川で遊んでいて急に足がつかなくなってしまったら?
海で遊んでいて離岸流に流されてしまったら?
その時どうすれば助かるのか、全国の水難事故の調査や、事故防止の啓発を行っている水難学会会長の斎藤秀俊さんと一緒に命を守る方法についてプールで実験を試みました。
大切なことは「落ち着いて 呼吸を確保する」です。
(【潜水取材班】千葉局/カメラマン 高橋大輔、首都圏局/カメラマン 浅石啓介)
水辺で足が急につかなくなってしまい、あわてて周りに助けを求める、そこに溺れるリスクがあると斎藤さんは話します。
水難学会 会長 斎藤秀俊さん
「両手をあげて『助けて』って言おうとした瞬間にもう沈んじゃうと。もう危ないんだっていうことをなんとか皆さんに知らせたいっていう気持ちはあると思うんですね。当然声も出さないと気がついてもらえないかなと。ただ、それって実を言うと自分の命を守れない。要するに逆のことをやってしまうのと同じことなんですね」
斎藤さんの指導のもと、何が問題なのか実験してみました。
(1)「助けて!」と声を出しながら、両手を上げてまわりに知らせようとします。
(2)声を出したのとほぼ同時に、1mほど沈み込んでしまいました。
(3)いきなり水中に引き込まれて、何が起きたのかもわかりませんでした。
水難学会 会長 斎藤秀俊さん
「手をあげるとその分だけ体が重くなって全体が沈むんですよ。あと、空気は浮力がある。だから、空気をいっぱい肺に溜めていれば浮くわけですよね。でも、『助けて』って言うと空気がみんな抜けちゃうから、それもやっぱり沈む要因になる。
溺れるというのはもう一瞬なんですよ。周りの人も下手したら気がつかない」
急に沈んだ理由は2つ、「声を出す」ことで肺の空気が抜けて浮力を失い、「手を水面から上げる」ことで腕の浮力を失ったことです。
斎藤さんによると、真水に入って息を一生懸命吸っていても、水の上に浮くのは体全体の2%。肺の空気を失った上に、水の上に出してしまった腕がその2%を超えてしまい、頭から沈んでしまうといいます。
また、水難事故では、救助のために水に入った人が溺れて亡くなってしまうというケースもあとを絶ちません。
心情的にはすごくわかります。もし自分の子どもが溺れそうになっていたら、何も考えられずに水に飛び込んでしまうかもしれません。
しかし、斎藤さんは、特別な訓練を受けた人でないと、何の準備もなく水面で浮いている人を助けることはほぼ不可能だと言いきります。
実際に、プールで浮いて待っている人の救助活動を実演しました。
救助活動を実演 “助けたくても沈んでしまう”
浮いた人を救助しようと近くまで泳いでいき、体をとらえて一緒に陸に向かおうとしたところ急に自分の浮力を確保できなくなりました。救助をしようと、相手の体をとらえたあたりで推進力が急になくなったことで、体が沈みはじめました。
途中で相手の顔が水に沈み込み、あわてて相手の顔を引き上げると、次は自分が沈み込む。
水を飲んでもがきはじめてしまい、途中で実験をストップしました。
水難学会 会長 斎藤秀俊さん
「まず救助に行った人が自分の浮力を確保できなかった。そこから始まっているんです。ということは、子どもだろうが大人だろうが、自分自身の浮力が全く確保できないところから始まるので、救助相手が誰だろうが関係なく、こういう結果をたどってしまうんですね」
これがもし本当に溺れた人の救助だったら、浮いて呼吸を確保していた人を無理に連れて行こうとして水中に沈めただけ。さらに自分も溺れそうになってしまう。結果的にとても危ない事態となることを実感しました。
さらに流れがあったり、波があったりする環境ではもっと救助が難しくなると斎藤さんは指摘します。
水難学会 会長 斎藤秀俊さん
「波があったらその波に合わせながら浮かせていかないといけない。プールは平面だけど、海の時には波に合わせながら、その波の面を常に基準に考えながら運ぶ必要があります」
