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神宮外苑の再開発 事業の全容から住民の受け止めまで【詳報】

  • 2023年7月19日

東京・新宿区などにまたがる明治神宮外苑。豊かな緑に囲まれ、スポーツ施設が集まる場所として多くの人たちに親しまれています。

そこで今、大規模な再開発が進められています。その事業の全容とは?住民たちの受け止めは?

私たちは、7月17日から開かれている住民説明会に足を運びました。
(神宮外苑再開発取材班)

説明会では何が…

再開発にあたる三井不動産などが主催した住民向けの説明会は、都内で3日間にわたって、開かれました。
参加者へのプライバシーの配慮として、報道陣が直接、会場に入ることはできませんでしたが、初日の17日に限って、会場内の音声は、聞くことができました。

【質疑:高層ビルは?】
説明会の質疑応答では、まず住民から高層ビルの建設は必要なのかという質問が出されました。

事業者
「全体の事業のなかで考えて必要だと認識している。圧迫感があり、憩いの場にならないとの意見もあるが、そのほかの場所でオープンスペースや緑の場を増やして全体で憩いの場にしていきたい。景観を考えて計画していく」

【質疑:スポーツ施設は?】
また、市民に開放されている軟式野球場やゴルフの練習場などのスポーツ施設がどうなるのかという質問に対しては、事業者は、これらの施設の代わりに、テニスコートを作る考えを示しました。

事業者
「会員制だが、テニススクール、レンタルといった誰もが利用できる施設にする。限られた敷地で事業を考えたうえでの選択であり、ご理解をいただきたい」

再開発の計画とは

そもそも、神宮外苑の再開発計画とはどのようなものなのでしょうか。
以下に簡単に整理します。

この計画は、2015年に東京都が公表しました。
三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、そして、伊藤忠商事が主体となって行い、事業者側は、世界に誇るスポーツクラスターをつくること、緑やオープンスペースを増大させることなどを掲げています。

具体的には、老朽化が進んだ神宮球場と秩父宮ラグビー場の位置を変えて、それぞれ建て替える計画です。

このうち、神宮球場にはホテルが併設されます。秩父宮ラグビー場には屋根が取り付けられ、文化イベントも行われます。

さらに、2棟の高層ビルも新たに建設され、このうち、高さおよそ185メートルの「複合棟A」には店舗などが入るほか、高さおよそ80メートルの「複合棟B」には賃貸住宅や室内競技場などが入ります。

伊藤忠商事の東京本社ビルも建て替えられ、今よりも100メートルほど高い、およそ190メートルのビルとなります。

このほか、神宮球場と軟式野球場の跡地に2か所の芝生広場が整備され、事業者は自由に往来できるオープンスペースを増やすと説明しています。

一方、これまで市民に開放されてきた神宮第二球場、軟式野球場、ゴルフ練習場、バッティングセンターは再開発によって廃止されます。

全体の整備は13年後の2036年に完了する予定です。

樹木の伐採は?

また、再開発エリアにある樹木については、高さ3メートル以上の樹木1904本のうち、743本を伐採する一方、256本を移植、886本を保存する計画です。

事業者は、名所のイチョウ並木については保全するほか、新たに植栽して、樹木の本数を増やすとしています。

参加者の受け止め~景観は守られるのか

説明会は、2時間あまりにわたって行われました。
終了後、参加者に話を聞きました。

その1人、蔭山法子さん(58)です。
神宮外苑の近くで明治時代から続く生花店を経営しています。
子どものころから慣れ親しんだ神宮外苑が再開発でどのように変わるのか直接、知りたいと思い参加しました。

蔭山法子さん
「神宮外苑にはよく散歩に訪れていますが、都会の中で四季折々の風景を楽しめるこの場所が多くの人の憩いの場になっていると感じています」

蔭山さんは、今の自然や景観が守られるならば、計画を進めてもいいのではと考えていますが、樹木の保全や高層ビルの計画をめぐりさまざまな情報が錯そうしていたことから直接、情報を知りたいと思ったといいます。

