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水難事故 気がつけば沖に・・・ 海に潜む危険「離岸流」の実態に迫る

  • 2022年7月12日

夏の海水浴シーズンを迎えました。
しかし、「海で泳いでいるうちに沖に流され…」という水難事故があとを絶ちません。
その原因といわれているのが、沖に向かう海の流れ「離岸流(りがんりゅう)」です。
「離岸流」での水難事故はどのように起こるのか? 
私たちは、水難学会の斎藤秀俊会長らの指導のもと、実際に海に入って撮影し、その怖さを取材しました。
(【潜水取材班】千葉局/カメラマン 高橋大輔)

沖に向かう流れ「離岸流」とは

海岸にはいろいろな危険があります。
「見えない深み」や、「急に押し寄せてくる高い波」。どれも水難事故を引き起こすものですが、専門家が注意が必要だと指摘するのが、「海の流れ」=「離岸流」です。
「離岸流」とは沖に向かって流れる速い流れのことです。
波やうねりは沖から海岸へと打ち寄せてきますが、打ち寄せられた海水は、流れやすい場所から沖へ戻ろうとします。この沖へ戻ろうとして発生する流れが「離岸流」で、1秒間に2メートル以上流されることもあります。そしてやっかいなのは、離岸流の流れは陸上から見てもどこで発生しているのか、場所を特定することが難しい点です。

見えない海の流れを“見える化”して撮影

危険な離岸流はどんな流れなのか。私たちは、多くの水の事故を調査してきた水難学会の指導のもと、安全対策をしたうえで離岸流の撮影に臨みました。

実験を行ったのは、海水浴場の砂浜からさほど離れていない、ひざ下程度の深さのところ。
海水を色づけできる着色剤を使い、見えない海の流れを見える化しました。

すると、岸へ向かって押し寄せる波とは反対の方向、沖へ向かって着色剤が流れました。これが離岸流です。まいた着色剤は、およそ1分で沖まで一気に広がっていきました。

水難学会 理事 犬飼直之さん
「少なくともここから30~40mぐらいは確実に沖に向かって流れている離岸流が発生しています。30~40m沖合に出るともう足がつかないところになってしまうので、溺れる可能性は十分あると」

「離岸流」に流されたらどうなる?

離岸流に流されたらどうなるのか、救助にあたるダイバーを配置するなど安全対策をとった上で、実際に離岸流の流れに入ってみました。

(1)波打ち際 沖へ向かう強い流れ
砂浜から歩いて水の中に入り、まずひざくらいの水深で海の方に引き込もうとする流れの圧力をふくらはぎに感じました。想像していたよりかなり強い流れのようです。さらに数歩沖へ踏み出すと急な深みが…。強い流れとあいまってバランスを崩してしまいました。もし、これが子どもだったら転倒し波にさらわれても不思議ではありません。例え波打ち際でも、事故の危険性を感じました。

強い流れにバランスを崩す

(2)体が浮くと、流されていることがわからない
離岸流の流れは、足で立っている時には強く感じましたが、深みに移動し体が浮くようになると、流れの強さも方向性も感じないようになりました。もはや離岸流の流れの中にいる、という感覚はありません。自分はその場にとどまって浮いているつもりでも、知らず知らずのうちに沖に流されている感じです。今回は実験なので常に周りの景色や海岸との距離を意識していましたが、遊びに来て知らないうちに離岸流の流れに入ったりすれば、気づいた時には海岸がはるか遠くに…ということも十分に考えられます。

いつのまに陸地ははるか遠くに…

(3)助けてほしくても…自分の状況を伝えられないもどかしさ
砂浜では水難学会の人たちが、私の動きを見守っていました。しかし、陸にいる人がこちらの状況を正確に把握できるのか、とても不安になりました。万が一実験中に溺れたら…。事実、水難学会の人たちも、流されている実験を続けているのか、岸に戻ろうと移動をはじめているのか、まったくわからなかったということです。岸から遠い沖に漂う恐怖を感じました。

水難学会会長 斎藤秀俊さん
「遊んでいるのか、戻れずに困っているのか、陸地にいる人もよくわからない、というところがやっぱり怖いですね。緊急性の判断がしづらく、118番(海上保安庁)や119番(消防・救急)への通報を検討している間に姿が見えなくなる、ということも。ためらわず早めの通報が大切」

(4)焦りは禁物!離岸流には逆らえない
気がつけばはるか沖に、砂浜の人も自分の状況を把握しいるかわからない、ある程度泳げる人であれば泳いで海岸に戻ろうと考えるでしょう。しかし、このとき離岸流に逆らうように泳いでも、その流れに勝つことは至難の業です。私もあえて流れに逆らって泳いでみましたが、いくらがんばって泳いでもいっこうに岸は近くなりませんでした。また、そうした泳ぎをすれば体力を消耗し息もあがってしまいます。そのタイミングで大波をかぶって水を飲んだりすれば、どんどん厳しい状況に追い込まれてしまいます。離岸流は沖に向かってどこまでも続く流れではありません。焦らず冷静に状況を把握し、対応することが肝心です。

 

海で溺れそうになった時、具体的にどうすればいいのか?
「対策編」の記事も、ぜひあわせてご覧ください。
水難事故  “溺れた時” “助けに行く時”何が起きる?どうすれば?

取材後記

今回、「離岸流」を見える化し、初めてその流れに入ってみて、これまでに感じたことはない“恐怖”を覚えました。
波のある海岸ならどこでも発生する可能性があるのに、目で見てわかりにくい離岸流。専門家でもどこに危険性があるのか、実際に海に入ってみないとわからないのが実態です。事故は大きな波が打ち寄せている、強い風が吹いているといった明らかに危なそうに見える場所だけで起こるわけではありません。海をしっかり楽しむためにも、出かける前に少しだけその危険性について話し合ってみてはいかがでしょうか。
私もことしは2人の子どもを連れて海に行こうと思っています。
ライフジャケットや浮き具などを活用した上で、まだ泳げない子どもとはひざより上の水深には入らず、波打ち際でいっしょに遊ぼうと改めて思いました。

 
  • 高橋大輔

    【潜水取材班】千葉局 カメラマン

    高橋大輔

    これまで、被災地の海などを取材してきました。 潜水取材時には、しっかりと安全対策を行います。 こうした安全への意識を届けることで、悲しい事故を1つでも減らしたいです。 子どもたちが水に慣れるよう、ことしは海や川で一緒に遊びたいと思います。

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