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「使用済みおむつの持ち帰り」なぜ?保育園の“謎ルール”

  • 2022年8月23日

「使用済みのおむつは保護者が持ち帰る」
「3歳児以上の給食はおかずだけ、ごはんは持参」
「シーツや布団カバーは家庭で手作り」 …などの保育園の決まり事。
SNSでは、こうしたルールを疑問視する保護者の声が多く見られます。
ちょっとした困り事のように思えるかもしれませんが、働く保護者にとっては、大きな負担になっているようです。どうしてこのようなルールがあるのか?
シリーズ初回は、「おむつ持ち帰り」の“謎”に迫りました。
(首都圏局/ディレクター 大岩万意・大久保美佳)

保護者を悩ませる「使用済みおむつの持ち帰り」

息子が保育園に通っている、埼玉県深谷市在住のあいさん(仮名)。
あいさんの子どもの保育園では、使用済みおむつを保護者が持ち帰る決まりです。お迎えの際、息子が小さい頃など多い時には7~8個の使用済みおむつを渡されていました。長女も登園し、おむつをしていた頃は、2人分を合わせて15個ほど毎日持ち帰っていたそうです。

あいさん

送迎する車の中にも臭いが残ってしまって、夏場は特につらかったです。なぜ保育園で廃棄してもらえないのか、疑問です…。

取材を進めると、ほかにも「臭いが気になって、お迎えのあと買い物に行けない」「バスや電車に乗りづらい」などといった保護者の声が聞かれました。

保育園にも負担になっている「持ち帰りルール」

保護者を悩ませる「おむつの持ち帰り」。実は、保育園にとっても負担になっているということがわかりました。

訪ねたのは、2年前まで「持ち帰りルール」があった東京・小平市の保育園です。
この園で1日に出る使用済みおむつは250個以上。その管理が大変でした。
おむつに書かれた名前を確認し、保護者が持参したビニール袋に入れるという振り分け作業を毎回行わないといけないからです。

 

ゆたか保育園 福田陽子園長
子どもたちの安全を見ながらの作業となるので、ちょっと入れ間違うこともある。保育士の負担になっているところもあったと思います。

神奈川県では5割の自治体で…“おむつ持ち帰りルール”の実態

ちなみに、ディレクターの子どもが通う東京都の公立保育園では、おむつの持ち帰りルールはありません。それでは、持ち帰りルールのある自治体はどのくらいあるのでしょうか?
民間団体が全国の自治体に「公立保育園でおむつ持ち帰りルールがあるか」調査を行ったところ、「ある」と答えた自治体の割合は、首都圏では下図のようになりました。

東京都では数年前からルールの見直しが進んでいるため、持ち帰りルールがあるところは少なくなっています。ちなみに、23区内ではゼロでした。
神奈川県では5割以上。栃木県、群馬県、埼玉県などでも割合が高くなっています。
保護者・保育園の両者にとって負担となっているルールが、なぜ存在しているのでしょうか…?

団体が同じ調査で持ち帰りルールの理由を自治体に聞いたところ、「子どもの体調管理のため」という回答が43パーセントと最多でした。
「便の回数や状態を保護者に確認してもらう」という目的だといいますが、取材でお話を聞いた保護者の中に、持ち帰ったおむつを開いて便を確認するという方はいませんでした。

その次に多かったのが「今までそうだったから/理由はわからない」という回答。見直しが行われないまま慣習化した古いルールが残っているのではないかと調査した団体は指摘しています。

「おむつ持ち帰りルール」撤廃に成功!カギは負担の“数値化”

いざ古いルールを変えようとしても、おむつをゴミに出すときの処理費用の問題などがあり、簡単にはいかない事情もあるそうです。
そんな中、その費用を自治体に負担してほしいと声をあげ、ルール撤廃に成功したのが、前述の小平市の保育園です。

3年前「おむつ処理にかかる費用を市で負担してほしい」と、市内の私立保育園と共同で小平市に要望書を提出したのです。
この要望書のために保育園の先生たちが行ったのが、保護者や保育士の負担をデータとして表すための「数値化」です。

まず、持ち帰るおむつの重さを量りました。
すると、1人あたり毎日平均600グラムほど。着替えやタオルなどほかの荷物と合わせると、多い時には2.5キロほどになることがわかりました。

 

ゆたか保育園 福田陽子園長
仕事からまっすぐお迎えに来る方などは、この荷物を持って、夕飯のお買い物に行ったりする方もいたので、すごく負担をかけていたなと思います。

保育園側の負担も、数値化しました。
園で毎日行われるおむつ替えの頻度は、園児1人あたり7~9回。そのたびに個別の袋に仕分けし、お迎えの前には、持ち帰る袋にほかの園児のおむつが入っていないか、5~10分かけてチェックしていました。「持ち帰りルール」のために、多くの時間と労力が費やされていたことが改めてわかったのです。

こうしたデータに34の私立保育園の園長の署名を添え、小平市に要望書を提出したところ…。
翌年要望が認められ、小平市のすべての認可保育園を対象に、おむつ処理の費用が予算化されました。先生たちの細かい努力が自治体を動かし、園で廃棄することができるようになったのです。

 

みんなで考えて制度化してもらうことに結びついたというのは本当にいい事例。子どもたちと保護者のためにも、もちろん保育園のためにもなっていて、本当によかったと思っています。
ゴミ処理費用の予算が出ないと、保育士の給与をカットするなど、保育園の運営費でやりくりしないといけません。これは、保育の質にも関わる問題だと思います。

保育園の“謎ルール”にどう向き合えば?

「おむつの持ち帰りルール」など保育園の決まり事。実際、“謎”と思っていても言い出しにくいのが本音ではないでしょうか?
「親のわがままと思われるのではないか…」
「保育園の先生の負担も増やしたくないし…」
子どもを保育園に預けるディレクターも、そんな気持ちになったことがあります。保護者として、こうした“謎ルール”にどう向き合ったらいいのか。保育の専門家にうかがいました。

保育と家庭の関わりに詳しい 玉川大学 大豆生田啓友教授
「保護者と保育士の両方の負担を減らすことは、大人がよりじっくりと子どもと関わる余裕ができるということ。結果的には子どもにとってもプラスなんです。社会全体で子育てや保育を支えていくためにも、費用の問題などは自治体などが負担するのが望ましいと考えます」

取材後記

保育園の“謎のルール”。取材してみると、保護者だけでなく、保育園にとっても負担になっているケースがあることがわかりました。その中で、古い慣習を今の時代に合わせて「変えていこう」とする現場の声も見られました。
当たり前と思われてきたルールを一度見つめ直して、「子どもにとって何が最善か」社会全体で考えていく必要があると感じました。

 

保育・教育現場の身近な“謎ルール”募集します!「これって謎ルール?」という保護者の方の声や
「私の職場ではこんなルールをやめた」などの現場からの声…
あなたの周りの“謎ルール”について、情報を こちら までお寄せください!

  • 大岩 万意

    首都圏局 ディレクター

    大岩 万意

    2014年入局。大分局・福岡局を経て、2022年から首都圏局。障害者や介護など福祉分野を取材。3歳の息子が保育園に通う。

  • 大久保 美佳

    首都圏局 ディレクター

    大久保 美佳

    2020年入局。貧困や福祉、労働問題などに関心を持ち取材中。

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