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保育士の「虐待」か「しつけ」か… “軍隊“と呼ばれていた保育園

発表会・運動会が完璧 でもその裏は…
  • 2022年12月20日

「私の息子も虐待にあっていたかもしれません」

「保育現場のリアル」取材班の私たちのもとに、こんな投稿を寄せてくれた1人の保護者。詳しく話を伺うにつれて、頭の中でさまざまな思いが交錯しました。

“それは虐待なのか、しつけなのか、そして『保育は誰のためのものなのか』と”
(保育現場のリアル取材班/浜平夏子)

私の頭をたたく息子

声を寄せてくれたのは、関東地方に住む40代の女性です。
女性が保育園の異変に気づいたきっかけは、年少組になったばかりの息子が急に女性の手をつねったり、頭をたたいたりするようになったことでした。

最初は「お友達とケンカをするのかな。つねったりたたいたりはいやだな」と思っていたそうです。

女性
「つねるってどうやって覚えるんだろうと。家でそんなことはしないので、保育園で誰かやっているのを目にしたんだろうなと思いました」

こんなやりとりもありました。

女性「お友達がこういうことするの?」
息子「…」
女性「先生にされるの?」

息子 何も答えずただニヤニヤしている

女性は、保育園に行く前に「ママと一緒にいたい」と、たびたびぐずる息子の様子が気になっていました。

虐待?深まる疑念

そうしたある日、保育園に迎えに行くと、息子が泣いていました。帰りの車の中でたずねると、「水筒をロッカーから取ろうとしたら足の上に落ちてきた」と話しました。

痛さのあまりずっと泣いていたそうですが、「先生は何もしてくれなかった」と子どもなりのことばで訴えてきました。

心配になった女性は、翌日、保育園に経緯をたずねました。園側は、「よくわかりません」と回答したといいます。

血がにじんだようになった親指

数日後、血がにじんだように黒くなりました。年少組になったばかりの息子が、つねったりたたいたりするようになった行動と、泣き続けたはずのわが子に対するそっけない園側の対応。

女性のなかで「息子は虐待にあっているのではないか」という疑念が深まった瞬間だったといいます。

“軍隊”と呼ばれていた保育園

女性は、保育園側の対応を疑うようになり、ママ友から情報を集め始めました。

すると、思わぬ情報を耳にします。

ママ友

知らないの?あの園は“軍隊”って呼ばれている保育園なのよ


“軍隊”。保育園に似つかわしくないことばですが、その真意をママ友はこう教えてくれました。

「しつけが厳しい」
「規律重視で少しでも乱すとはじかれる」
「気に入った子どもにはいろいろ面倒みるが、気に入らない子は放置する」

こんな子どもたちどうしのやりとりを教えてくれたママ友もいました。
(長男は保育園を卒園した小学生、次男は在園中の保育園児)

次男

保育園行きたくない

長男

小学校に行けば楽になるから、頑張れよ

女性は気をつけて保育園の様子を観察することにしました。

園の廊下できれいに整列して体育座りをする年長組の子どもたち。

“お兄さんお姉さんになるとさすがね”と思った矢先、列が乱れた子どもの足を保育士は蹴るようにして指導したのを目撃したのです。
子どもが保育士から手を踏みつけられたというママ友の声もありました。

ただ、息子はなかなか保育園での様子を話そうとはしませんでした。

女性は、あれこれ息子にたずねましたが、黙ってばかり。ひと言だけ「先生、おててをペシンするんだよ」と話したといいます。

きらきらぼしが完璧に でも…

この園は、習字や踊りなどを教える「教育」が充実した保育園として、一部の保護者から人気があったといいます。息子と同じ年少組の女の子は、器用に踊りもできて保育園に楽しく通っていたそうです。

もちろん女性自身も、発表会で、年少組の息子が「きらきらぼし」を鍵盤ハーモニカで上手に弾けた時、すごいと思ったといいます。
運動会も完成度の高い運動会でした。

しかし、いろいろなことがわかってくると、その裏には厳しい指導、もしかすると虐待もあったのではないかと想像してしまうようになったといいます。

ママ友とのLINEでのやり取り

女性は、園に抱いた疑問と周りのママ友たちの声を自治体にぶつけましたが、「園側が認めないのでこれ以上は対応難しい」と回答されたということです。

転園しておしゃべりになった息子

結局、女性は転園を希望し、息子は年中組からは別の保育園に通い始めました。
すると、息子は楽しそうに園での様子を話すようになりました。

女性は、おしゃべりになった息子をみて本当に転園して良かったと感じる一方、前の園での出来事を思い返しました。

息子に当時のことをたずねても「その話はいやだ」と言われ、保育園で虐待があったのかは、結局、はっきりわかりませんでした。
ただ言えるのは、息子は年少組の保育園が嫌いだったことです。

女性
「幼い時に完璧を求められると子どもはつらいだろうなって思いますね。親を満足させたいのか、先生が指導力を見せたいのかわかりません。私は、そういう保育は求めていません。子どもが穏やかに健やかに過ごしてくれたらそれがいい」

私たちは、「保育現場のリアル」と題して、さまざまな保育の実態や課題を取材しています。
そのなかで、多くの保育士の方々が大変な境遇のなかで、精一杯の保育を実践していることを理解しているつもりです。そして、そのことをこれまで何本も記事にさせていただきました。

ただ、今の保育現場では残念ながらさまざまな問題が起きていることも事実です。

ぜひ保育の現場で気になること、情報や​​​ご意見をこちらの 投稿フォーム よりお寄せください。

  • 浜平夏子

    首都圏局 記者

    浜平夏子

    2004年(平成16年)入局。宮崎局、福岡局、さいたま局を経て、2020年から首都圏局。医療取材を担当。  

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