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選手村跡地「晴海フラッグ」のタワーマンション 投資目的の応募 制限したはずが…

  • 2024年4月11日

東京オリンピック・パラリンピックからまもなく3年。
当時、東京・湾岸部に作られた選手村は、巨大なマンション群「晴海フラッグ」という新たな街に生まれ変わろうとしています。ここで今、建設が進んでいるのが街のシンボルとなる2棟のタワーマンションですが、取材すると、想定外の事態が起きていることが分かりました。

※私たちは「不動産のリアル」と題して、各地の不動産事情を取材しています。ぜひ晴海フラッグに関する情報などもこちらまでお寄せください。
(首都圏局 不動産のリアル取材班/記者 牧野慎太朗・竹岡直幸)

元選手村が“新たな街”に

早速タワマンの建設が進む晴海フラッグの現場を訪ねました。
マンション群には住民が続々と入居し、敷地には新たな小学校も作られました。
販売事業者によると、予定される入居者は1万2000人。まさに新たな街が誕生したかのように感じます。

これまでの経緯は

私たちはこの晴海フラッグのマンションを1年以上取材にあたってきました。
それは、ここが「不動産投資の場になっている」という話を聞いたからです。
不動産投資は一般的な取り引きですが、ここが選手村跡地、つまり公有地だったことや、東京大会のあと、ファミリー層向けの住宅として供給する目的だったことを考えると違和感がありました。
実際に取材すると、資金力のある投資家などが転売目的で多数の部屋に申し込み、平均倍率は70倍を超え、人気の部屋は266倍に達する事態になっていました。

事業を監督する東京都は販売事業者に改善を求めた結果、地上50階建ての2棟のタワマンについては、申し込みは2部屋までとする戸数制限が設けられ、一定の歯止めがかけられるということでしたが…。

「晴海フラッグ」これまでの経緯
2019年4月 分譲マンション販売開始
2021年7月 東京大会の選手村として活用
2023年2月 分譲マンションに応募殺到 高倍率明らかに
2023年4月 タワマン販売に戸数制限設ける
2023年7月 タワマンの販売開始(完成は2025年)
2024年1月 分譲マンションの住民入居開始

2人の投資家が証言

ことし(2024年)3月、私たちはこのタワマンの販売をめぐって、複数の投資家が制限を超える部屋に申し込んだという話を耳にしました。
実際に取材した2人の投資家は、いずれも申し込みの際、戸数制限があるなか、複数の名義を使うことで制限を超えた申し込みを行ったと証言しました。

家族の名義で

このうち、全国各地のマンションで約100部屋を所有しているという40代の投資家は、なるべく多くの部屋を購入できるよう、自身の名義に加え、妻や父親の名義も使って、あわせて6部屋に申し込みを行ったということでした。

男性
「もともと晴海フラッグは、『周辺相場より割安感があって、街としてこれから開発も進むので、跳ねる可能性があるね』というような話が不動産業をやっている人たちのコミュニティでも話題になっていました。先行して販売されたマンションは1部屋買えて、いま賃貸で出して運用していますが、追加でタワマンも欲しくなりました。申し込みに行ったら、名義が違うのであればほかの部屋も申し込み可能ですよって聞いたので、親族あげて、いろいろやれる方法を探して申し込みました」

複数法人の名義で

一方、もう1人の投資家は自らが所有する法人名義を使っていました。
所有する8つの法人などの名義を使い、あわせて18部屋に申し込みを行ったということです。

この投資家は抽選の結果、6つの部屋を手にしていました。契約書を見せてもらうと、確かにタワマンの高層階の6部屋について、すでに売買契約が結ばれていました。6部屋の総額は4億2000万円あまり。来年(2025年)タワマンが完成したあとに引き渡しを受け、すべての部屋を転売して利益を確定させたいと語りました。

男性
「最初はびっくりしました。1、2部屋ほしいかなと思っていたんですけど、6部屋も当たったので。これから資材価格も上がって、さらにマンション価格も上がっていくと思うので、引き渡しを受ける来年は1.3倍から1.5倍くらいが市場の流通価格になると予想しています。仮に1.5倍で売れると、6億円ぐらいが視野に入ってくるかなと見積もっています」

このタワマンには申し込みは2部屋までという制限がありましたが、それについて聞くと。

「こちらも『1名義2部屋』というルールにのっとっただけで、何とも思っていないです。以前の反省を踏まえた対策でこういう形になったのだろうなと思いますが、中途半端だったのかなという気はしています。私に限らず、不動産業者とかも同じように買えたと聞きます。個人的には、投資なので当然まだ利益が確定している訳でなく、こっちも色んなリスクを背負った上でリターンを取りに行っているので、投資家が間違っていると言われるのは違うのではないかと思います」

「太刀打ちできない」

一方、投資家の購入が相次ぐなか、実際に住居目的で購入しようとした人たちからは不満の声も上がっています。夫と老後の生活を送りたいと応募を続けたこちらの女性。これまでタワマンも含めて2年間で計7回申し込んでいますが、落選し続けているといいます。

60代女性
「こんなに気に入る物件はそうそう出会えないのでどうしても未練が残るというか忘れられないです。こういう状況には個人では本当に太刀打ちできないし、実際に住みたいという人が完全に置いてきぼりになっていると感じます。ことし秋の最後の販売にも申し込みたいとは思っていますが、もう希望はないのかなという諦めの気持ちもあります」

東京都と販売事業者の見解は?

このタワマンの販売方法が妥当だったのか。
販売事業者や事業の監督者である東京都はどう捉えているのか、それぞれに見解を聞きました。

販売事業者の三井不動産レジデンシャル
「個別の契約内容に関わることは回答できません」

東京都
「対策を講じたことで抽選倍率は下がるなど、一定の成果はあった」

“晴海フラッグは投資ゲームの場に”

専門家にも意見を求めました。不動産市場に詳しい牧野知弘さんです。大手デベロッパーで働いた経験もあります。

不動産市場に詳しい 牧野知弘さん
「転売の指摘を受けて、とりあえず規制はしたけれど、法人の場合は子会社もあり、ペーパーカンパニーもいくらでも作れる。個人の場合は、親子や親戚というパターンもある。実際に実効性のある制限だったかは疑問です」

そして、晴海フラッグで起きている一連の状況については次のように指摘しました。

「投資マネーによって住宅がほしかった人たちがはじき出されてしまっているのが現状です。公有地を使って、実需に応えようとした計画が、厳格な規制をかけなかったことで、大きくゆがめられたと感じます。いま晴海フラッグが投資ゲームの場になってしまっているのが現状ではないか」

情報をお待ちしています

ここが民間の土地であれば不動産投資は通常の取り引きです。ただ、ここは元選手村でもある公有地でした。ほかの専門家に取材しても、公有地だったのであれば、公共の福祉に資するのかという点は重要だという指摘もあります。

このテーマ、さらに実態を調べたいと思います。ぜひ晴海フラッグに関する情報や意見をこちらまでお寄せください。

  • 牧野慎太朗

    首都圏局 記者

    牧野慎太朗

    2015年(平成27年)入局。宮崎局、長野局を経て2022年から首都圏局。不動産取材を担当。

  • 竹岡直幸

    首都圏局 記者

    竹岡直幸

    2011年(平成23年)入局。おととし(2022年)まで報道カメラマンとして取材に従事。現在は記者として不動産取材を担当

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