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大空幸星さんと考えるヤングケアラー支援

~SOSなき若者の叫び(5)
  • 2022年5月6日

現役の大学生で、NPO法人「あなたのいばしょ」理事長を務める大空幸星(おおぞら・こうき)さん。
自身も複雑な家庭環境で育ち、過酷な生活を送る中で生きる意味を見失ったことも。
NHKスペシャル「ヤングケアラー SOSなき若者の叫び」でナビゲーターを務める大空さんと一緒にヤングケアラー支援について考えます。

記事の後半では、生活困窮者を支援するNPO理事長の奥田知志さんとの対談について詳しくお伝えします。
(NHKスペシャル「ヤングケアラー SOSなき若者の叫び」取材班
/記者 鵜澤正貴・ディレクター 山根拓樹)

現役の大学生が「望まない孤独」解消へ NPO設立

「大空幸星さん」

慶応大学に在学中の大空幸星さん(23)。2020年3月にNPO法人「あなたのいばしょ」を設立しました。

話したくても話せない、頼りたくても頼れないといった「望まない孤独」が多くの社会課題の背景にあるとして、このNPOでは相談員が365日24時間体制で、さまざまな悩みを抱える人からの相談に、無料・匿名のオンラインのチャット形式で応じています。

相談は増え続け、いまは1日1000件以上の相談を受けています。
対応が追いつかなくなり、すぐにメッセージを返せない時間帯も出てきているということで、こうした課題に社会全体で取り組む必要性を訴えています。

NPO法人「あなたのいばしょ」の相談フォーム

大空さんがこのチャット形式での相談窓口を立ち上げた背景には、自身の「居場所がない」と悩み苦しんだ経験があります。

著書の中で詳しく触れていますが、複雑な家庭環境で育ち、過酷な生活を送る中で一時は生きる気力を失うほど追い込まれました。

そうした中で高校時代に信頼できる教師と出会って孤独から抜け出し、それまで考えもしなかった大学進学を考えるようになります。

大学で学びながら、みずからにとっての恩師の存在のように、悩んでいる人に対し身近に相談できる場所を作りたいという思いでNPOを設立したのです。

ヤングケアラーは“かわいそうな存在”ではない

NPOには、ヤングケアラーとみられる若者からの相談も増えているということです。

大空さんは次のように話しました。

大空幸星さん
「私自身も病気を抱える母親と2人で生活してきた経験があります。ヤングケアラーと言っても、決してそれがイコール“かわいそうな存在”ではないと思っています。ヤングケアラーも家族を支える役割を感じられれば、それが存在意義である場合もあるからです。ただ、それが行き過ぎて、子どもたちが何かを犠牲にした瞬間にそれは正常ではなくなるので、第三者が関わって社会が伴走することが望ましいと考えています」

奥田知志さんと対談 ~SOS発しない若者 どうすれば

写真右:NPO法人理事長 奥田知志さん

大空さんは今回、私たちとヤングケアラー支援の課題について考えるにあたり、北九州市で生活困窮者を支援するNPO法人「抱樸(ほうぼく)」の理事長を務める奥田知志さんと対談しました。

奥田さんは長年、生活に苦しむ子どもや親と向き合う活動を続けていて、大空さんにとっては先達のような存在です。

 

大空さん

ヤングケアラーの当事者からは、支援を頼ったとしても何も変わらないかもしれないという声もあって、僕も1人の支援者として非常にもどかしい思いとともに何ができるだろうと考えています。どうせ支援をしてもらっても変わらないという考え方をどのようにすれば、変えていけると思いますか?

奥田さん

生活困窮者の支援を長くやってきましたが、何をもって解決かというと終わりがないんです。解決とは何か。私は1人にしないってことだと思うんですね。一緒に考えてくれる人、一緒に悩んでくれる人、私はそれを伴走と言いますが、そのつながりがあるということ自体も実は解決のイメージなんです。
特にヤングケアラーの場合は、実はケアされている親も孤立しているわけですよね。身内の問題にはタッチしないというのを乗り越えていくということを社会全体でやらないといけない。

 

親が行政に支援を求めてしまうと、親失格とか親として機能していないと行政側から見なされる可能性がある。ある意味で人間は役割を持つということが自分の存在意義にもつながってくると思うんです。自分の存在意義が揺らぐような役割を奪われるということが支援を求めることによって起こるんじゃないか、こういう非常に複雑な親の心境があると思うんです。

 

親と子の関係とか役割というのは1本2本のラインじゃないですよね。私は「伴走型の支援」ということをずっと言ってきて、その中の1つのテーマは家族機能をいかに社会化するか
例えば長期の引きこもりにしてもヤングケアラーにしても、社会で代替できるものはする。親しかできないことや子どもしかできないことはあるので、引き算しても残るものはあります。

 

