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深夜の都議会 職員の超勤手当は1600万円 「世の中に逆行」の指摘も

地方議会のリアル(6)
  • 2023年10月4日

午前3時17分、午前2時37分、午前1時42分。
これは東京都議会の審議が終了した時刻です。
都議会では、午後1時から審議が始まりますが、新型コロナ対策や教育政策などをめぐって夜遅くまでの質疑がたびたび行われてきました。
昨年度は、深夜に及んだ質疑も含めて委員会が午後6時以降に終了した日について、都庁職員の超過勤務手当は、議会局だけでおよそ1600万円にのぼると試算されています。
中には体調を崩す職員もいたとする話もあれば、「異常なことだ」と嘆く職員もいます。
専門家からは「働き方改革が進められる世の中に逆行しているのでは」と厳しい指摘も聞こえてきました。

なぜ質疑が深夜に及ぶのか、議員本人たちはどう向き合っているのか取材しました。

(首都圏局 都庁クラブ/記者 中村大祐)

都議会議員アンケートでは“変えるべき”が9割

私は、東京・渋谷区にある津田塾大学の中條美和准教授の研究室を訪ねました。
中條准教授は、政治家や有権者の行動分析が専門です。
研究室では、去年、都議会議員にアンケートを実施し、午後10時すぎまで開催される都議会についてどう考えるか尋ねました。

すると回答したおよそ9割が、現状を「変えるべき」としました。
理由については「ワークライフバランスを欠くことに加え、子育てや介護などさまざまな事情を抱える職員や議員にとって負担が大きすぎる」、「議員のなり手(特に女性)のすそ野を広げることにつながる」、「長いからよくやっているというものではない」などと寄せられていました。

津田塾大学総合政策学部 中條美和 准教授
「長い時間議論することに関しては、多数派だけではなく、少数派のいろいろな意見もそ上に上がるという意味ではメリットと言えるかもしれないが、夜に行う必要はない。
職員の労働環境の問題もあるほか、議員の労働環境は有権者のメリットにつながる。よい労働環境で仕事をしてもらう方が有権者にとっても好ましい結果が得られると考えると、誰も得していない状態かもしれない」

なぜ深夜におよぶ質疑になる?

都議会には、予算や条例の議決などを行う本会議と、議決を前に分野ごとに審議する委員会があります。
特に、委員会について、都議会会議規則には「議題について自由に質疑できる」とあり、時間の制限は設けられていません。事前に質疑時間の希望を申告することになっていますが、申告した時間どおりできる状況にあることが長時間の質疑の要因の1つとなって、深夜に及ぶ事態がたびたび起きています。

みんな改善したいけど、できない!?

状況の改善に向け、都議会では「都議会のあり方検討会」で、ことし6月から議論を行いました。検討会を構成するのは自民党、都民ファーストの会、公明党、共産党、それに立憲民主党の5つの会派です。
協議の結果、本会議について、長時間になりがちだった代表質問については午後9時までをメドにすることで合意しました。
一方で、委員会については、各党の主張が折り合わず、合意に至りませんでした。
検討会の座長に促される形で、各会派の代表者は意見を述べました。

自民党

各会派からの意見を踏まえ、各委員の質疑申告時間の1日の上限を原則1時間程度とすることや、申告時間の積算の結果、午後8時までの終了が見込めない場合、午後8時で終了できるよう、申告時間を調整することなどを内容とした座長調整案が示され、合意に向けて時間をかけて協議を進めてきたが、全会派での了承とはならなかった。

都民ファーストの会

十分な審議時間を確保しつつ、職員の働き方改革に逆行しない仕組み作りが必要で、予備日などまで質疑時間の確保に活用しようと提案した。建設的な合意を目指している中で、質問権の侵害に当たるとの主張で一切の合意を拒否し、具体的な対案を示さない会派があった。働き方改革に向けた議論に逆行しており、甚だ遺憾だ。

公明党

女性議員の数が着実に増えている中で、深夜に及ぶ審議状況が続くことは看過できない段階だ。座長案が示されたあとに、共産党と立憲民主党からは、一定の合意を得られて作成された座長案の骨組みを否定する発言がなされた。対案もなく、議論を振り出しに戻すような主張をされ、各会派の責任ある立場の発言とは到底思えないものだ。

共産党

議員の質問権を保障し、議会で決めた会議規則にそった改善こそ必要だ。現在の会期は、規則に定められた期間の半分程度だ。委員会の日数や会期が短すぎる現状はそのままで、終了時間を午後8時までとすることなどは、質問を制限することであり、到底合意できない。都民への議会としての責任と議員としての責務を果たせなくなる。

立憲民主党

真摯に問題に向き合い、一刻も早い解決に協力していくつもりでもあり、同一に並べられ名前を挙げられたことは、遺憾だと強く表明したい。本会議や委員会の時間だけでなく、質問調整の時間も深夜に及ぶ場合が常態化しており、こうしたことも議論をしなければ、都民の目はそんなに甘いものではないことを強く主張したい。

検討会のあと、座長を務める小宮安里議員は、「会派の主張がスタートラインの段階で異なっている。このままであっていいとは皆が思っていないので、このあとの委員会の審議状況を見ながら、また検討会で議論を進めたい」と述べ、引き続き議論を続けていく考えを示しました。

都議会は世の流れに逆行!?費用にあう議論・結果か!?

都議会の質疑時間を専門家はどう見ているのか。
地方自治が専門の日本大学法学部の林紀行教授に聞きました。

日本大学法学部 林紀行 教授
「残念ながら、ほかの議会と比べると遅れている。まだまだできることがあり、例えば、今、午後1時からスタートだが、これを午前10時からスタートすることによって、午前の時間を確保するなどたくさんできることがある。働き方改革が進められている中で『公平にみんなに質問させるために何時まででもいいんだ』というのは、世の中の流れに逆行しているのではないか」

都議会の本会議は、規則に「午後1時から」となっていて、委員会もそれに準じているため、午後1時からの開始が慣例になったとみられています。
詳しい理由は分かりませんでしたが、昔は、島しょ部選出の議員が移動するのに時間がかかったことなども理由にあったのではないかとも見られています。
全国都道府県議会議長会によりますと、令和3年時点で会議規則で本会議が午後1時からになっているのは、東京を含め大阪や神奈川など9都府県で、そのほかは多くが午前10時開会となっています。

では、地方議会の質疑時間はどうあるべきなのか。

「費用をかけただけの充実した議論や結果が出ているのかが問われるべきで、都民にきちんと情報公開して『本当にそれでいいのか』を判断してもらうことが筋だ。制限なく質疑するのは時代に合わないが、効率性ばかり重視して、きちんとした議論がされなくなってしまうのは本末転倒で、効率性と公平性のバランスをどのようにとるかが、都議会に問われている」

地方議会はなり手不足の課題があり、子育てや介護がある人など多様な人材が参加できる環境整備が不可欠です。
充実した審議と働き方改革を両立させるため、都議会がどう取り組んで行くのか、引き続き、取材を続けていきたいと思います。

皆さんが日頃、議会について思うこと、または経験したことを、こちらまでお寄せください。私たちは皆さんの声をもとに取材したいと思います。

  • 中村大祐

    首都圏局 記者

    中村大祐

    2006年入局。奈良局、福岡局、政治部、スポーツニュース部を経て2022年から首都圏局。現在は都庁担当。

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