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水難事故は街なかの“身近な川”でも…構造物点在ゆえの隠れた危険とは

  • 2023年7月13日

「足場が確保されている川なら安全に遊べるだろう」
「護岸からちょっと川をのぞいてみよう」…。
そんな思いで、夏の暑い日に川に足を踏み入れて遊んだ経験、みなさんありませんか?

実は安全に見える護岸や堤防、それに橋脚の下に設置されているブロックなど、構造物のそばには急な深みが多く、まさに落とし穴のような場所がいくつも存在するんです。
それはいったいどんなものなのか…、私たちが暮らすすぐそばにある“身近な川”に潜む危険を、全国の水難事故を検証してきた水難学会の専門家と探っていきます。
(【潜水取材班】竹岡直幸、浅石啓介、高橋大輔)

住宅地のそばを流れる“身近な川”にリスクが…

私たちは、海や川などに潜って水中を撮影する専門チーム『NHK潜水取材班』です。

毎年繰り返される水難事故…。ことしに入っても川で幼い子どもが命を落としたり、助けに入った中学生が溺れて亡くなったりするケースが後を絶ちません。
水難事故を少しでも減らしたいという思いで、私たちは、水辺のリスクを可視化し発信する取り組みを続けています。

今回、私たちが着目したのは、近年事故が増えている住宅地のすぐそばを流れる身近な川です。
日本にある河川は約3万5000本にのぼり、その多くは、洪水などの災害を防ぐ堤防や護岸が整備されています。流れも穏やかで一見安全そうに見えますが、実はこうした場所にこそ、大きな危険が潜んでいることがわかってきました。
水難事故の調査や防止のための啓発活動に取り組んでいる「水難学会」の協力を得て、現地を徹底取材することにしました。

“歩いてみたい…”幼い子どもは特に注意「護岸のきわ」~江戸川~

私たちが最初に向かったのは、千葉県と東京都の県境を流れる「江戸川」。
川のすぐそばには住宅地が広がり、河川敷のグラウンドで大勢の子どもが遊んでいました。現地に到着するとすぐに、水難学会の斎藤秀俊理事がこうつぶやきました。

「この場所には“落とし穴”がたくさんある…」

斎藤さんが特にリスクを指摘したのは“護岸のきわ”。土手の斜面を少しずつ下っていき、護岸が川の水につかりはじめる場所です。
ここにどんな危険が潜んでいるのか…?私たちは救助にあたるダイバーを配置して実際に足を踏み入れ、検証することにしました。

土手から川に向かって設置された護岸は、緩やかな斜面になっています。特に小さな子どもたちにとっては、「ちょっと歩いてみたい…」そんな気持ちにさせられる魅力的な場所のように思いました。
しかし、少しでも足を踏み入れてしまうと、次の検証動画のような事態に…。

斜面を下っていくと止まることができず、護岸が途切れたところでそのまま水中に落ちてしまいました。水深は最低でも1メートル80センチ。大人でも、すぐに川からはい上がることができませんでした。

“護岸のきわ”はいったいどんな構造になっているのでしょうか?

“護岸のきわ”の水中映像

水中カメラを使って撮影してみると、護岸の縁は垂直になっていて、突然深みが広がっていました。さらに、護岸の表面はコケでびっしりと覆われていて、とにかく滑る…。足をかけたくても、ふんばりがまったくきかない状態でした。まさに“落とし穴”のような場所だったのです。

水難学会 斎藤秀俊理事
「“護岸のきわ”は大人でももちろん危険ですが、小さな子どもたちは特に注意が必要です。親が目を離すというよりも、一瞬でも違う方向を向いているうちに、子どもはワーッと1人で行動してしまいます。
特に2歳、3歳、4歳くらいだと好奇心が強いうえに、何が危険なのかがわからない年齢でもあり、リスクが高いです。陸から水面に向かって斜面がつながっているようなところは特に注意をしてもらいたい」

川の中の“ブロック”に危険!思わぬ危険が至る所に…~多摩川~

次に私たちが向かったのは、都内近郊のベッドタウンを流れる「多摩川」の中流域。過去には、川の中にある構造物が原因で水難事故が起きています。

「あの橋の下、水の流れが目に見えて、川が『おいで、おいで』って言っているように感じます」

そう言って、水難学会の斎藤さんが指をさした先には、橋脚を補強するためのブロックが敷き詰められていました。対岸まで浅瀬が広がっていて、誰もが足を踏み入れたくなる場所だと感じました。

こういう場所には「入るな!危険!」と注意書きの看板が設置されることが多いものの、実は国を中心に、川は自由に利用できるという考えが基本にあり、強制的に立ち入り禁止とすることができないといいます。そのため、夏になるとこうした場所で遊ぶ人も少なくありません。

【ブロックの上に“むき出しの鉄骨”】
ブロックの上は足首ほどの水位で、流れはあるものの、歩いて渡るには特段問題はありませんでした。しかし、川に入ってまもなく、ブロックから鉄骨の一部がむき出しとなっている場所を見つけました。それも1か所ではなく、至る所で鉄骨がそびえ立っていました。

