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関係人口増加がコロナ後の地域活性化の鍵?松田町や湯河原町では

  • 2022年5月10日

新型コロナウイルスの感染拡大で、家庭や職場など、さまざまな場面でリモート化が進んでいます。これまでつながれなかった人とインターネット上で「つながる」というコロナ禍で起きた変化が、地域を活性化させるカギとなるかもしれません。神奈川県西部の新たな動きを取材しました。(横浜放送局 小田原支局/記者 豊嶋真太郎)

コロナで苦境の和菓子店 家で楽しむ「和菓子キット」

県内有数の観光地、神奈川県湯河原町。都内からのアクセスがいい温泉地として観光客に人気でしたが、新型コロナの感染拡大で、2020年度は宿泊客数が前年度から3割近く減少するなど、影響が出ています。

こうした変化は、町の和菓子店にも打撃を与えています。来年で創業70年を迎えるこの店の売りが、店内で楽しめる和菓子の手作り体験です。

色とりどりのあんを練り込んで木べらでかたちを整えると、桜やすみれなど、季節の花をかたどった本格的な「上生菓子」ができあがります。毎月、モチーフとなる花が変わり、季節を楽しみながら和菓子を作れると人気で、新型コロナが流行する前は年間5000人ほどが体験に参加していました。

子どもから大人まで年代は幅広く、台湾やハワイから訪ねてきた人もいたといいます。しかし、新型コロナの流行以降、体験客の数は半分以下にまで激減しました。

 

店主 小菅奉和さん(68)
非常に厳しいですね。観光でいらっしゃるお客様が減少しているなかで、どう生きていくかということが非常に問題だと思います。

影響があったのは、売り上げだけではありませんでした。

 

ただ作るだけではおもしろくないので、会話のやりとりをしながら作っていく。さまざまな年代のお客様がいますから、その方にあわせた会話は非常に楽しい。小さいときに家族と来たという方が、お菓子を作るのが楽しかったから、今度は大人になって友だちを連れてきたという話もあります。それだけに、(体験に来る人が減るのは)非常に寂しいですよね。

苦境を打開するために企画したのが、自宅で楽しむ和菓子作り体験です。
和菓子の材料となるあんと木べらが入ったキット、それに、小菅さんみずからが出演し、細かい手つきまで確認できる動画を制作しました。

息子の修さんの力も借りて、必要な資金80万円はクラウドファンディングで集めました。本当に資金が集まるのか不安も大きかったといいますが、過去に手作り体験をした人などから、あたたかいメッセージとともに支援が寄せられ、期限の3日前には目標金額を達成しました。
キットと動画はセットで、インターネットで販売される予定です。

店主 小菅奉和さん
「以前に来たお客様も金額は少ないんだけれども、応援しますよという方が何人かいて、非常にうれしかったですね。コロナに対してね、しょぼんとしぼむだけではだめだから、自分からなんとかコロナに立ち向かう気持ちを持って、商売というのをやっていかなくてはいけないなと思います」

ご当地検定 リモートで全国から受験者が

こうした変化は、地域の店舗だけでなく、自治体にまで及んでいます。

神奈川県西部の松田町。山に囲まれた人口1万人あまりの小さな町です。地域の歴史や文化を知って町の魅力を再発見してもらおうと、5年前に”超ローカル”な、ご当地検定を始めました。その名も「まつだマイスター検定」です。

問題は全部で50問、90点以上取れば合格ですが、あまりの難しさに、過去9回の検定試験で合格した人はわずか2人でした。
難問とされる問題を、実際の過去問からいくつかご紹介します。

問題(1)
町にある寄(やどりき)神社。歴史上のある有名な人物の妻の安産祈願が行われたといわれています。
その武将とは誰でしょう?

