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“やらされPTA”さよなら(2)PTA強制なくして意欲UP!

  • 2023年11月21日

働く保護者たちにとって、「負担が重すぎる」という声が相次ぎ、各地で、業務を外注化したり、解散したりする動きも出始めるなど、今PTAは岐路にたっているように感じます。
それでは、いったいどんなPTAだったら保護者がやりがいをもって関わることができるのでしょうか。取材して感じたのは「一緒になって楽しく学校を作ること」の大切さです。(首都圏局/記者 氏家寛子)

見守り活動 ツール導入で希望制に

私たちはPTAが今、直面している課題について記事にしました。(詳しくはこちら)
保護者を取材して多く聞かれたのは「必要性はわかるけれども、負担が大きい」という声です。
そう感じる活動のひとつとしてあげられるのが、旗当番ではないでしょうか。

「旗当番」
朝の登校時間帯に主要な交差点などに立って子どもたちを見守る仕事。PTAではなく町内会などが担う地域も。

子どもたちの登下校の安全のためには必要と考える保護者は多くいる一方「仕事を休んでまではできない」「近くの交差点なら立てるけど遠いところは難しい」といった声もあります。
こうした問題を解決したところがあると聞き、早速訪ねてみました。

千葉県流山市の小山小学校です。ここでは、子どもたちの登校を見守るため、校区内の旗当番ポイントの振り分けをPTAが担っています。ところが、児童数は1700人を超えるマンモス校で、希望する旗振りポイント・曜日・頻度などを考慮することが難しく、均等に機械的に振り分けるしかなかったため、保護者からは不満もあったそうです。

そこで、PTAでは、旗当番のシフト作成ツールの開発を外部におよそ14万円で依頼。保護者がそれぞれ、希望するポイントや曜日などについてスマートフォンを使ってアンケートフォームに入力し、シフトを作ることができるようにしました。すると、“やらされ感”が軽減したといいます。

旗振りのシフトに入った保護者
「仕事が繁忙期の時は免除希望を選択して、この時期はできるぞというときに参加しています。入れる日に入れる人でシフトが組まれるようになったことで、仕事の調整もつけやすくなったのでとても便利です」

峰松拓毅会長は、安全を守る大切な活動だからこそ、保護者が選択権を持ち、自主性のある活動として取り組んでもらうことが大事だと語りました。

流山市立小山小学校PTA 峰松拓毅さん
「ある意味うれしい誤算だったのが、埋まらないポイントがあっても後から手を挙げてくれる人もいることです。希望制になったことで自分のライフスタイルにあわせてできるので、負担が少ない形になったのではないかと思います」

できる人が、できる時に、できることを

このPTAでは「できる人が、できる時に、できることを」をモットーにさまざまな改革を進めてきました。
こちらの写真は、かつてのPTAの組織図です。

今はPTAの役職は完全立候補制の本部役員のみ。委員会はなくしました。

任意組織のPTAですが、会費の支払いや活動については、半ば強制というところも少なくありません。しかし、このPTAでは、保護者が選択することができます。活動はボランティア制にして、そのつど、やりたい人を募る形です。また、デジタルツールを新たに導入することで、双方向のやりとりができてスピード感がある発信や情報共有を実現したのです。

こうした取り組みの結果、“やらされ参加でなく“意欲的な参加”が増えたといいます。PTAのデジタルツールに登録する保護者は、全体の8割に上りました。

峰松さん
「ボランティア制にしようというときに“人が集まるのか”という声は必ず出るんですよね。集まる人が多いなら多いなりの、少ないなら少ないなりのできる範囲の活動にすればいいですし、人が集まらない活動は改善を検討したり、そもそもやるのかどうかを見直す必要があると思います」

学校の支えにも

このPTAでは、学校の授業にも保護者に関わってもらう橋渡しも行っていました。
そのひとつが、家庭科のミシンの授業のサポートです。
クラス全体の授業を進行する先生の補助として、児童ひとりひとりの進み具合に目を配ってもらおうと、保護者のボランティアを募っています。