川の流れによって、長い時間をかけてブロックが少しずつ削られていくことで、その中にあった鉄骨などが姿を現すといいます。もし気づかずにこの上で転倒してしまったら…、大変な事故につながってしまいます。

【急に現れる“溝”】

さらに、歩みを進めていくと、ブロックが水流によって深く削られ、“溝”になっている場所がありました。身長175センチの潜水取材班メンバーが、その溝に入ってみると、それまで足首ほどしかなかった水位が、ひざ上まで深くなっていました。しかも、それまでとは桁違いに水の流れを強く感じ、立っているのがやっとの状態。もし小さな子どもがこの溝にはまってしまったら…と想像すると、恐怖を感じずにはいられませんでした。

【「ブロックが途切れる場所」の先に“急な深み”】
そして、専門家が最も危ないと指摘したのは、ブロックが途切れる場所です。その境目に立ってみると…

「ブロックが途切れる場所」調査の様子

水の流れがあり、ブロックの先が浅いのか深いのか判断がつきません。実際に水の中に入ってみると、かろうじて顔を出すことができるほどの深みが広がっていました。

しかし、最も深いところでは2メートル近くの深さがあり、大人でも完全に水没してしまうほどです。
水難学会によると、人工的な構造物の“きわ”にできる段差には、雨が降って増水すると、強い流れによって川底が掘られ「急な深み」ができると言います。決して油断してはならない場所です。

【ブロックが途切れる場所で無理して拾おうとしないで!】

さらに水難学会の斎藤さんは、水の流れがあるブロックの上でよく起きるのが、サンダルなどが流されてしまうことだといいます。
写真の再現にあるように、ブロックが途切れる場所で無理して手を伸ばして拾おうとした結果、深みに落ちて事故につながってしまうケースが後を絶たないというのです。

水難学会 斎藤秀俊理事
「川は治水がとても重要になるので、周りの家を守るためにも、いろんな人工構造物はどうしてもできます。このような場所では、泳ごうなんて思う人はほとんどいません。『浅いところで、ちょっと足を入れてみたい』『浅いから大丈夫だろう』という思いが、事故につながってしまうのです。“浅いところの向こうには必ず深みがある”ということを覚えておくことが大切です」

子どもの不意な行動に対応するために大人ができること

構造物が点在する身近な川に潜むさまざまな危険。特に、子どもたちの命を守るために私たち大人はどんなことを心がければいいのでしょうか。水難学会の斎藤さんに2つのポイントを挙げてもらいました。

(1)『怒らないから、追いかけちゃだめ』
ボールなどの遊び道具を誤って川に落としたり、サンダルなどが流されたりしてしまった場合、子どもたちは必ずと言っていいほど、追いかけるといいます。
「なくしたら怒られてしまうんじゃないか」という考えで頭がいっぱいになるからです。川で遊ぶ前に、大人は「万が一、川に何か落としたり流されたりしても怒らないから、絶対に追いかけてはいけないよ」と伝えてあげるようにしてください。

(2)大人は子どもより“川の近く”に
夏場の暑い季節に家族で河川敷に遊びに訪れた際、たとえ川で遊ぼうと思っていなくても、注意が必要です。子どもは暑さに構わず遊ぶことに夢中になりますが、大人は少しでも暑さから逃れようとして、ついつい木陰に行きがちです。そこから子どもの姿が見えていたとしても、大人どうしで会話に夢中になるなど、ふとした瞬間に目を離してしまい、その間に子どもが川の深みに落ちて溺れてしまっているということがあります。
川の近くで遊ぶとき、大人は子どもよりも川の近くにいてください。そして、大人が川に背を向ける形で子どもを見守り、自分よりも子どもが川に近づかないよう意識することが重要です。

  • 竹岡直幸

    【潜水取材班】

    竹岡直幸

    水俣の海や水質問題で揺れるお台場の海など、環境をテーマとした潜水取材をしてきました。私自身は、水泳歴20年で泳ぎには自信がありますが、水難事故をなくすための取材を通し、決して泳ぎに慢心してはいけないことを学びました。これからも取材を続けていきます。

  • 浅石啓介

    【潜水取材班】

    浅石啓介

    これまで、北海道の「流氷の海」や三重・福井の「海女文化」など、日本各地を潜水取材してきました。 私も子どもを連れて川や海に出かけることが多いので、水辺の事故は他人事ではありません。 現在、水難事故をなくすためのプロジェクトを立ち上げ、取材を進めています。

  • 高橋大輔

    【潜水取材班】

    高橋大輔

    これまで、被災地の海などを取材してきました。 潜水取材時には、しっかりと安全対策を行います。 こうした安全への意識を届けることで、悲しい事故を1つでも減らしたいです。 子どもたちが水に慣れるよう、ことしは海や川で一緒に遊びたいと思います。

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