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厚生労働省 カスハラでの宿泊拒否の事例示す 適正判断されるのか不安の声も

  • 2023年10月11日

ことし6月に成立し、12月から施行される改正旅館業法。

旅館やホテルが迷惑行為や負担が過重なサービスの要求など「カスハラ」=「カスタマーハラスメント」を繰り返す客の宿泊を拒否することが可能になります。

厚生労働省の検討会は、配慮を求める障害者などの宿泊拒否につながらないよう、どのような場合に旅館やホテルが宿泊を拒否できるのか、具体的なケースをまとめました。

厚生労働省の検討会がまとめた運用指針

厚生労働省の検討会がまとめた運用指針には、宿泊拒否が可能な「カスタマーハラスメント」の事例をはじめ、障害者が不当な扱いを受けないよう宿泊拒否ができない事例も具体的に示されました。

【宿泊拒否できるケース】
この中で、宿泊を拒否できるケースとして、以下のようにあげています。

▼客がスタッフに対し、宿泊料の不当な割引きや慰謝料の要求。
▼契約にない送迎など、ほかの宿泊者と比べて過剰なサービスを求める。
▼スタッフに対し、泊まる部屋の上下左右に宿泊客を入れないよう求める。
▼土下座などの社会的相当性を欠く方法で謝罪を求める。
▼泥酔しスタッフに対し、長時間にわたる介抱を求める。
▼対面や電話、メールなどで長時間にわたり不当な要求をする、といった行為をそれぞれ繰り返した場合など。

【宿泊拒否の対象にならないケース】
一方で、障害がある人が宿泊する際に施設側に「合理的な配慮」を求めることは宿泊拒否の要件には当たらないとしています。

具体的には…
▽車いすで部屋に入れるよう、ベッドやテーブルの位置の移動を求めること
▽発達障害のある人が待合スペースを含む空調や音響などの設定の変更を求めること
などが明記されています。

このほか…
▽医療的な介助が必要な障害者や重度の障害者、車いす利用者などが宿泊を求めることや
▽介助者や身体障害者補助犬の同伴を求めること
▽障害を理由とした不当な差別的扱いを受け、謝罪を求めることなどによって宿泊を拒否することはできないとしています。

また、今回の法改正ではほかにも、エボラ出血熱といった感染症法上の位置づけが1類や2類の感染症や新たな感染症が発生した際に、法律に基づいて客に感染対策への協力を求めることができるようになり、検討会では、発熱などの症状がある客に、1類や2類などの感染症ではないことを示す書類への記入を求めたり、感染が疑われる正当な理由がある場合は、部屋での待機を求めたりすることができるとしました。

厚生労働省は、不当な宿泊拒否があった場合などの相談窓口を設置する方針で、今後、パブリックコメントで意見を募るとともに、法律の改正や運用方針の内容を分かりやすくまとめた資料を作成して、旅館やホテルの研修で活用してもらうことにしています。

旅館業法の改正 新型コロナ流行に伴い宿泊業界が要請

旅館業法は、戦後の混乱期、宿泊を拒否された人の行き倒れを防ぐなどの目的で1948年に施行されました。

法律の第5条では、宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められる場合などを除いては、宿泊を拒んではならないとされています。

それから、70年以上がすぎ、新型コロナの流行時に、宿泊者がマスクの着用や検温などの要請に応じないケースが相次いだことから、宿泊業界から、法律に基づいて客に感染対策を求め、応じない場合は宿泊拒否を可能にするよう国に要請があり、法改正の検討が始まりました。この中でカスタマーハラスメントへの対応も論点になりました。

改正旅館業法は、ことし6月に成立しましたが、平成15年にハンセン病の元患者が宿泊を拒否されたことから、法律が拡大解釈され、差別につながるおそれがあるという声があがり、検討会には旅館やホテルの団体だけではなくハンセン病や障害者の団体なども加わって、議論が行われてきました。

客からのカスハラ “「口コミに書くぞ」と脅された”

客からの「カスタマーハラスメント」に悩まされてきたという宿泊施設は少なくありません。

栃木県の旅館では、利用時間外に大浴場で入浴していた男性客に、清掃スタッフが時間外であることを丁寧に説明したところ、激しいけんまくでどなりつけられたということです。

