員として働いていました。給料の手取りは月21万円、年間290万円。昇給はほとんどなく、管理職になれる見通しも持てなかったといいます。

妻と2人の幼い子どもの4人家族で暮らしていたモリヤさん。本業だけでは養うことができないため、飲食店や工場で副業をしていました。

モリヤさん(左)と妻子

モリヤさん
「子どもがいて、妻がいてっていう状況で、自分一人の稼ぎだとちょっと苦しかったですね。2人目の子どもが生まれて、自分がなんとかしなきゃという思い」

しかし、家族のために始めた副業によって、モリヤさんは次第に追い詰められていきました。当時のモリヤさんのある1か月の働き方です。

本業の介護施設での勤務は月20日で、うち夜勤が6回ありました。そこでモリヤさんは夜勤明けの時間を使って飲食店で副業をしていました。さらに本業が休みの日のうち3日は、工場で日雇いの仕事をしていました。休めるのは月に2日だけでしたが、それでも手取りは30万円に届きませんでした。

月の時間外労働は過労死ラインに迫るおよそ70時間。そのうち60時間以上は、副業先で働いていましたが、会社に伝えるのは難しかったといいます。

「恐らく、会社は分かってはいたでしょう。特に事務の方なんかは、税金の計算をするときにわかっていると思ってるんですけれど。いろんなところを刺激するようなことはよくないから、あえて言わないほうがいいかなと。何年も特に何も言われなかったので、じゃあまあ別にいいのかなっていうことで続けていましたね」

4年もの間、そうした働き方を続けたモリヤさん。体を壊し、正社員の介護の仕事も副業も失いました。

“家族にために”と始めた副業。しかし、時間や生活を犠牲にしても思ったような収入を得られず、モリヤさんにとっては大きなメリットを感じることができなかったといいます。

「全員が全員、副業オーケーです、じゃあ副業やりますって言って、そこの収支と自分の体のバランスがとれる人は多くないんじゃないのかなっていう思いがしています。幸せですっていうふうになるのは、ちょっとほど遠いというか、来る日はないのかな」

東洋大学教授の川上淳之さんが行った、正社員を対象としたアンケート調査でも、副業を持つ理由で「収入」を選んでいた人は68%に上りました。

副業について研究 東洋大学 川上淳之教授
「年収200万円の世帯で、副業率が高いことが明らかになっています。夜間や早朝の就労が、副業を持つ人の健康を害することも考えられます。子育て世代では、本来、育児に費やされるはずであった時間が副業によって失われてしまう問題が生じている可能性もあります。低所得層においては、本業の待遇改善が望まれます」

“見えない”労働時間 企業側の悩みも

モリヤさんの事例のように、副業する人の「労働時間の管理」が課題になることは少なくありません。そもそも「本業」と「副業」をどう決めるかは労働者の判断で、副業をしていることを会社に伝える・伝えないも労働者の判断に委ねられています。

そうした中で問題となるのが、時間外労働をした場合の「割増賃金」です。例えば、本業で仕事を7時間行い、そのあと副業先で3時間働いた場合、国が定める法定労働時間の8時間を超え、2時間の時間外労働が発生します。2時間分の賃金は割増となり、それを支払うのは、この場合、副業先の企業になっているのです。

ただ、労働者側は、副業先に「割増賃金」を自ら要求するのははばかられるという声があり、企業側も、その負担を負うことは難しい側面があるのが実態です。

中小企業の経営者が集まって開かれた勉強会でも、参加者の多くが、副業をする人の管理に悩んでいると話しました。

 

うちも副業の方いますので、取り扱いに関してはいろいろと難しいところがあったり。

 

向こう(本業)でどれぐらい働いているか言ってこないところもあって仕事量がわからない。

 

「ここは副業なので、本業で何時間働いているので、ここでの給与は残業代として1.25倍にしてください」って言われたときどうするかっていう話がありますよね。

勉強会に参加した、コールセンター社長の茶谷武志さんです。

土日の人手不足などを補うため、副業として働く人を受け入れました。しかし、本業での忙しさを理由に休みが続いている人も。

コールセンター社長 茶谷武志さん
「どこか別のところで働いていることが1つの理由になって、休みが続くと困りますね。うちだけで働く方は、こんなことは起こらなかったので…」

その社員がおよそ3週間ぶりに出勤した日。茶谷さんは本業での勤務実態などを尋ねたいと考えていましたが、他社のことを聞くのははばかられ、できませんでした。

「見えないところでどのような働き方をしているのかというところ。全てを管理することができないので、その点が難しいところかなと思いますね。どうしても本人の自己管理に依存する部分がありますので、会社としては、どこまで介入していいのか。うちが副業だと、本業の部分のところに何か関与することは難しいので、そこは課題ですね」

労働時間の管理の問題については、副業について研究してきた東洋大学の川上淳之さんも、解決をはかるのは容易ではないといいます。

川上淳之教授
「毎日の本業・副業の労働時間を管理したり、企業間でルール作りを行ったりすることなどは、そのための管理コストがかかります。このため現状では、労働時間は働く人の自己申告で運用するほかなく、制度が追いついていないという課題があります」

課題がある一方で、副業には、これまで持っていなかった経験や知識を手に入れたり、スキルを更に深化させたりする効用もあります。企業は従業員と密にコミュニケーションをとり、働き方を模索していくことが重要だと川上さんは話します。

「従業員が副業を希望してきたということは、『本業で何かが足りない』と思っているのだと考えることが重要です。給与面で不満があるのか、社内での将来のキャリアに希望を持てないのか。足りないものを副業で補おうとしているのですから、その背景にどんな問題や不満があるのかを聞き出すコミュニケーションは極めて大切です。

副業でどんなスキルが得られそうか、本業にどうつなげていけそうかということを話し合い、気付きを与えていくことで、少しでも社内でのパフォーマンス向上につなげていくことが重要だと思います」

副業でやりがいやスキルアップを実感する人も…。 (前編の記事を読む)

  • 鷲野千遥

    首都圏局 ディレクター

    鷲野千遥

    2022年入局。子ども・若者、外国人、ジェンダーなどのテーマに関心があります。

  • 千葉柚子

    首都圏局 ディレクター

    千葉柚子

    2017年入局。鹿児島局を経て2021年から首都圏局。文化や教育、防災などのテーマに関心を持ち取材。

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