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人生の選択「花を通してサステイナブルを身近に ~萩生田 愛さん~」

  • 2023年8月4日

さまざまな選択がある「人生」。人生の岐路で、どんな選択をしてきたのか…
今回の「人生の選択」は、アフリカ・ケニアのバラをフェアトレードで輸入し日本で販売することで現地の雇用問題に取り組み、いま、花を通して新たな暮らしのあり方を発信し始めた萩生田愛さんの「人生の選択」を紹介。花と10年以上向き合って得た思いに迫ります。

(ひるまえほっと/リポーター 西村美月)

東京渋谷区に本店を置くアフリカのバラ専門店創業者の、萩生田愛(はぎうだ・めぐみ)さんです。

11年前からアフリカのバラをフェアトレードで輸入販売し始めました。
アフリカのバラは日本のバラに比べて、大振りで鮮やかな色合いが特徴。1本千円ほどで販売されています。

お店のバラは全てケニアの農園から直接輸入。年間10万本以上を輸入しアフリカのバラの魅力を伝えています。

萩生田さん

アフリカのバラを通して、たくさんの豊かな時間を過ごさせてもらったと思っていますが、そういう体験を通して今、次の扉が開かれたという感じがします。

萩生田さんの選択①
アフリカの貧困と向き合い、花と出会う

萩生田さんは、幼いころから外交官など国際的に活躍する人材になりたいという思いがあり、アメリカの大学に留学し国際関係学を専攻。在学中に世界中の大学生が集まり、国際問題について話し合う「模擬国連」という催しに参加したことをきっかけに、アフリカの貧困問題に興味を持つようになります。

大学時代の萩生田さん。右は「模擬国連」参加時のもの。※萩生田さん提供写真

 

アフリカには1日1ドル以下で暮らしている子供たちがいるなど、日本では触れる機会がなかったことが本当にあることを知り、それを解決するために具体的にどんなアクションが必要なのかを、初めて自分の頭で考える機会になりました。

卒業後はいったん就職しますが、アフリカの貧困問題に向き合いたいと退職しケニアに渡りました。ボランティア活動に参加しますが厳しい現実を目の当たりにします。貧困が原因で働かざるを得ず学校に通えない子供たちがいたほか、働く意欲を失っている大人たちもいたのです。萩生田さんは、ボランティア活動の限界を感じてしまったのです。

ケニアでは学校を作るボランティア活動に参加。学校の作り方を現地の人に教える活動をしていました。※萩生田さん提供写真

※萩生田さん提供写真

 

貧困な村ほどたくさんの国際NGOが来ては去り、井戸、トイレ、教室、お金などを寄付していく。自立を支えなければいけないのに依存を生み出してしまっていることを知り打ちのめされました。ボランティア以外に現地の人たちが自立するサポートをするやり方があるんじゃないかと感じたんです。

悩んでいるときに出会ったのが、日本では見たことがないような大きくて鮮やかなバラだったのです。

萩生田さんが初めてケニアのバラに出会った、ケニアの首都・ナイロビにある花店。※萩生田さん提供写真

 

ケニア女性の生命力とオーバーラップして見えました。ケニア人は経済的に苦しくても、いつもニコニコ笑っている。ケニア女性の芯の強さを、このバラから感じたんです。

ケニアのバラ農園の女性たち。※萩生田さん提供写真

このとき、萩生田さんの今後を運命づける「思い」が生まれます。

ケニアのバラで、笑顔を増やしたい

萩生田さんは、ケニアのバラをフェアトレードで輸入し日本で販売することを思いつきます。
フェアトレードとは、売り手と買い手が商品の価値や労働に見合った価格で取引をすること。その背景には、発展途上国の商品が労働に見合わない金額で先進国に買われる、不当な契約も多い現実があります。
萩生田さんは、ケニアで生産された上質なバラをフェアトレードで輸入して日本で販売すれば、現地に雇用を生み出し貧困問題を解決する助けになるのではないかと考えたのです。

 

援助という形ではなくフェアな形で取引すれば、依存を生むことなく雇用もつくり出すことができる。そしてこの生命力あふれるケニアのバラを日本に持ってくれば日本の皆さんも喜ぶと思いました。そうすると経済的な豊かさがケニアに広がって、いい循環が回るんじゃないかなと。

そして、萩生田さんの次の「人生の選択」が訪れます。

萩生田さんの選択②
起業してたどりついた、理想の働き方

萩生田さんは帰国後、ひとりでバラの輸入販売を開始しました。

2012年、帰国後初めて出店したのは、代々木公園でのイベント。2500本のバラを輸入しました。※萩生田さん提供写真

はじめのうちは、空港での税関手続きや検疫作業、販売にいたるまですべて一人で行っていました。

2014年に取材した時の萩生田さん。日付が変わる頃に羽田空港に行き、その後自分で臨時の店舗に運んで、バラの水あげ作業、ネットショップ注文客への発送、店頭販売まで、途中仮眠を取りながら18時間も作業していました。あの頃を思い出しながら「若かったですね」と振り返っていました。