参加して、こうした疑問は解消したのでしょうか。

蔭山さん
「説明会を聞いて伐採した木々の代わりに植樹をしても今の自然が本当に守られるのか疑問が残りました。高層ビルの建設による景観や風への影響についても懸念があります。決まったことを説明するだけではなく、住民の意見をもう少し時間をかけて聞いて、丁寧に進めてもらえるといいですね」

もう1人、話を聞いたのが神宮外苑の近くで暮らす藤井京乃さん(61)です。
再開発によって神宮外苑の景観が大きく変わってしまうのではないかと心配しています。名所のイチョウ並木は子どものころに自転車に乗る練習をした思い出の場所で、今でも静けさを味わうためたびたび足を運んでいるといいます。

事業者側からは「高層ビルは景観を考えて計画する」、「イチョウ並木は絶対守る」といった説明を受けたということです。

藤井京乃さん
「新球場の位置を下げることも検討すると言っていたので、まだ計画を変更してもらえる余地があると感じました。住民として提案できることがあって、それが取り入れられるなら、うれしいです」

慣れ親しんだ野球場が…

説明会には、参加していないものの、スポーツに親しむ人たちからは、こんな声もありました。

外苑近くに住む、松下歩さん親子です。軟式野球場は小学6年生の長男が所属するチームがふだん練習で使用しているため、そこが使えなくなることを残念に思うといいます。

松下歩さん
「こどもがスポーツできる場を残していただきたいです。テニスコートにするということですが、もう少し検討していただけないかと思います」

今後の事業スケジュールは?

実は、住民説明会は、これまでも事業者が主催したものが3回、東京都主催のものが2回行われました。しかし、去年1月に再開発に伴う樹木の伐採計画が明らかになると、樹木の保全のあり方について関心が高まりました。

ことし3月上旬には、世界的な音楽家、坂本龍一さんが亡くなる前に「神宮外苑の開発は、とても持続可能なものとは言えません。これらの樹々を、私たちが未来の子どもたちへ手渡せるよう、計画を見直すべきです。あなたのリーダーシップに期待します」などとつづった手紙を小池知事宛に送っていました。

現地では工事も始まっています。
3月下旬になって、施設の解体工事が開始され、6月からは、神宮第二球場の鉄塔の撤去作業が始まりました。ことし9月以降には、周辺の高さ3メートル以上の樹木およそ30本の伐採が始まる見通しです。

専門家は?

都市計画などに詳しい専門家は、現状をどのようにみているのか、考えを聞きました。

静岡文化芸術大学 松田達 准教授
「かなり高い建物が建つことに対して説明が少ないと感じます。資料を見ても建物のデザインがよくわからないので、模型を見せるなどして具体的なイメージを示したほうが住民の安心感につながるのではないか。神宮外苑は国民の寄付でつくられた歴史的な背景があり、100年にわたって多くの人が利用し愛着を感じている。公共性のある場所なので民間の土地であっても合意形成はあってしかるべきだと思う。今からでもいろいろな声を取り入れることは出来るので多様な声を聞く機会を積極的に作ったほうが良い」

みなさんの意見を聞かせて下さい

100年にわたって、広く親しまれてきた神宮外苑で進められる再開発。その計画そのものや、事業の進め方については、賛否の声があります。みなさんはどう考えますか?
ぜひこちらまで、意見や考えをお寄せ下さい。

  • 尾垣和幸

    首都圏局 記者

    尾垣和幸

    都庁担当 東京オリンピック・パラリンピック競技会場のレガシー活用などを取材。神宮球場にはプロ野球観戦で足繁く通う。

  • 西澤友陽

    首都圏局 記者

    西澤友陽

    前橋局、大阪局をへて昨年夏から首都圏局。 神宮外苑をはじめ、都内にある様々なテーマを取材。 スワローズファン歴25年で外苑にはたびたび足を運ぶ。

  • 田中万智

    首都圏局 記者

    田中万智

    2023年入局。 高校の同級生が神宮球場で試合をしていて、球場にはよく足を運んでいました。

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