コロナ禍の中、保育現場をめぐって「待機児童問題」だけでなく、新たな課題も出ています。
待機児童の問題が深刻だった東京23区の認可保育所のうち0歳児の定員の状況を調べたところ、ことし4月の時点で、定員に満たない施設が半数を超えていることがわかりました。
保育現場では余裕が生まれ、保護者にとっても利用しやすい状況になっている一方、施設の経営面など新たな問題も出ています。
(首都圏局/記者 浜平夏子、氏家寛子 おはよう日本/ディレクター 谷圭菜、蓮見那木子)
「定員割れ」の実態はどのようなものなのか。今回NHKは、待機児童が特に問題となった東京23区にアンケート調査をしました。
自治体が状況を把握している認可の保育施設を対象にしたところ、0歳児では「53%」、1歳児では「31%」、2歳児では「40%」の施設で、「定員割れ」が起きていることがわかりました。
このうち0歳児の状況について、東京23区を詳しく見ていきます。各区の状況は次の通りとなっています。
その理由を複数回答で尋ねたところ、次のような結果となりました。
少子化の影響、新たな保育施設の開設で埋まりにくい、コロナの感染不安などによる利用控え、などとなっています。
保育施設のあり方が社会問題となったのは6年前。「保育園落ちた、日本死ね」という匿名ブログをきっかけに大きな議論となりました。
以来、国や東京都は待機児童問題を解消するため、保育施設の新規開設を後押しし、保育の「受け皿」を急拡大してきました。
一方で、出生数は減少。東京でも5年連続で子どもの数が減り、10万人を切りました。
保育の受け皿が大幅に増える一方で、子どもの数が減り、「定員割れ」が起きてしまっているのです。
定員割れは、この1、2年で表面化した問題で、利用者の立場からみると、「空き」があるということ
で利用しやすくなっています。
一方で、進みすぎると利用者にも悪影響が及ぶこともわかってきました。
新宿区に住む寺田牧子さんです。
おととし、生後5か月の娘を認可外の保育施設に入園させることができました。
しかし入園からわずか一か月半後、「今年度をもって閉園する」と言われたのです。
入ってまだ一か月半だったので、そんな急に(閉園が)分かるんだという驚きですよね。
当時、保育施設は定員の6割しか埋まっておらず、運営会社からは「定員割れで採算が取れなくなった」と説明されたといいます。
寺田さんは、保活のやり直しを余儀なくされました。
とにかく不安しかなかったです。次の新しい園がみつかるかどうかという不安もそうですし、新しい園で子どもがうまくできるのかという不安もあった。
結局、区内では条件に合う保育施設を見つけられず、となりの区にある施設に子どもを預けざるを得なかったと言います。
できれば1年くらい前には(閉園の計画を)言っていただいて、さらに転園先も確保した上で、閉鎖してほしかったなとは思います。
こうしたなか、保育施設を計画的に閉園させる自治体も出始めています。
東京・港区が設置した認可外の保育施設です。オープンから4年。7月末での閉園が決まっています。
この施設の半径1キロ以内にある10の認可の保育施設すべてが定員割れとなっています。港区は、この施設を閉園させ、近くの別の施設に入園を促すことで地域の保育施設の経営を安定させる狙いです。
区と施設では、保護者ひとりひとりに閉園1年前から理由を説明。次の行き先も確保しました。
子どもが慣れ親しんだところで続けてほしいって思いもあるんですけど、次の移転先も確保していただいているのでそのへんは不安はあまりないです。
区では、今後10年で10あまりの保育施設の閉園に着手することにしています。
港区 菊池太佑保育政策課長
「保育定員と需要のバランスを、いかにはかっていくべきかというところが必要なところかなと思っております」
定員割れへの23区の自治体の対応はさまざまです。
例えば、千代田区や渋谷区や足立区などは施設に補助金を出すとしています。
また、千代田区や港区では、定員を削減して受け皿を縮小するということです。
もちろん、自治体によってはまだ待機児童がいるところもあります。そのため、待機児童と定員割れの両方の問題が起きているというのが現状です。
子どもの政策に詳しい日本総研の池本美香上席主任研究員は、今の状況について次のように指摘しています。
日本総研 池本美香上席主任研究員
「待機児童が深刻だった自治体でも低年齢児に空きが出るなど、急な変化に驚いている。定員を満たさないことは、余裕をもった保育ができるという利点があるが、経営が立ちゆかなくなる側面もある。今後、さらに少子化が進むなか、施設の定員基準など制度の見直しを検討する時期にきているのではないか」
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