とにかく犯人さがしをしないことが絶対大事だと思います。こうなったのは誰が悪いというのはやめるべきです。ダメなことはダメと言うべき場面があったとしても極力、犯人さがしをしない。現実から入ってどう社会が家族全体を支えていくか、まずはここをやるべきだと思います。

“質より量”「伴走型」の支援 ゆるいつながりを

大空さん

番組で紹介する男性は、母親や祖母をケアしてきたのは大変だった一方で、大切な時間だったと話しています。ここを忘れてはいけないというか、ヤングケアラーはなんとなくかわいそうな存在となりがちですが、当事者自身がどう思っているのかという点に目を向ける必要があると思います。

奥田さん

彼はいろいろな支援者と出会って、いろいろな人とのつきあいの中で、たぶん過去が変わり始めたんですよね。よく過去は変わらないと言う人がいるけど、そんなことないと思うんです。変えられるのは未来だけど、未来が変わると同時に過去も変わるんですよ。彼自身が社会化されて、自分の経験も含めてもう一度、再定義が始まっている。

 

ヤングケアラーの当事者も家族も、支援の対象であると認識していないかもしれない。でも、社会から孤立させない。伴走型の支援を考えたときに“ゆるいつながり”を地域の中で作っていくべきという考え方でいいでしょうか。

 

まったくそうだと思います。僕が目指してきた伴走型の支援は、100本の糸みたいなもので絡めて、仮に5本くらい切れたとしても変わらないというものです。しかもその糸の方向があっちこっちに広がっているから見方も自由自在。個人とどれだけつながれるか。
専門職による解決も当然必要ですが、一方でつながりは質より量なんです。この質より量という感覚が、僕はゆるやかな優しい社会のベースになったらいいなと思います。解決しないけど、1人にはしないと。

 

私たちのNPO法人が行っている相談窓口は24時間いつでも匿名で相談できます。相談員が海外にいて、時差を使いながら夜間にも対応するというこれまでとは違ったアプローチでつながりを作っています。
いまのヤングケアラーは生まれたころからSNSやスマートフォンがある世代です。対面でのつながりに限定するわけではなく非対面でのつながりを含めて、ゆるい地域のつながりを伴走型でやっていくということですね。

 

非対面はいいですよね。相談窓口にノックして入るのはものすごく勇気が要りますから。ワンストップは下手をするとワンチャンスにもなるので、僕は何重でもいくつでも相談先はあったらいいと思う。ただバラバラに存在している支援者がうまく結ばれていくということは考えなきゃいけない。

行き過ぎた自己責任論 「助けて」のインフレを起こす

大空さん

ヤングケアラー自身がSOSを出しにくいという背景の1つには、問題や悩みというのは、自分1人で対処しなければいけないんじゃないかという、かなり懲罰的な自己責任みたいなものが家庭の中に蔓延してしまっている現状があると思います。

 

自立というのは孤立するという意味ではなく、もちろん自分自身でできることをやるのはいいと思います。
ただ、家族のケアをしていく中で自分自身の時間が取れない、就職活動の時間が取れない、結婚できないかもしれない、何かを犠牲にしなければいけないときにはどんどん家庭の外に頼っていきましょうと。それこそがある種の新しい自立なんじゃないかと思うんです。

奥田さん

歪んだ自立主義みたいなものが生み出したのが自己責任論です。私は自己責任そのものは大事な概念だと思います。自分が主体なんだ、自分が選び取れる、これが自己責任ですから。
でもいま世の中にある自己責任は、周りが助けないための理屈です。それはあなたのせいでしょう、頑張らなかったからでしょうと。でも本音は手伝いたくありません、関わりたくありませんということです。

 

本当の意味での自立、「自助」は、横に「共助」もいて、俺たちも見てるぞ、助けるぞと。「公助」は国が絶対あなたのことを見捨てないと。そのことが宣言されたときに自己責任が取れるわけですよね。
僕が目指すのは、本当に自己責任を取れる社会、そのためには「共助」も「公助」ももうちょっとしっかりしないと。それは身内の責任だとかそれは家族の中の問題だって言い出すと、これは難しいという話になるんです。

 

人間が自立して生きていくためには、依存先をどう増やすかということがもう絶対的な条件です。助けてという言葉はみっともないとか、情けないとか、恥ずかしいとかみんな言うけどそんなことはない。僕から見たら最も人間らしい言葉です。
私は「助けて」のインフレを起こした方がいいと思う。災害時などいざとなったら助け合おうと言うけど、日ごろ助け合っていない人がいざという時に助け合うはずがない。こんにちは、さよならの代わりに、助けて、また今度みたいな、そんな社会をつくったほうが早い。

