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東京・杉並区議会 女性が半数に 暮らしに変化が?岸本聡子区長の政策に賛否も

  • 2024年1月19日

2023年、東京・杉並区では23区で唯一となる女性議員が半数を占める議会が誕生しました。
さまざまな分野で活動してきた人たちが新たに政治を担うことで、変化の兆しが見え始めています。子育て世代向けの政策が、予想もしなかったスピードで見直されたと驚く区民も。

男女平等を示すジェンダーギャップ指数が政治分野で138位と、世界から大きく後れを取る日本。その格差が解消されたとき、どんな景色が広がるのか取材しました。(全2回の前編)

(首都圏情報ネタドリ!取材班)

区民が実感した暮らしの変化

杉並では、2022年夏に女性の区長が誕生。

さらに、2023年4月の統一地方選挙(区議会議員選挙)で、新人の女性候補が次々と当選しました。もともと議会の女性比率は約3分の1でしたが、現在は半数を占めるようになりました。

住民たちの暮らしには思わぬ変化が起きています。

“メールを送ったら制度が変わった”

そう語るのは、2023年10月に第2子を出産した、杉並区民の小川さん(仮名)です。

妊娠中だった2023年夏、保育所をめぐる区のある制度を知り、がく然としました。

それは夫婦が同時に育児休業を30日以上取得すると、上の子どもが保育所を退所になるというものでした。

杉並区民の小川さん(仮名)
「夫に育休を3か月は取ってもらおうと思っていたので、『いやいや、無理でしょ?こんなの知らなかった』と感じました。

私たちは近くに頼れる親戚や実家もないので、夫が育休を取ってくれないと、しんどいなというのがあって。1人目を産んだときも、1人でいっぱいいっぱいだったので」

いちるの望みをかけて、子育て政策の充実を訴えていた複数の議員に「見直してほしい」とメールすると…。

2023年10月から、育児休業に関する保育所の制度が変更。これにより、下の子が2歳に達する月の月末まで、夫婦での育児休業の取得に制限がなくなったのです。

小川さん
「私が8月31日にメールして、区議さんから『決まりましたよ』って言われたのが9月13日です。『うわあ、政治!』って思いました」

小川さんがメールを送った1人、倉本美香議員です。2023年にはじめて当選しました。

区民の声に耳を傾けたいと、時間を見つけては街頭に立っています。

児童相談所などで働いていた経験から、子育て支援に力をいれたいと考えていた倉本議員。区民からの訴えは見過ごせない問題でした。

倉本美香議員
「区がこうした規則を設けていたことで、体調面や、お子さんのケアで非常に大変な思いをされているお母さんたちをより一層悩ませてしまっていました。

日を追うごとに、この問題によって困っている方がどんどん増えてしまうので、時間との闘いだなと思い、すぐ行動に移しました」

倉本議員は、メールを受け取った翌月の議会で、この制度の改善を訴えました。

子育て支援を重視する女性区長の就任以来、区も制度の見直しを検討していたため、2023年10月から実施すると表明したのです。

区議会議員にメールを送った小川さんの夫は、2023年11月から育児休業を開始。制度が変わったこともあり、2024年春まで取得する予定です。

小川さん
「メールしてよかった。メールをしたことによって、ちゃんと区議さんが議会で質問してくださって、それがちゃんと区長さんの耳に入って、10月から制度が変わるとは思いませんでした。びっくりです」

多様な政策の実現も

自らが問題意識を持つ分野で、早速、区を動かした議員もいます。カフェの経営者でもある、ブランシャー明日香議員です。

地域の住民たちと環境問題を考えるイベントを開いてきましたが、実効性のある対策を打ち出すためには、政治の力が必要だと感じたといいます。

当選してまず取り組んだのは、CO2削減のための公共施設の断熱化です。現状を調べるために、東京大学の専門家に自ら協力を要請しました。

2023年の夏、小学校を調べると、最上階の教室はエアコンがついていても32度以上。冷房効率が大幅に下がっていることが分かりました。

ブランシャー議員は、議会で、学校の断熱化を進めることを提案。区は、緊急性が高いと思われる9つの教室について、「2024年夏までに天井の断熱化を実施する」と回答しました。

ブランシャー明日香議員
「気候危機というのは目の前にある暮らしの問題であるということを、私は政治家として訴え続けたいですし、そして変えられることは皆さんと一緒に実践できたらなと思っています。