取材に入った日は、9台のミシンにひとりずつ保護者が入っていました。手あげ制なので毎回、参加できる人数は異なるといいますが、“できる範囲で大丈夫”と学校側と保護者側が思うことが大切だといいます。

ミシンの授業に参加の保護者
「ふだん家でもミシンを使うので、少し手助けができたらと思いました。その都度、ボランティアの連絡が届くので、日程が合えば参加しています。家族の突然の体調不良でも臨機応変に対応してくれるので、気軽に参加できます」

さらに、保護者が自分の特技をいかしてクラブ活動のサポートに入るケースも。

「花育クラブ」 …講師は花屋でガーデンプランナーのお母さん
「アロマクラブ」…アロマセラピストのお母さんが大活躍
「法律クラブ」 …弁護士のお父さんが模擬裁判を開催
他にも「バトミントンクラブ」や「ヘルスバレークラブ」など保護者が補助的に参加するものもあります。

「花育クラブ」では、この日、花の寄せ植えを行っていました。

花育クラブ講師の保護者
「子どもたちがキラキラしていて、反応がとても楽しいです。保護者のなかにはそれぞれ得意なことがある人もいると思うので、それを生かせるいい機会だと思います」

この小学校では、教員が保護者や地域の人に手伝ってほしいことがあるときは、職員室に掲示され二次元コードを読み取って専用のフォームから募集依頼をかけることができるようになっています。
松山秀行校長は、子どもたちにとって、教員以外の多くの大人が関わることが発育の上でも大切なのではないかと話してくれました。

流山市立小山小学校 松山秀行校長
「学校としても来ていただける保護者の人数で活動を考えるという柔軟性を持って、そのスタンスを示すことが必要だと思います。子どものサポートも厚くなるし、保護者も満足、先生も負担軽減になって、みんながwin-winに感じる活動にしていければいいと思います」

峰松さん
「これまでのPTAは前例踏襲が多くて、強制感とか負担感とかネガティブな感じになってしまいますが、本当にやり方次第で変わるのではないかと思います。子どもと接する活動は人気でかなりの人数が集まることもあるので、こんな活動であれば自分も参加できるかなと思ってもらえる雰囲気づくりを進めていきたいです」

専門家 「PTAといっしょに学校をつくる」

こうした保護者の意欲を大事にしたPTAの取り組みについて、長年教員を務め、学校経営に詳しい、岐阜聖徳学園大学教育学部の玉置崇教授に話を聞いてみました。

岐阜聖徳学園大学教育学部 玉置崇教授
「学校がPTAに対して、やりたいことや考えていることを伝えることが大切だと思います。キーワードは、『報告より相談』です。とかく、学校は、“こんなことをします”という報告になることが多いですが、“こんなことを考えているがどうですか”と相談を投げかけることで、アイディアをもらえるし、応援してくれる人が増えていくのです。今までどおりの活動を踏襲するだけでは面白くないですよね。主体性のある活動になれば、いっしょに楽しみながら学校をつくることができるのではないかと思います」

みなさんの経験・意見お寄せください

PTAの取材に協力してくれた人たちが、繰り返し口にしていたのが、地域によって事情は異なるという点です。どんな方法が、その学校やそのときのPTAメンバーにとって楽しく取り組めるかは、学校の規模や立地、どんな保護者たちが参加するかで、さまざまだということでした。
ただ、前向きに取り組んでいるPTAに共通するのは、決して強制ではなく、柔軟に活動を見直しながら学校をともに良くしようと取り組んでいるということです。それぞれの地域のヒントになるような事例を今後も取材していきたいと思います。

みなさんのPTAをやっていて良かったと感じたことやモヤモヤしていること、悩みや疑問なども、ぜひこちらよりお寄せください。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    2010年入局。水戸局、岡山局、新潟局を経て首都圏局に。 今年度(2023)は息子の小学校のPTAで広報委員長を務めています。

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