NHKが公開されている16年間分のデータを調べたところ、学校や幼稚園に通うため家を出てから帰るまでに事故や急な病気などで死亡した生徒や児童のうち、500人近くが突然死だったことがわかりました。このうち7割は、救命に有効とされるAEDの使用の有無などの記載がなく、専門家は「救命処置のプロセスや課題を記録して検証にいかすことが必要だ」と指摘しています。
日本スポーツ振興センターは幼稚園、保育園、小中学校や高校などの中や通学中に事故で死亡したり重い障害が残ったりした生徒や児童について、見舞い金の給付のために学校や園が提出した学年や発生場所、事故の種類や状況などのデータを公表しています。
NHKは公開されている2005年度から2020年度までの16年間、8400件あまりのデータを詳細に分析しました。その結果、亡くなった子どもは1556人にのぼり、死因を詳しく調べると全体の3割、490人が急に心停止したことなどによる「突然死」だったことがわかりました。
さいたま市の桐田寿子さんの娘、明日香さん(当時 小学6年生)は2011年9月、駅伝の練習中に校庭で突然、心臓発作を起こして倒れ、翌日、亡くなりました。
明日香さんは倒れた直後、救命に有効とされるAEDによる措置が必要な状態でしたが、すぐには使われませんでした。
母親の寿子さん
「みんなの前で倒れ、学校にはAEDがあった。なぜAEDが使えなかったのか。過去に似た状況で亡くなっている事例を知り、また同じことが起こるのではないかと強い危機感を持ちました」
AEDは現在、ほとんどの学校に設置されていて、命が救われたケースは多くあります。学校などでAEDによる心肺蘇生を実施した件数は2016年度までの5年間に147件あり、このうちおよそ67%にあたる99件では、後遺症もなく社会復帰しています。
その一方で、学校にAEDがありながら、使われないケースが生じてしまう理由について専門家は、一般的に、大きく2つのケースがあるとしています。
まず、AEDが置かれた場所が遠かったり、使えない時間があったりしたケースです。
もうひとつは、倒れた子どもが呼吸をしていたことから、「AEDは使ってはいけない」と誤った認識で対応してしまったケースです。
明日香さんの場合は、データベースでは、「1000mを走り終え、15m程度歩いたあと倒れた、すぐに病院に搬送、治療を受けたが、翌日死亡した」とされています。
市の調査では、現場の教師たちは呼吸と脈があると思い、直ちにAEDによる処置が必要だと判断できなかったとされていますが、その記載はありません。
母親の寿子さん
「公開されたデータベースを見て、他の学校で起きている事故を知ることで、決して他人事ではなく自分の学校でも起きるかもしれないという心の備えを持つことができる。事故の教訓が見た人にちゃんと伝わるよう詳しく状況を載せてほしい。それが再発防止につながるのではないか」
日本スポーツ振興センターが公開しているデータについてNHKは倒れた前後の状況の記載にある「AED」や「除細動器」、「電気ショック」という単語を抽出して、データの中で使われた頻度や一緒に使われた言葉などを調べました。
その結果、490人の突然死うち、356人では記載がなく、データからはAEDを使ったかどうか分かりませんでした。
一方、残りの134人は、AEDに関する記載があったものの、このうち「すぐに」や「ただちに」など機器を使うまでの時間の経過がうかがえるものは19人にとどまりました。
また「誰が」使ったのかを調べると、教職員や生徒がAEDを使用したとみられるケースが102人を占めました。
その一方で、救急隊が使用したのが28人、病院で使用されたのも1人あり、なぜ倒れてすぐに機器を使用しなかったのかなどの詳細は分かりませんでした。
AEDによる電気ショックが1分遅れるごとに救命率は10%ずつ下がるとされていますが、日本スポーツ振興センターのデータには、倒れてから使うまでの時間や設置場所までの距離などといった具体的な記述はありませんでした。
医師で学校での突然死に詳しい京都大学大学院医学研究科の石見拓教授は、日本スポーツ振興センターのデータについて、事故がどういう状況で起きたのか把握するには非常に貴重なビッグデータだとした一方で「AEDがどう使われたのか、使えなかった理由は何かが書かれていないため、救命措置がどんなプロセスで行われたのかを検証するのには不十分だ」と指摘します。
石見 拓 教授
「再発防止のためには倒れた場所からAEDが置いてあった場所までの距離や機器を使用するまでの時間、対応した教師の判断など内容をより充実させて検証し、学校や社会全体で対策につなげていくことが重要だ」