正解は…
大河ドラマでもおなじみの「源頼朝」です。妻・北条政子の安産を祈って使者を派遣したと言い伝えられています。

問題(2)
江戸時代の大名行列を再現した町の無形文化財「松田大名行列」。
独特なかけ声、「ひぃーはーひぃーえーん」、このあとに続くのは?

正解は…
「やっとまーかせ」

ほかにも、町にあるマンホールのデザインや、町民の親睦を目的に開かれるスポーツ大会の競技種目を問うものなど、難問ばかりです。

生まれも育ちも松田町25年、松田町教育課の草野翔太さんの感想は。

草野さん

結構細かいところもあって、実際町に行ってみないとわからないことや調べないとわからないものもあるので、難しいと思います。

 

試験は認知度が低く、過去9回の受験者数はほとんどが1桁でした。
もともとは町役場での受験だけが認められていましたが、おととしからは新型コロナの感染防止のため、オンラインや郵送を使って自宅でも受験できるようになりました。

すると、去年12月の試験では、過去最多の15人が受験。さらに、合格者6人は北は北海道、南は沖縄まで全員が県外在住という予期せぬ結果となったのです。

170キロ離れた茨城から思いを

県外から受験したきっかけを知りたいと思い、合格者の1人で茨城県ひたちなか市の農協職員、古山徹司さん(48)に会いにいきました。

古山さんが暮らすひたちなか市から、松田町までは直線距離でおよそ170キロ。

記者

ずばり、松田町のことは知っていましたか?

古山さん

神奈川にあったんだ、そういう地名があったんだっけかなというレベルでした

 

もともと青春18きっぷで全国を旅するのが大好きだった古山さんですが、この2年は、新型コロナで自粛を余儀なくされました。

そんななか、資格取得も趣味の1つだった古山さんがインターネットで見つけたのが、まつだマイスター検定でした。自宅でも受けられるならと受験を決意した古山さん。地元の図書館で関係する本がないか調べたり、町のサイトにアップされている過去問を解いたりして試験に臨み、見事94点で合格しました。

検定合格者に贈られるポロシャツ

感染が落ち着いたら松田町に遊びに行き、旅行仲間に魅力を伝えたいといいます。

まつだマイスター検定に合格 古山徹司さん
「この検定を通じて松田町を知りたい、見たい、行きたいという気持ちが高まってきました。旅が好きな友だちに、松田町はこうだよというのを情報共有したいです」

松田町政策推進課 小林歌織さん
「こんなに県外の方が申し込みをしてくれているんだと衝撃を受けました。全国にマイスターに認定された方がいることで、そちらの地域でも松田町のことを発信してもらえるとうれしいです」

カギは「関係人口」 コロナで地域に広がるチャンス

地方創生に詳しい専門家は、コロナ禍でリモートが当たり前になった今こそ、多様なかたちで地域に関わる「関係人口」を増やしておくことが、コロナ後の時代を生き抜くカギになると指摘しています。

日本総合研究所 藤波匠上席主任研究員
「日本においてもリモート環境が劇的に改善し、ようやく世界とつながるツールを持った。湯河原町の和菓子店や松田町のご当地検定は、遠隔地とつながることで現状を打開してきた例だといえる。
地方の小さな商店でも、ちょっと珍しいものを扱っていれば、世界中から注文が入るかもしれない。リモートをうまく生かし、その地域に住む人以外で地域に関わり続ける『関係人口』を増やしていくことが地域を活性化させるうえで重要になってくる」

取材後記

私が取材している神奈川県西部の地域は、横浜や川崎といった都市部に比べると知名度は劣りますが、豊かな自然や地域ならではの名産や祭りなど、たくさんの魅力があります。コロナ禍の今だからこそ、そうした魅力がより多くの人に伝わり、継続して関わってもらえるきっかけになればと思いました。

  • 豊嶋真太郎

    横浜放送局 小田原支局記者

    豊嶋真太郎

    令和元年入局、横浜放送局で、事件や事故の取材を経て、現在は小田原支局で勤務。

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