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イギリスで探るヤングケアラー支援のヒント 体制は?活動内容は?

  • 2021年6月11日

30年ほど前からヤングケアラーの支援に取り組んできたイギリス。今では少なくとも300の支援団体が活動しています。ようやく動き始めた日本のヤングケアラー支援のヒントを探ろうと、イギリス中部で活動する支援団体に話を聞きました。
(国際部/記者 山本健人)

ヤングケアラー支援専門の団体として立ち上げ

今回、話を聞かせてもらったのは、イギリス中部にある都市シェフィールドでヤングケアラーの支援を行っている「シェフィールド・ヤングケアラーズ」のサラ・ゴーウェン代表です。ゴーウェンさんは、20年以上にわたってヤングケアラー支援に携わるとともに、地元の大学の研究員として、支援に関する研究にも取り組んでいます。

山本記者

「シェフィールド・ヤングケアラーズ」とは、どういう団体ですか?

サラ・
ゴーウェンさん

1997年に設立されたチャリティー団体です。シェフィールドには、「家族を介護する大人」を対象とした支援団体はありましたが、介護を担っている若者や子どもたちもいる実態が徐々に知られるようになり、「家族を介護する若者や子どもたち」であるヤングケアラーを支援する専門の団体として立ち上げられました。

毎年200人以上を受け入れ 活動資金は寄付と助成金

 

どのような体制で支援活動を行っているのでしょうか?

 

立ち上げた当初は、数人のメンバーしかいませんでしたが、現在は、私を含めて16人の正規スタッフが働いています。毎年、およそ200人のヤングケアラーを受け入れていて、16人のスタッフ全員で支援に当たっています。数人のボランティアにも手伝ってもらっていますが、子どもやその家族との直接のやりとりなど、責任が伴う業務はスタッフが行っています。

 

活動資金はどのように得ているのですか?

 

団体の財源は、寄付と地元自治体からの助成金の2種類です。年間の予算のおよそ75%が寄付で、残りはウィンチェスター市からの助成金です。最も大きな寄付の提供者は、ナショナル・ロッタリー(=国営の宝くじ)です。このほか、地元でイベントを開くなどして、個人からの寄付を募っています。地元自治体からの助成金は、その時々の市の財政状況に影響されますし、毎年寄付をもらえる保証はないので、支援活動を途絶えさせないためにも、寄付してもらえる人を探し続けなければなりません。

1年間のプログラムで自由に選べる支援メニュー

 

どんな支援活動を行っているのですか?

 

1年間のプログラムの中で、必要なメニューを自由に選べるようになっています。

●放課後クラブ
地域にある公共施設で、毎週、同年代のヤングケアラーが集まり、介護やケアの悩み、不安を共有します。多くのヤングケアラーは、家族に送迎してもらうことができないので、経済的な理由で来られない子どもたちのために、私たちが交通費を負担しています。

●担当者と1対1の面談
団体の担当者がヤングケアラーと定期的に面談を行い、介護やケア、それにふだんの生活などのことで相談に乗っています。介護やケアの負担が急激に増えているといった、ヤングケアラーの変化に気付くきっかけにもなります。

●家庭訪問
介護やケアの負担が特に重いケースなどでは、担当者が家庭訪問を行います。家族も交えて話をすることで、ヤングケアラーが抱えている負担の深刻度を確認し、必要があれば公的サービスにつなげています。年間でおよそ40の家庭が対象となっています。

●レスパイト活動 ※レスパイト=息抜き
ヤングケアラーどうしで遠足に出かけたり、スポーツをしたりする機会を設けています。日々の介護やケアから少しのあいだ離れ、子どもらしくふるまうことで、リフレッシュしてもらいたいのです。

隠れているヤングケアラーをいかに見つけ出すか

 

支援するにあたって重視していることはありますか?

 

ヤングケアラーをいかに見つけ出し、支援につなげるかです。早くから支援の始まったイギリスでも、家族の介護やケアを周りに言えなかったり、本人がヤングケアラーであることを認識していなかったりして、支援につながれていない子どもたちが依然として多いのが現状です。家族が病気になったり、障害を持ったりして、新たに家族の介護やケアを担う子どもたちは、毎年増えています。隠れているヤングケアラーを見つけ出すことは簡単ではありませんが、私たち大人たちが探し続ける努力をしなければなりません。

どうやって支援が必要なヤングケアラーを見つけ出しているのですか?

 

ヤングケアラーを最も見つけ出しやすいのは、子どもたちと接点が多い学校です。私たちは学校の教職員やソーシャルワーカーに対して、支援が必要な子どもたちの兆候を見つけ出すための研修を行っています。例えば、疲れて授業に集中できていなかったり、宿題の提出状況が悪くなったりした子どもに対して、声かけをすることが有効です。

 

具体的にはどんな声かけをしているのですか?

 

本人自身がヤングケアラーであることを認識していない場合があるので、「あなたはヤングケアラーですか?」と聞くのではなく、「家ではどんなことをしているの?」「家のことで疲れてない?」といった声かけが適切です。また、自分がしている介護やケアのことを話し出すタイミングは子どもによって異なるので、一度本人が「大丈夫」と答えても、定期的に声をかけることが大切です。学校で見つけ出したヤングケアラーとみられる子どもたちの情報は、学校の関係者や支援団体の担当者が集まって共有する場を定期的に設けています。今後は、医療機関にも情報を提供してもらえるよう、働きかけて行きたいと考えています。

日本に向けたメッセージは

 

支援に取り組み始めた日本に向けたメッセージはありますか?

 

イギリスでも、今のような支援体制ができるまで、かなりの時間がかかりました。1990年代に国のレベルでの調査が行われ、支援策がまとまり始めてから、シェフィールドのような地域レベルで支援の動きが少しずつ広がっていき、関係機関の連携も進んでいきました。支援体制を作っていく上で重要なことは、当事者から直接話を聞いて、ヤングケアラーとその家族がどんな支援を必要としているのか、一緒になって考えていくことだと思います。

 

  • 山本健人

    国際部 記者

    山本健人

    2015年入局。初任地・鹿児島局を経て現所属。 アメリカ担当として人種差別問題などを中心に幅広く取材。

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