埼玉県飯能市にことし3月オープンした、飼い犬と一緒に行けるドッグカフェ。“犬専用のジビエ料理”を注文できると愛犬家から注目を集め、県内や東京などから多くの人が訪れる人気のスポットになっています。野生動物による農作物の被害が深刻な飯能市で、捕獲した鹿を有効活用しようという取り組みを取材しました。
(NHK首都圏放送局 ディレクター/有賀実知 )
ドッグカフェのある飯能市は、森林が市の面積の7割以上を占め、東西を入間川が流れる自然豊かな地域です。
晴れた日には、カフェの目の前を流れる入間川で、水あそびやBBQを満喫することができます。周辺は流れが穏やかで浅い場所が多いため、ワンちゃんも遊びやすい環境です。
店内では、ワンちゃんと一緒にお茶や食事をしながら過ごすことができます。販売している犬用ジャーキーも飯能ならでは。これらは全て、飯能産の鹿肉でできているのです。
大型犬のこの子は、骨つきのジャーキーをバリバリとおいしそうに食べていました。
さらに、鹿肉を使ったカフェメニューもあります。
柔らかく仕上げた鹿肉のローストや、かみ応え抜群のハンバーグ、鹿の骨でだしを取った野菜スープもあります。思わず食べてみたくなるほどおいしそうですが、すべてワンちゃん専用。健康のため、調味料などは使われていません。
飯能産の鹿肉を扱っている店は、市内でもこのカフェだけだといいます。なぜ、このような取り組みを始めたのでしょうか。ドッグカフェの運営を行う、遠藤拓耶さんに伺いました。
遠藤拓耶さん
「飯能市は長年、野生動物による農作物被害に悩まされてきました。僕は、7年ほど前に飯能市へ移住をして、そのことを知り、地域に貢献したいという思いから、わな猟の免許を取って鹿やイノシシの駆除をお手伝いするようになりました。
ただ、駆除をした動物のほとんどが、そのままゴミとして処分されている現実に、ショックを受けたのです。駆除はやむをえませんが、『せめて命を次につなげたい』と思い、活用を考えるようになりました」
飯能市の鳥獣被害対策室によると、飯能市では、中山間地域の人口減少などが原因で野生動物の活動範囲が広まり、農作物の被害額は年間2100万円に及びます(令和3年度)。
市の職員や猟友会などが駆除に取り組んできたことで、被害はピーク時に比べて減ってきましたが、駆除をやめれば再び被害が拡大してしまう状況だといいます。
特に個体数が増えている鹿は、年間400頭あまりが駆除されています。 駆除された動物の多くがゴミとして処分されているのは、市内に食肉処理施設がなく、食用としての流通が難しいためです。個人で解体したとしても、飲食店などで提供するとなると食品衛生法の基準をクリアすることができません。
そこで、遠藤さんが始めたのが“犬専用のジビエ”の提供です。
犬専用のジビエであれば、簡単な設備でも販売を始められることを知り、これなら自分にもできると思いました。それに、犬は骨や内臓などの部位も食べることができ、鹿の9割以上を使えるので、ジビエの有効活用にはピッタリだと思いました。
鹿肉は低カロリー、低脂質で、タンパク質や鉄分、ビタミンB12などが豊富に含まれているため、飼い犬の健康を大切にする愛犬家からも注目を集めています。カフェの常連客の皆さんにお話を聞くと、「他のお肉と比べても食いつきがよくて、喜んで食べてくれる」「犬の健康のために食事の1つとして取り入れていきたい」と話していました。
遠藤さんは今後、犬だけではなく人も飯能産のジビエを食べられるよう、地域住民と協力して、ジビエの食肉処理施設をつくる準備を進めています。地域を巻き込んで、飯能産のジビエを盛り上げていきたいと言います。
ドッグカフェという場所のため、今は飼い犬連れのお客さんが多いですが、今後は飯能のジビエを食べに、いろいろな方に訪れてほしいです。ジビエの活用の輪を広げるためにも、地域の皆さんにとって交流の拠点となるカフェを目指したいと思います。