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ヤングケアラー実態調査 自治体に対応の差 縦割りが障壁に

  • 2021年7月7日

家族の介護やケアを担う子どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」を支援するため国は、都道府県や政令指定都市に実態調査を行うよう促しています。こうした中、NHKが全国の都道府県と政令市を対象に、調査の予定について取材したところ、およそ70%が調査の予定がないと回答し、自治体ごとに対応の差が出ていることがわかりました。

70%の自治体 「調査予定なし」「未定」

家族の介護や心のケアなどを担っている子どもは「ヤングケアラー」と呼ばれ、昨年度国が行った調査では中学生の17人に1人にのぼることが明らかになり、国はより具体的な支援を行うため、詳しい実態調査を行うよう都道府県や政令指定都市に促しています。

これについて、NHKは6月から7月にかけて全国の47都道府県と20の政令市を対象に調査を行いました。

上の地図の黄色と赤い点で示しているのが、「すでに実施」または「今年度中に実施予定」と回答した自治体です。67の自治体のうちおよそ30%にあたる20の自治体です。

都道府県では
北海道、新潟県、長野県、埼玉県、静岡県、愛知県、福井県、大阪府、和歌山県、奈良県、鳥取県、長崎県、熊本県、大分県、沖縄県の合わせて15県。
政令市では
大阪市、札幌市、京都市、さいたま市、北九州市の5市。

一方で、70%にあたる合わせて47の自治体が、「調査の予定がない」か「調査したいが具体的に決まっていない」と回答しました。

進まない理由 縦割りの難しさ

「ヤングケアラー」の実態調査の予定がないと回答した自治体のほとんどが課題としてあげたのが、組織の縦割りによる調整の難しさです。「ヤングケアラー」の支援はさまざまな観点から行う必要があり、多くの自治体では管轄する部局が複数にまたがります。

・子どもの支援は福祉の観点から福祉部局が行うことが欠かせない。
・子どもが通う学校でも目配りするため、教育委員会も関係する必要がある。
・子どものケアを受ける家族への支援も、介護が必要な場合と医療が必要な場合では担当がわかれる。
さらに介護が必要な場合でも高齢者と障害者では担当が細分化。

このため、多くの自治体が担当を決められないまま足踏みしていて、中には「どう調整したらいいかわからず何も決まらない」といった声も聞かれました。また、予算の問題だと回答した自治体もありました。

縦割り打破で支援に乗り出す

こうした中、縦割りを越えて「ヤングケアラー」の支援を始めたのが神戸市です。
今年度から支援を一元的に行うため、「こども・若者ケアラー支援担当課長」というポストを新たに設けたうえで、全国で初めて、ヤングケアラー問題に特化した専用の相談窓口を開設しました。
神戸市でも実態調査の予定については具体的に決まっていないということですが、複数の分野にまたがった課題を解消するための取り組みが成果をあげるか、注目されています。

また、ヤングケアラーの実態調査を終え、具体的な支援に向けた取り組みを進めているのが埼玉県です。
県は、今年度から介護の現場で活動しているケアマネージャーを対象にした研修会を開いているほか、秋には「ヤングケアラー」が悩みをオンラインで共有できる場を設けることにしています。

「ヤングケアラー」を所管している省庁のうち、厚生労働省は「問題を明らかにするためにもまずは調査することが大切だ。調査の予定がない自治体も来年度には調査を検討してほしい」と話しています。

専門家「ヤングケアラー支援の法制化を」

ヤングケアラーの支援をどう進めていくか。この問題に詳しい大阪歯科大学の濱島淑恵教授は、支援制度を法制化してきちんと位置づけることが大切だと指摘しています。

大阪歯科大学 濱島淑恵教授
「調査に積極的かどうかで子どもたちに対する支援に差が出てくるのではないかと非常に懸念している。児童福祉のさまざまな問題の予防にもつながるため、自治体には部署の縦割りなどの課題を乗り越えて、最優先で実態調査をしてほしい。
必ずしも全数調査の必要はなく、きちんと無作為抽出すればほしい情報は手に入るので、専門家に相談しながら進めてほしい。
国の役割は、制度的な裏付けを作っていくことだ。『ヤングケアラー』の支援を制度化することで各自治体はかなり動きやすくなるので、国には法制化を急でほしい」

 

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