新型コロナウイルスの感染者数は減少が続いていますが、専門家は冬にかけてインフルエンザが例年より早く流行し、新型コロナとの同時流行が懸念されるとして、同時流行を想定した対応が求められるとしています。今シーズン、インフルエンザの患者が増えるとみられる理由、想定される医療のひっ迫の状況や政府の対策方針などについてまとめました。
新型コロナの感染が始まる前、毎年冬には季節性インフルエンザが流行していました。1つのシーズンで1000万人が感染し、多い年には2000万人が感染したと推計されています。新型コロナの出現以降、インフルエンザの患者は激減し、国立感染症研究所が推計したところ、2020年から21年はおよそ1万4000人、2021年から22年はおよそ3000人でした。
ただ専門家は、この冬にかけてインフルエンザの流行が起き、コロナの「第8波」と重なる可能性があると見ていて、その要因を挙げています。
(1)水際対策などの緩和
世界の多くの国では水際対策など行動制限を緩和する動きが続き、国際的な人の移動が大きく増えてきています。日本でも、入国者数の上限が撤廃され、海外からの自由な個人旅行が認められました。
(2)インフルエンザの免疫ある人が少ない
インフルエンザはこの2年は日本国内で流行しなかったため、感染してインフルエンザの免疫を獲得している人の割合が少なくなっていると考えられています。
(3)南半球のオーストラリアで流行
日本とは季節が逆で、インフルエンザの流行の時期が半年ずれる南半球・オーストラリアではことし、コロナが拡大する前と同じ程度のインフルエンザの流行が2年ぶりに起きました。
新型コロナウイルス対策について助言する厚生労働省の専門家会合は12日、全国の新規感染者数はすべての地域で減少が継続し、医療体制については状況の改善が見られるとしています。
ただ、今後については連休や観光によって接触機会が増加することが感染状況に与える影響に注意する必要があるとしていて、過去2年の傾向からこの冬に新型コロナウイルスの流行が拡大し、季節性のインフルエンザが例年よりも早く流行したり、コロナと同時に流行したりすることが懸念されるとした上で、同時流行の事態を想定した対応が必要だとしています。
日本国内で最大の感染拡大となった新型コロナの「第7波」では、ことし7月から9月までの3か月間だけで、1200万人近くが感染しました。また、国立感染症研究所の推計によりますと、インフルエンザの患者数は、新型コロナが拡大する前、2018年秋から2019年春までのシーズンでおよそ1200万人だったとしています。同時に流行した場合、医療現場ではどんな状況が懸念されるのでしょうか。
〇症状で判別難しく外来ひっ迫
新型コロナもインフルエンザも発熱やせきなどの症状は似ていて、検査をせず症状だけで両者を判別することはかなり難しいとみられています。発熱を訴える患者が、診断を求めて医療機関の外来に殺到し、ひっ迫する事態が想定されています。
〇コロナ感染拡大すると救急も
また、新型コロナの「第8波」の感染拡大が大規模になると、インフルエンザへの対応も重なって救急など医療機関のひっ迫も避けられなくなります。
〇循環器の病気などへの対応
さらに、毎年冬は、気温の低下によって心筋梗塞といった循環器などの病気が多くなって医療機関の負荷が増す時期で、新型コロナとインフルエンザの同時流行が加われば、医療機関の負担はこれまでよりもさらに大きなものになるという懸念もあります。
厚生労働省の専門家会合は12日、場面に応じた正しい不織布マスクの着用や換気を行うこと、飲食はできるだけ少人数で飲食時以外はマスクを着用すること、症状があるときは外出を控えることといった基本的な感染対策を続けるよう求めました。
さらに専門家会合のあとに開かれた記者会見で脇田隆字座長は、今後、インフルエンザと新型コロナが同時に流行する懸念や対応などについて次のように述べました。
〇同時流行の懸念
海外の状況を見るとヨーロッパなどで新型コロナの流行が始まり、インフルエンザも一部の地域で流行が見えてきている。仮に日本で同時流行が起きれば医療へのインパクトが大きい。必要な医療体制としては重症化リスクのある高齢者や脳炎のリスクがある子どもが優先的に医療にアクセスできることが求められるのではないか。
〇セルフメディケーション
第7波では検査キットが不足したり解熱薬が買いにくくなったりした。発熱した際に「セルフメディケーション」を行ってもらうためにもいまのうちに検査キットや解熱薬を買っておくということも重要ではないか。検査キットが購入しやすい環境を整えることも重要だ。
新型コロナ対策をめぐり、感染症などの専門家でつくる政府の分科会は、新型コロナとインフルエンザの同時流行に備えた対策を決めました。
〇患者数の想定
決定された対策では、新型コロナが1日45万人、インフルエンザが1日30万人の規模で同時に流行し、ピーク時には1日75万人の患者が発生する可能性を想定して準備を進めるとしています。
〇重症化リスク低い人
発熱などの症状が出ても、重症化リスクが低い人はすぐに発熱外来を受診せず、まずは自宅などで新型コロナの抗原検査を受けてもらい、陰性の場合にはオンラインや電話での診察やかかりつけ医など、発熱外来ではない医療機関の受診を呼びかけるとしています。
そして、オンラインや電話での診察でインフルエンザと診断された場合には、治療薬のタミフルを薬局から自宅に配送することもできる仕組みを活用するとしています。
〇重症化リスク高い人
一方、65歳以上の高齢者や小学生以下の子ども、それに基礎疾患があるなど重症化リスクが高い人は、直接、発熱外来やかかりつけ医を受診してもらう方針です。
このほか対策には、感染拡大防止と社会経済活動の両立に向けて、政府側から、マスクを着けなくてもよい場面などを示したうえで、業界ごとに策定しているガイドラインの見直しを促していくことも盛り込まれました。