外国人観光客に人気の「大宮盆栽美術館」。
ここでイギリス出身の国際交流員が、観光客の案内や情報発信を担っています。
盆栽の知識を一から身につけ、インバウンド誘致に一役買っている国際交流員の仕事ぶりを追いました。
さいたま局記者/粕尾祐介
盆栽は自然の風景を植木鉢の中で表現した日本独自の芸術作品です。
「BONSAI」は世界の共通語になっているということで、海外にも多くの愛好家がいます。
さいたま市北区にある「大宮盆栽美術館」。季節ごとにおよそ70点の盆栽が展示されています。
さいたま市には盆栽園が集まる「盆栽村」と呼ばれる地域が美術館の近くにあり、盆栽の伝統文化を広く発信しようと、平成22年(2010年)に開館しました。
インバウンド誘致を進めている埼玉県。
盆栽美術館は県内では数少ない、外国人観光客に人気のスポットです。
コロナ禍前には年間6700人以上の外国人が訪れ、インバウンド需要の回復で今年も多くの外国人観光客が訪れています。
こうした外国人観光客へのガイドを担当しているのは、ハリー・タートンさんです。
イギリス出身の27歳で、2年前に国際交流員として来日しました。
国際交流員は、派遣された地域で翻訳や通訳などの業務を担い、国際交流の推進に携わります。
タートンさんは、さいたま市から海外への情報発信や外国人観光客への対応を期待され、美術館で働いています。
外国人観光客に盆栽を鑑賞するためのポイントを説明するタートンさん。
より深く理解してもらおうと、盆栽の歴史や背景、掛け軸など日本独自の文化についても話します。
取材した日はイギリスから来た男性に、盆栽を下から見ることで違った見え方ができることを説明していました。
盆栽をしゃがんで見上げると、自然の中に大木があるように見えます。
「とてもおもしろかった。盆栽だけの説明だけでなく日本の文化の説明、水石や掛け軸の説明を通じて日本の文化について深く知った。ガイドがなかったら展示のしかたや、盆栽の背景がわからなかったと思う」
タートンさんは日本の近代史に興味があり、大学で日本語を学びました。
学生時代に日本人留学生に関わったり、日本への留学を経験したりして、国際交流に関わる仕事をしたいと国際交流員になりました。
しかし、盆栽についての知識はほとんどなく、最初はただの植木鉢との違いもよくわからなかったそうです。
盆栽美術館で働くことが決まってから、盆栽について一から勉強を始めました。
ハリー・タートンさん
「盆栽美術館に派遣されるとは思っていなかったので、『えっ』と思いました。盆栽美術館があることも知らず、盆栽の『ぼ』の字も知らなかったので、戸惑いはありました」
タートンさんの仕事は外国人観光客へのガイドだけではありません。
役割のひとつが、毎月変わる展示物の紹介を英語に翻訳することです。
しかし、盆栽の専門用語の翻訳の難しさに頭を悩ませることになりました。
そこでタートンさんが頼ったのが美術館のスタッフでした。
この日は盆栽技師の助けを借りて、新たに始まる企画展の準備を進めました。
幹が斜めに立ち上がっていることを示す「斜幹」ということば。
どのように翻訳するか相談していました。
“斜幹気味”とは。
ちょっと斜めになってて、根っこが上がっていること。
そのままの意味で訳したらわからないと思いますので、
こういう場合は斜幹の言葉をそのまま使って、かっこで意味を補う。
盆栽の専門用語をあえてローマ字にしただけで表記し、その訳を並べて記すことで、日本語や日本の文化に興味を持つきっかけにしてほしいと考えました。
盆栽作家の肩書きも、あえて“Master”などの訳を使わず、“Sensei”と記しました。
日本語で、この方は「先生」とよんでますので、英語でも“Sensei”とよんだら、日本に来る外国人にけっこう喜ばれるんです。
美術館の情報をSNSで発信することもタートンさんの役割です。
自分で盆栽の写真を撮影し、英語と日本語の説明を加えて投稿しています。
2種類のSNSで情報発信していて、フォロワーの半分以上が海外の人です。
美術館で働くようになってから3年目のタートンさん。
今では休日にも盆栽園に出かけるほど、盆栽に夢中だといいます。
学んだことを生かして、今後も日本の文化を伝えていきたいといいます。
ハリー・タートンさん
「仕事でいろいろな人と関わることができて、日本の文化や盆栽を伝えることができたのは、すごくうれしいなと思いました。今後も盆栽だけではなくて、いろいろなことを伝えていきたい」
今回の取材で、国際交流員として働いている人たちの仕事ぶりを知ることができました。
取材を通じて、外国の人たちが日本の文化をどのように見て、どんなことをおもしろがっているか、気づかされました。
インバウンドの誘致を進めて行くには、こうした視点を生かしていくことが重要だと思います。