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東京 杉並区 初の女性区長に女性区議が半数 どうなる区政は?

  • 2023年7月6日

今、何かと話題な地方議会の実態に迫る「地方議会のリアル」。
シリーズ2回目は、ことし4月の統一地方選挙の区議会議員選挙で、女性が多く当選し、男性の数を上回った東京・杉並区の議会を取り上げます。

杉並区は人口57万人。1年前の区長選挙でも新人が現職を破り、区として初の女性区長が誕生しています。区政はどのように変化したのか、当事者への取材を通じてそのリアルに迫りました。
(首都圏局/記者 鵜澤正貴)

女性議員が男性を上回る

6月に開かれた東京・杉並区議会の本会議

こちらは6月に開かれた東京・杉並区議会の本会議です。
議場には多くの女性議員の姿が見られました。傍聴席も満席。
取材していて熱量を感じました。

4月の区議会議員選挙で、女性は新人12人を含む24人が当選。定員は48人のため、半数を占めたことになります。
残りは23人が男性で、1人が性別非公表。女性が男性を上回る結果となりました。
最初の議会で選ばれた議長も女性でした。

1年前に誕生した初の女性区長

初当選を決めた岸本聡子氏 (2022年6月20日撮影)

杉並区では、ちょうど1年前の去年6月、区政に大きな変化が起きていました。
それは初の女性区長の誕生です。
新人の岸本聡子氏が4期目を目指した現職らを破り、区長選挙に初当選。
当時は東京23区の現職の女性区長は足立区の区長のみ。杉並区で2人目となりました。

岸本氏は、オランダに拠点がある国際NGOの研究員を務めていましたが、日本に帰国して立候補。立憲民主党や共産党など野党の支援を受けて、選挙を戦いました。
区長選挙には、現職のほかに男性の元区議会議員も立候補しましたが、187票差というわずかな差で岸本氏が勝利したのです。

区長が区議選への投票呼びかけ

私たちは、岸本区長のもとを訪ねました。
まず話を聞いたのが、ことし春の区議会議員選挙について。
この選挙で、区長はみずから街頭に立ったり、ユーチューブを使ったりして、区民に投票に行くよう熱心に呼びかけていました。その狙いはどこにあったのでしょうか?

杉並区 岸本聡子 区長
「日本全体の投票率が非常に低迷している危機的な状況です。それには、政治に期待できないとか、投票に行っても何も変わらないとか、そもそも誰に投票していいかわからないとか、さまざまな問題があると思います。ただ、明らかなことは、投票に行かなかったら、やはり自分たちの未来を託すような選択肢、選択そのものを自分から捨てているということになります。ですので、それは特に若い人たちにとってはとてもよいことだとは思えないです。選挙に行っても変わらないというのは、まさにパラドックスというか、その原因はまさに選挙に行かないからなんですよね。
とにかく投票に行ってというメッセージ、どういう人が自分たちの代表者として選挙に出ているのか知ってほしいし、そういう人たちの言葉を聞いてほしいし、その延長線に自分の未来があるんだということをわかってもらいたいという気持ちでした」

前回より4ポイント上がった投票率

この選挙で、区内の投票率は43.66%でした。50%には達しなかったものの、前回・4年前の選挙から4.19ポイント上がりました。
これは、統一地方選挙で議員選挙があった都内の自治体の中で、豊島区、武蔵野市に次いで、3番目の上昇率となりました。

当選したのは、区長が支援した候補者とも限りません。区長に対して是々非々の立場だったり、むしろ批判的だったりする新人候補も含む多くの女性が当選しました。
こうした結果をどう受け止めるか、聞きました。

岸本区長
「多様な人が新しく議会に入ることによって、今までそれほど話題にならなかったような話というのが話題になる。人によってはなんでこんなこと質問するんだと思うかもしれません。でも逆に言うと、なんでこのことが質問されなかったんだろうというのもまた事実なわけですよね。女性が増えたことそのものがうれしいというよりも、そもそもたくさんの人生や生活、地域社会での多面的な経験を持っている人たちが地方議会の中にいるということがきわめて健全だと思うんですね。例えば今まであまり重視されていなかった政策が議員に質問されることによって、それが区にとって政治的に大きな課題になっていくなど、可視化されるということがあります。地域社会にとってはすごくプラスだと思います」

選挙後の議会 議員の質問に変化は

5月、選挙後、最初の議会が開かれました。
開会中の期間の序盤では、本会議で議員が区長や部長など区の幹部に区政について質問を行う「一般質問」が行われます。

女性議員が増えたことで、議会にどんな変化があったのか。
議会事務局に取材してみると、まず一般質問を希望する議員が増えたということでした。

この数年の議会で、一般質問を行った議員や質問の内容は区議会のホームページからも確認できますが、この数年は20人前後の場合が多かったようです。
しかし、今回の議会では29人が質問を行っていました。
このうちの17人が女性。内容は、学校給食費の無償化、保育の質や発達障害児支援といった子育てに関するもの、あるいは、1人暮らしの高齢者やシングルの女性の支援といった、より生活に身近なものが多くなっています。