ではどうすればよいのか。
まず溺れかけた本人が助かるかどうかは、呼吸を続けられるかどうか。
斎藤さんは呼吸を優先するために、あおむけで力を抜く「ういてまて」を推奨しています。
斎藤さんの指導を受けて、「ういてまて」をやってみました。コツは以下の3つです。
(1)体の力を抜く
(2)靴は浮力になるので脱がない
(3)肺にはなるべく空気を入れる
体の力を抜いてあおむきに水に浮かぶと、実感したのは「靴・サンダルの浮力」。楽な姿勢をとることを助けてくれます。川や海に入る時には履いておくことを心がけ、溺れそうになった時は、脱いだりせずにそのまま浮くことに集中します。
息を吸うと体が徐々に浮き、息をはくと少しずつ体が沈みます。
なるべく肺が膨らんでいる状態を長くするために、「息をはいて吸う」をすばやく行い、肺がしぼんでいる時間を短くすることが大事だと感じました。深呼吸や無理な息こらえという意味ではなく、あくまで「空気を吐く→吸う」を素早くしっかり行うだけで、体が浮き気味になるので落ち着きました。
あとは呼吸に集中するだけで、いつまでも浮いていられます。
この「ういてまて」で落ち着いた呼吸を続けられるかどうかが、いざという時の生死をわけると斎藤さんはいいます。
水難学会 会長 斎藤秀俊さん
「流れや波が限界を超えれば浮いているのもなかなか難しくなります。でも、やはり浮いて呼吸をしっかりと確保ができれば、その間は命を落とさずに済むわけです。とにかくどんな状況でも最後まで頑張って呼吸をするということに専念してほしい」
実際に「ういてまて」の姿勢をとると、周りの様子が見えません。
耳も水中に入るため、音も聞こえにくくなります。周囲の状況がよくわからないのです。
周りは自分に気づいているのか、周囲に危ないものはないかなど、呼吸の確保に集中しながらも、徐々にいろいろなことを考えはじめます。
ここで周囲から、「大丈夫か?」「けがはないか?」などといった「問いかけ」をされてしまうと、答えなければとなって、呼吸が乱れます。実験中もその乱れをきっかけに沈み、水を飲んでしまいました。
周囲から声をかけられると・・・
また、「声かけ」にも注意です。長い言葉は、何を言っているか気になり顔を上げてしまいがちです。
今回かけられて、落ち着きにつながった言葉は「そのままで大丈夫!」 「ういてまて!」 「救助を呼んだ!」 「あと5分がんばれ!」といったような、このまま呼吸をしていれば大丈夫だと安心できるような、短い呼びかけでした。
周りにいる人も慌てたり、不安になったりすると思いますが、まずは、118番(海上保安庁)や119番(救急)に救助を求め、その上で、浮いている相手が “落ち着いて、呼吸の確保に集中できる”よう意識してください。
ここで紹介した「ういてまて」はあくまで最後の手段で、「必ず助かる」対策ではありません。
ライフジャケットを着ることで、助かる確率をあげることもとても重要です。
ほかにも、子どもと一緒にいる時は、目を離さずに、一緒に遊ぶ、ペットボトルなど、ちょっとした浮力を確保できるものを携帯しておくなどできることはいろいろあります。
自分たちにとって安全な遊び方は?念のために準備するものは?
水辺を楽しむためにも、ぜひ川や海に出かける前にぜひ一度考えてみてください。
潜水カメラマンの私たちは、水中撮影を安全に行うために厳しい訓練を受けています。
しかし、それでも、今回、川や海に隠された危険や溺れた時の対処法などを、改めて水の中に入って取材すると、想像もしていなかった状況が数々と起こりました。
「水」という危険と隣り合わせの環境だからこそ、その「危険」をきちんと知っておくこと、いざという時は落ち着いて適切な行動をとること、そして、1人で無理をせず誰かに助けてもらうことは、自分の、そして大切な人たちの命を守るために重要なことだと改めて思いました。