この客は、繰り返し宿泊してほかの接客係にもどなるなどの同様の行為を行ったため、従業員が退職してしまったり、配置転換が必要になったりしたということです。

兵庫県の宿泊施設では、家族で泊まっていた客から「部屋の畳がほこりだらけだから掃除をしろ」とクレームを受けたということです。このため、施設側は再度清掃を行いましたが、その直後に「ごみがある」と苦情を言われたということです。

施設によりますと、清掃した際にはなかったごみだったといい、客が宿泊代の返金と交通費を施設で負担するよう求めてきたため、施設側がやむなく「部屋代は返金するが、交通費は支払えない」と伝えると「口コミに書くぞ」と脅されたということです。

滋賀県の旅館では、ある男性客が複数の宿を同時に予約し、宿泊の直前になって一緒に利用する女性が選んだ宿以外はキャンセルするという迷惑行為を繰り返していたということです。

宿泊拒否の要件が適正判断されるのか 不安の声

「宿泊を拒否できる」という要件が適正に判断されるのか、不安の声があがっています。

福祉用具の販売会社を経営する細野直久さん(56)は、16歳の時に交通事故で脊椎を損傷し、車いすで生活しています。

細野さんは車いすテニスや、障害者への理解を広げる研修を自治体や企業などで開いていて、多いときは年間50泊ほど各地のホテルを利用していますが、最近、障害を理由に宿泊を拒否されたことがあったと言います。

ことし3月、九州で研修を行い、鹿児島県のバリアフリールームのあるホテルに宿泊しようとしたところスタッフから「介助者がいないと宿泊できません」と言われ宿泊を拒否されたということです。

細野さんはこれまでも介助者なしで宿泊していたため、なぜ宿泊できないのか尋ねましたが、ホテルのスタッフからは「規則があるためです」と伝えられたということです。

その日は金曜日で、すでに深夜0時をまわっていたことから、これからほかのホテルを探すのは難しいと伝えたところ、ホテル側が「特別に宿泊を認めます」と答え宿泊することはできたということです。

その後、細野さんが、ホテルを運営する本部に確認したところ、「過去に宿泊した障害者がホテルのスタッフに対し食事や入浴の介助を要望したことがあり、また求められても対応できないと考えそのホテル独自のルールを設けてしまっていた。誤った対応だった」と謝罪され、宿泊したホテルにもすぐに改善の指導が行われたということです。

細野直久さん
「クレームを言う方というのは障害者とか健常者とか全く関係なくいます。過去にホテル側にとって過度な要求やクレームをしたケースがあっても、障害者全員にルールを課すのは間違っていると思いました。すぐに改めてくれてよかったです」

そのうえで改正旅館業法について、次のように訴えていました。

「障害者側の要望が合理的配慮にあたるのか、それとも過度な要求にあたるのかという混乱が必ず起きると思います。障害を理由に宿泊できないとならないために、官公庁は広く研修を行い全国でそうした間違いが起きないようにしてほしい」

障害者の団体「利用者と宿泊施設 お互いの対話が重要」

障害のある人たちで作る団体、「DPI日本会議」の副議長で、厚生労働省の検討会の構成員も務めた尾上浩二さんは次のように指摘しました。

尾上浩二さん
「現在でも障害を理由とした宿泊拒否の事例は少なくないので、安易に宿泊拒否ができるようになってしまわないか懸念していた。障害者が合理的配慮を求めることは、過重な負担にはならないと明記されたが、ホテルのオーナーや従業員がきちんと受け止めてもらえるか心配な部分はある。取りまとめた内容の研修をしっかりやってもらうほか、宿泊拒否の事例が出た場合の相談窓口が必要だ」

そのうえで、改正旅館業法を実際に運用する場面で、利用者側、宿泊施設側の双方が意識すべきこととして、「『建設的対話』がキーワードだ。具体的にどのようなことができるか、できないかというのをお互いにアイデアを出し合って実施可能なことを見つけ出していくための対話が重要だ」と訴えていました。

そして、「これまでハンセン病や障害を理由にして宿泊を拒否されてきたという歴史がある。その歴史の反省の上に立って今後事業者の皆さんに指針の普及に取り組んでもらいたい。2度とそのような宿泊拒否を繰り返さないためにも、今回の議論をきっかけにして安心して誰もが泊まれるホテルや旅館の体制づくりを進めてほしい」と話していました。

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