「解決してやろう」とは思わない

大空さん

ヤングケアラーの当事者自身の話を聞ける存在を地域の中でつくっていく。支援者もしくは専門家だけではなくて、本当にごくごく身近にいる人もまさにヤングケアラーの話を聞ける主体になる。
ただ、この子もしかしたらヤングケアラーかもしれないとか問題を抱えてしんどそうと思っても、なかなか何をしたらいいかわからないということもあると思います。

 

僕が取り組んでいる自殺の問題でよく言うのは、決して専門家だけの支援ではダメだと。周りにいる人たちが話を聞ける存在でなくてはいけないということが大前提としてあります。
例えば相手に声をかける時に「大丈夫?」と聞いてしまうと「大丈夫」と答えるわけです。イエスかノーでしか答えられない質問は使わない。「最近一番楽しかったことは何?」とかオープンクエスチョンで話すのもいいかもしれませんが、私たち一人ひとりがヤングケアラーの話を聞ける存在、すなわちそのつながりとなり得る存在になるには何をすればいいと思いますか。

奥田さん

なかなかこれは難しい。一番大事なのは解決してやろうと思わないことですね。俺がなんとかしてやるというのは、特に傷ついた人たちはものすごく敏感に“上から目線”はわかってしまいますから。
特に周りの多くの人たち、日常を共有している人たちはつながるというアプローチで勝負してほしい。事実は何かという探求なんかはどうでもいい。それよりもその子がその日しゃべった、その子が話をしたということに価値を置いてほしい。
だからあまり詰めない、そしてあまり解決を求めるプレッシャーをかけないという、とにもかくにも「つながる」ということがやはり一番大事だと思いますね。

 

それともう1つ、僕らがよくやるのは非言語的アプローチ。これがやはり大事で、子どもたちの支援でも魚釣りに行こうとか、プロレスを観に行こうとかそういうのが一番手っ取り早い。直接、それが子どもの何か問題を解決しているかはわからないです。
でも僕はつながりの支援においては、あまり拙速に向かい合って「さぁ解決するぞ」ではなくて、三角形の関係を作って、それが四角形になったり五角形になったり六角形になったりするともっとよくなると思います。

 

情緒的なつながりを含め地域の中でつながりを作っていく、ここは私たち一人ひとりができることであると。そしてそのつながりを作っていく中では、まさにその非言語コミュニケーションを多用していくということも必要かもしれませんね。

カジュアルな共感

奥田さん

誰かから助けてと言われたときに、「こんな僕でも何かの役に立つ」「何かが求められている」という自分の存在意義、これは自己有用意識と言いますけど、自尊感情と自己有用意識はセットになる、それをつないでいるのが「助けて」という言葉なんですよね。だから助けてというのは言う言葉でもあるけど、“聞く言葉”でもある。

大空さん

まさに相手を劣位に置くわけではなくて、いま支援をする側もその支援を受け入れる側もまったく同じ土俵に立って、お互いにこう助け合うというつながりですね。

 

ただあえて言うと、世の中には大空さんみたいに「助けて」を聞くのが割と得意な人と、「助けて」と言うのが得意な人がいるわけです。その組み合わせが社会なんですね。だから必ずしもみんなが同じように「助けて」と言って「助けて」と言われるという、そんな平板な話ではなく、うまくそれをコーディネートするととても温かい社会になって、それぞれの自分の持ち味が生かせていくと私はそう思っていますね。

 

今回、番組がヤングケアラー当事者に行ったアンケートでは、声をかけられてうれしかったことや役に立ったことを聞きました。その中には「軽く共感してくれた」とか、「親身になってくれた人がいて初めて自分がヤングケアラーだと事情を話した」といった声があったんですが、どうでしょうか。

 

実感が湧きますよね、どの言葉も。共感って厳密に言うとすごく重いことなんだけど、そこにやっぱり“軽く”という形容詞がつくのは、とてもなんかキワキワのセンスですよね。

 

カジュアルな共感というところですかね。

 

言葉に出さなくても、「お前のことちゃんと見てるで」という、だからこそ何かあったときに「すごく深刻な顔してるよ、なんかあったの?」みたいな話ができるわけで、見てくれてるというのはやっぱりとても大事なことですよね。

取材後記

大空さんと奥田さんの対談からは、社会はヤングケアラーとその家族の支援にどう関わっていくべきか多くのヒントが得られたように思います。

奥田さんとの対談を終えたあと、大空さんは次のように語りました。

「私たち一人ひとりがヤングケアラーやその家族と他愛もない会話をする。最近どうしたのと声をかけていくこともヤングケアラー、そして、その家族の居場所をつくる上では重要かもしれません」

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

疑問やご意見はこちらから

  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年(平成20年)入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。

  • 山根拓樹

    ディレクター

    山根拓樹

    2016年入局。ドラマ、静岡局を経て、2021年から首都圏局。 主に子どもの貧困問題について取材を続けています。

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