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学校での突然死ゼロを目指して 命救うAED 川越市での授業

NHKさいたま 子どもプロジェクト
  • 2023年03月01日

学校での突然死を防ごうと子どもがAEDや心肺蘇生法を学ぶ動きが広がっています。埼玉県川越市の小学校で行われた公開授業にどんな意義やねらいがあったのでしょうか。
子どもが直面する課題などを考えるNHKさいたま「子どもプロジェクト」で、2人のゲストに話を伺いました。

「ひるどき!さいたま~ず」2023年2月17日放送
(取材:さいたま局記者/高本純一・粕尾祐介)

(左から)千代田さん 桐田さん 粕尾記者 大野アナウンサー

番組では、AEDの普及に取り組んでいる桐田寿子さん、川越市教育委員会で公開授業をコーディネートした千代田和也さん、それにAEDについて取材をしている粕尾祐介記者とともに、小学生が授業でAEDの使い方や心肺蘇生の方法を学ぶ意義について、お伝えしました。

目の前で倒れた人にどう対応 小学校で授業

ことし2月、川越市立中央小学校で、突然目の前で倒れた人にどう対応するかを学ぶ公開授業が行われました。
大人が来るまでの3分間で子どもたちだけで何ができるかという想定で、6年生の児童は役割を分担して、大人を呼びに行ったり、119番通報をしたり、心臓マッサージをしたり、AEDを人形に装着してスイッチを押すまで、体験を通して学びました。

授業の詳しい内容はこちらの記事を

桐田明日香さんの事故を教訓に

AEDや心肺蘇生法を学ぶ動きが広がるきっかけになったのが、桐田さんの長女・明日香さんの事故です。明日香さんは小学6年生だった12年前、学校で心臓発作で倒れて、翌日亡くなりました。意識を失った明日香さんに、教師たちは呼吸と脈があると思い、保健室のAEDは使われなかったということです。

桐田明日香さん
大野アナ

桐田さん、あれから12年になるんですね。

桐田さん

当時、救急隊が11分後に到着した時、心肺停止状態と判断して一生懸命、胸を押してくれる中で、明日香の心臓がぶるぶるぶるとAEDの電気ショックが可能な状態に戻ってきました。まさに使おうといったその直前に心臓が弱ってしまい使われませんでした。もっと早い時間に使用していたらAEDの除細動をかけて心臓の震えをとることができる状態だったというメッセージと受け取りました。そのときに私は、巻き戻せない時間というものを経験しました。

そうしたことを繰り返してほしくないという思いで、千代田さんも学校の現場で取り組んでいるわけですね。

千代田さん

そのとおりですね。

「ASUKAモデル」の活用広がる

明日香さんが亡くなったあと、桐田さんは、さいたま市教育委員会と協力して事故を検証し、翌年、教職員向けに作られた救急対応マニュアルが「ASUKAモデル」と名付けられました。

「ASUKAモデル」作成までの道のりはどうでしたか。

事故当時は、学校や教育委員会と対立もしましたが、その中で、子どもたちの命を守ろうという同じ方向に進み始めました。全国的に各学校でも活用してくれるようになったことは非常に大きいと思っています。

AED

一番のキーポイントは、呼吸があるかないかわからない場合でもAEDを使っていこうよということなんですね。そして、心臓マッサージを行いましょうよということをフローチャートの流れの中でもできていることが画期的だったということですね。