私みたいにちょっと、とがっている人が混ざっているというのも、多様な地方政治の中であってもいいんじゃないかと思います」

長年、杉並区議会を傍聴してきた区民も、変化を感じています。23年前から傍聴に通っているという、小関啓子さんです。

議会の変化を期待し、去年の統一地方選挙で新人議員を応援しました。

新たな顔ぶれとなり、本会議では発言する議員が増加。背景には、多様なテーマに問題意識を持つ人が当選したことがあるといいます。

小関啓子さん
「最初の一般質問を聞いて、涙が出そうだった。ちゃんと専門家として、今こうあるべきじゃないかと、区政を変えたいと思った人たちが目的を持って区議会に来たんですよ。これがすごいなと」

地方議会について長年研究している大正大学の江藤俊昭教授によると、全国1144の地方議会1万100人の議員を対象に行った調査では、女性の割合が多い議会ほど『議論が多様化している』と答えています(内閣府男女共同参画局が令和3年に発表した報告書より)。

江藤俊昭教授
「女性が議会に入ることで、福祉、子育て、災害のときの女性用トイレなどの議論が、増えていると実感しています。議会というのはそもそも多様な人たちが議論する場です。女性が増加することによって、議会での多様性を実現する突破口になる。大事な変化だと感じます」

住民も政治参加を

杉並区では、住民にも政治に参加してもらおうという模索も始まっています。

2022年7月に区長に就任した岸本聡子さん。「対話の区政」を掲げ、住民との対話に力を注いできました。

政策を進めるにあたって、区が賛成・反対双方の意見を聞く場を新たに設けました。

この日のテーマは、地元で議論になっている「住宅街を縦断する都の道路計画」。地元住民に加えて、ランダムに選んだ区民にも参加を呼びかけました。

区職員

どうやったら皆さんがよりよくできるかというのを、せっかくなので、こういう場でお話ししたい。

区民

とても自然の豊かな場所なので、そこをわざわざ壊して真ん中に道路を造る必要が本当にあるのかな。

区民

私はすごく前向きに考えていて。ここに雇用が生まれて、新しい環境が生まれるのではないかと思います。

対話の場には区長自らも参加。就任以来、およそ30回、開催してきました。

杉並区 岸本聡子区長
「私たちの一番大切な区民に対して、区民からの話を直接聞く機会は、すごく重要だと思っています」

賛否が分かれる政策も…

岸本さんは、大学を卒業後、ヨーロッパの国際NGOで公共サービスについて研究。働きながら、2人の子どもを育ててきました。

日本に帰国し、ゆかりのない杉並区長に立候補したのは、日本の政治への強い危機感からだったといいます。

岸本区長
「私は民主主義という政治のあり方そのものを立て直さなきゃいけないという、強い使命感があります。そこにはやはり権力を持たない普通の人の生活が中心となる政治しかない。行政の職員と地域の人たちが対話を通じてより良い選択肢を形づくっていくような、それが自治なのかなと思います」

しかし、対話を重視したことで、波紋が広がっている政策も。阿佐ヶ谷駅前にある小学校の移転計画です。

駅前にある小学校を、いま病院がある場所に移転。その跡地に新たな施設を作る計画で、2017年、区を含む地権者たちの間で合意に至っていました。

ところが、岸本区長は、議論が不十分だとして、この計画の見直しを公約に掲げて当選。
区民も参加する対話の場を、これまでに3回設けてきました。

計画に反対してきた住民たちは、期待を高めています。子どもがこの小学校に通っている吉田洋さん。移転先は住宅街のため、教育活動が制限される恐れがあると反対しています。

吉田洋さん
「ジュニアバンドなど音を大きく出す活動とか、そういうのびのびとしたことが今はできているのですが、住宅地に学校が移転したらできなくなるんじゃないかと心配しています。

住民が声を上げることによって、何割かは我々の考えていることが反映できるんじゃないかと期待を持っています」

2023年11月、吉田さんたちは、小学校の保護者を中心に集めた要望書を区に提出し、公約の実行を求めました。

吉田さん(右)

一方、決まっていた計画の実行を求める声も上がっています。阿佐ヶ谷駅前の商店会の会長をしている細田武信さんです。

コロナ禍で空き店舗が目立つようになった商店街に強い危機感を抱いてきた細田さん。ここ数年、若い世代の新規出店を後押ししてきました。

街の長期的な発展のためには「再開発は不可欠だ」と考えており、一刻も早く計画が前に進むことを願っています。

商店会の会長 細田武信さん
「地域に出店する若い人たちに期待しています。これから先、阿佐ヶ谷は再開発されて、これからよくなっていくと、みんな考えて出店しているので。10年先にこの町がどうなっていくのかを考えて動いてもらうとありがたいなと」

こうした声に、岸本区長はどう答えるのか。後編の記事では区長のインタビューと、杉並区議会の会派(所属議員6人以上)の、区政への評価についてお伝えします。

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