無所属・新人 上位当選の女性区議は

実際に初当選した女性議員にも取材しました。
完全無所属をうたって、48人中4位という上位で初当選した倉本美香議員。
現在30歳で、区議会で最年少です。
児童相談所に勤めた経験から、児童虐待をなくすためには社会を根本から良くしていく必要があると考え、立候補したといいます。岸本区長に対しては、是々非々の立場です。

街頭に立つ倉本美香 議員

倉本美香 区議
「私たちの世代は、政治に無関心なのではないかと言われがちなんですけれども、そうではなくて、自分の1票を託す先がないというようなことが、今までの皆さんの感覚だったのではないかなと思っています。働く世代や若い人たちで、今まで投票したいと思える人がいなかったという人たちがたくさん関心を持ってくださったことがすごくうれしかったです。
去年、区民の投票参加によって、区長を変えることができた。だからこそ、区議会の構成も変えることができるというふうに感じた方々が多く投票に行って、今回は投票率も高くなりましたし、区民の方々の区政への参加というものが高まったというふうに言えると思います。
区民の声が通る可能性が非常に高くなったというのが、区議会にとっての大きな変化だと思います」

最初の議会の一般質問では、最も取り組みたかった児童虐待の問題をさっそく取り上げました。東京都とどう連携を図っていくのか、区の対応について質問しました。

倉本区議
「区議会議員になって、区民の方々の声や疑問、提言など、今まで一区民として感じてきたことを区に直接訴えていけるというのは、本当に大きなやりがいを感じました。私は自分だからこそ言えること、見聞きしてきたことというのを議会で伝えていきたいと思っています。それまで全く取り上げられてこなかった課題があるとすれば、やはりそれについて取り組む人が議員になるというのは非常に大きな前進だと思います。ただ、議会での議論は、まだまだ形式的な部分におさまっているなと感じる部分もあります。区が行っていることが見えにくい場合は議員がしっかりと引き出して、区民に伝えていく。逆に、区民が求めていることを区がわからない場合は、それを伝えて、気づいてもらう。そういう架け橋のような仕事ができればと思います」

議会と向き合う区長“改革は簡単にはできない”

一方、岸本区長自身も、当選から1年。
区議会という「二元代表制」の中、思わぬ壁もありました。
岸本区長は1年前の区長選挙で、それまで現職が進めてきた区立施設の再編の見直しを掲げて、当選しました。

議会で争点となった高齢者交流施設

しかし、前区政が進めてきた一部の高齢者交流施設を廃止するという方針については、すでに事業が進んでいて、それを止めると予定されている区の児童相談所の設置などにも影響が出るとして、結局、前区政の方針を大筋で変えないことを決めました。
 

杉並区議会の本会議 最終日 条例改正案の採決

議会最終日の条例改正案の採決では、区長と対立してきた会派が賛成、逆に区長を支えてきたはずの会派が反対に回り、公約の遵守を求める、ねじれの状態になりました。しかし、是々非々の立場の会派が賛成したことで、なんとか可決に持ち込みました。

区政の転換を訴えて当選した岸本区長。当選から1年がたちますが、一足飛びでの改革は簡単ではないと感じています。

岸本区長
「区のこれまでの方針を変えるにしても、それには区役所の中での議論だけでなくて、まさに地域の中で、そして議会の中でこういうふうに変えたいと思っているということをきちんと説明して、議論をする必要があります。それには時間がかかると思います。
これはまさに民主主義というものがそういうものですので、これをすっ飛ばして、公約にあるから180度と言わないまでも、120度ぐらい変えます、ドンというわけにはいかなくて、むしろそれは非民主的なやり方だと私は思っています。
公約をすぐ実現できなくて、不満に思っている有権者の方も当然いると思いますけれども、そこは公約を実現したいからこそ、たくさんの人の理解を得なければいけないので、そのための努力というのを地域社会で、みんなでやっていく。区民と一緒に成長していくということを有権者の人に伝える努力を続けなければならないと思っています」

取材後記

岸本区長も初当選した議員も、それなりの手応えを感じつつ、すぐに劇的に区政を変えられるものではないということを素直に口にしていたのが印象的でした。
確かに、区長1人、あるいは議員1人で、一気に物事が動くものではないとも言えます。ただ、それでも、それぞれが目指す政策や発するメッセージ、その上で重ねる議論が区政に影響を与えることは間違いありません。変わりゆく杉並区議会はひとつの新たな民主主義の形を表しているようにも感じます。取材を続けていきたいと思います。

情報をお寄せください

最も私たちの近くにある「地方議会のリアル」。
そこで何が起きているのか、みなさんが気になるテーマや情報を、ぜひこちらまでお寄せください。私たちはいただいた声をもとに、取材したいと思います。

  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年(平成20年)入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。東京23区の行政取材などを担当。

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