そうですね。救命のハードルを下げるというか、呼吸があるかないか判断ができないというところで、そこを押してくれるガイドラインです。

学校での突然死ゼロを目指す授業

こうした中、川越市で行われた授業を千代田さんがコーディネートされたということですね。

はい。学校における児童生徒の死亡事故の第1位が実は突然死なんですね。

事故やけがじゃないんですね。

そうなんです。このフォーラムは、学校での突然死ゼロを目指して学校の先生による小学校からの救命教育の推進をはかるものでした。

子どもたちの様子をご覧になってどうでしたか。

自分には何ができるかを活発に考えることができていたと思います。

桐田さんも会場でご覧になっていかがでしたか。

子どもたちが自分ごととして、自分の目の前にいる友達とか、大切なその人を救おうという思いで何ができるかを考え、行動していく姿を見られた時に本当に感動しました。

この6年生の授業ではAEDまで使うことができる子どもたちがたくさんいましたよね。

私も見ていて驚きました。胸骨圧迫を力強くできる子どもたちの姿が見られたので、やはり小学校からこうした教育を行っていく必要性を再認識しました。

子どもがAEDを学ぶ意味は

子どもたちがAEDを実際に使う授業でしたが、一方で、子どもたちに使わせて、もしものことがあったらという抵抗感を持つ方も中にはいるのでしょうか。

粕尾記者

AEDの普及活動を始めた当初の頃は、子どもたちに詳しく教えるといたずらするのではないかという意見だとか、子どもたちがAEDを使って救命活動を行ったとしても助からなかった場合に子どもたちの心に大きな傷が残るのではないかという指摘もあったということです。

川越市では、子どもたちに責任を負わせるということではないよということで授業が行われたと思うのですが、AEDを正しく使うだけではなく、それ以外の狙いもあったのでしょうか。

学級活動や学校行事での周囲との関わりなどから自分やほかの人を大切に思う豊かな心を育んでいくことも、狙いの一つとして授業を行いました。

そうした思いというのは桐田さんの中でも強いんですか。

そうですね。「ASUKAモデル」が出来る前の日本の心肺蘇生に関しては、スキルを重視しているというところがあったんですけど、「ASUKAモデル」を通してスキルだけではなく、マインド、心を育てるというところにもフォーカスを当てています。いま自分にできることは何か、それを協力してやろうというマインドが育っていくのが、救命教育の効果なのかなと思っています。

教育現場として、気持ちや心の面でもAEDを通して、いい影響があるという思いがあるのでしょうか。

おっしゃるとおりです。スキルの基盤となるのはやはりマインド、心情だと思うんですよね。授業を通して、自他を大切に思う心を育んでいきたいと考えています。そういった心は命を大切にするところから派生して、例えば、いじめを許さない心であったり、多様性を尊重する心であったり、あるいは自分自身を大切にする心、いま社会で求められている力そのものを育んでいくことにつながるのではないかと思っています。

子どもたちから大人も学ぶ

今回の授業で、大人の立場でも何か気づきがありましたか。

実は授業が終わって、保護者から連絡帳にコメントをいただきました。例えば、この休みにコンビニにAEDがあるか確認しに行きましたとか、そういった大人も含めての反響というものが非常にあったんだなと。

むしろ大人の方がちゅうちょしてしまったりとか、私はちょっと責任を負えないからということで逃げてしまったりするのは寂しいですよね。
去年からは、明日香さんの弟にあたる真さんが救命処置を行えるインストラクターになったそうですね。

インストラクターとして活動する桐田真さん

彼が、去年行われたフォーラムの時に登壇し、「自分は今まで桐田寿子の息子、桐田明日香の弟という立場にいた。しかし、自分は桐田真というAEDの活動に関わるひとりの存在なんだと思ってもらえるように努力したい」という言葉を話していました。その言葉を行動に移していく中で、明日香の思いが彼の中で芽吹いたなという、その瞬間を感じ取りました。大好きなお姉ちゃんのことを思い続けているんだなと子どもから学ぶことが本当に多いです。

迷ったときはAEDを

われわれが今からできること、ひとつだけこれは実践してほしいと思うことはどんなことでしょうか。

「ASUKAモデル」はヒューマンエラーの分析手法から生まれているので、まさにヒューマンエラーを防ぐ大きなアイテムでもあります。わからない、迷った時にはAEDを使ってほしい、AEDは飾るものではなく使うものです。その中で、救える命を救い、社会復帰という形でまた当たり前の笑顔があすにつながっていく、そんな世の中にしていきたいと思っています。

まさに授業で子どもが学んだことをわれわれ大人が実践できているかということですよね。あそこにもAEDがある、ここにもあるというようなことを、ふだん生活している中でもっと意識していきたいですね。

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