その後ビジネスは順調に拡大し、今では十数人のスタッフを雇うまでに成長。
そしてケニアのバラ農園の雇用も増え、当初の10倍の2000人の従業員を雇えるまでになったのです。

 

自分がやればやっただけ、お客様の反応もあるし、寝る間を惜しんで働いていました。

2015年に渋谷区の店舗を構え、2017年に結婚、2018年に長男を出産。公私ともに萩生田さんの人生が大きく動き始めます。

当時、萩生田さんが直面した大きな課題が、仕事とプライベートの両立でした。自分がいなければ仕事が回らないと考えた萩生田さんは出産後、十分な産休も取らず、わずか2週間で復帰。体調が戻らないまま仕事を続け、心身共に疲弊していきます。

 

仕事をしている時は子どものことを煩わしいと思ったし、子どもといる時は仕事が煩わしいと思っていました。“すべてが煩わしい”っていう感じで、情緒が不安定でしたね。

仕事と子育ての両立に悩み、スタッフと衝突することもあったそう。このままではいけないと感じた萩生田さんは、ある思いにたどり着くのです。

みんなが主役の職場を作る

根本から経営方法を見直して、萩生田さんはスタッフひとりひとりが自分で考えたことを自由に実行できる仕組みを作りました。すると、今まで自分一人では思いつかなかったアイデアがたくさん生まれ、会社は活性化していきました。

従業員が組織のために自分がするべきことを判断して仕事を行う「自律分散型組織」という経営方法を導入しました。※萩生田さん提供写真

 

今まで“私がやらなきゃ”と思っていた仕事は皆もできることだったんです。それまで無駄な責任感だったなと結構拍子抜けしたし、うれしい気づきでもありました。

萩生田さんの選択③
環境問題が気づかせてくれた、生き方

仕事にも徐々にゆとりを持って取り組むことができるようになりましたが、2020年の新型コロナウイルスの感染が拡大。萩生田さんはそれまでビジネス優先だった目線を、身近な暮らしに注ぐようになります。
毎日のように出る生ごみをたい肥にして家庭菜園で利用する“循環型の暮らし”にシフトしたほか、有機農法を学べる農業サークルにも参加し、自然環境の大切さに強く関心を持つようになりました。

萩生田さんは、コンポストに生ゴミを入れて、たい肥化しています。コンポストの袋は2つあり、熟成が進んだ方は“かつおぶしみたいな匂い”とのこと。

熟成したコンポストのたい肥は、家庭菜園に使います。

この日収獲したのは、キャベツ、ミニトマト、しそ、バジル。「夕ご飯のおかずにします!」と楽しそうに収獲していました。

萩生田さんにとって、土にふれる時間は何も考えない時間。ただ目の前の自然とのつながりを感じたり、自分が自身とのつながりを感じたりする、大切な時間となっていきます。

そして、持続可能な地球環境を作るにはどうしたらいいのか本格的に学びたいと、北欧のデンマークへ留学するのです。期間はなんと4か月。家族の理解もあり、ひとりで学びの時間を持つことができました。

息子と土いじりする1枚。はじめ萩生田さんは息子を連れてデンマークにいくつもりでしたが、夫が「せっかくの学びの機会に息子がいては、気を取られたりして学びに集中できないのでは」と提案してくれて、ひとりで行くことができたそう。実家の両親の協力も得て、貴重な時間を過ごすことができました。※萩生田さん提供写真

世界でも“国民の幸福度が高い”と言われるデンマーク。萩生田さんが学んだのは“人間も自然の一部”ということ。自分自身を大切にすることこそが環境問題に取り組むことにつながる、という考えでした。

 

デンマークの人たちは、ゆっくり時間を使う。仕事ばかりではなく、友達や地域の人やボランティア活動などに費やす時間により価値を置いていて“それが人生の豊かさだ”と皆が口をそろえていうのを聞き、“やはりそうなんだ”と確信しました。

留学先でのスナップ。デンマークからの修学旅行で近隣の国にも行き、有機農法の農園を訪ねたりもしたそうです。※萩生田さん提供写真

※萩生田さん提供写真

そこで萩生田さんは、その先の自身の目標になる思いにたどり着きます。

自分自身がサステイナブル(=持続可能)でありたい

 

生産性や価値を求める自分に対して“そうじゃないんだ、価値や生産性がなくてもいいんだ”って自分に言い聞かせて、そういう自分を許すことが大事だと。“チャレンジしないこと”にチャレンジする、みたいな感じですね。

萩生田さんの選択④
花を通して、サステイナブルを身近に

社会問題にもライフスタイルにも持続可能な形が必要だと気づいた萩生田さん。留学中に出会ったある言葉が、萩生田さんの中でゆっくりと育ち始めていました。

“スローフラワー”…有機農法で栽培された旬の花を地産地消で循環させることで、生産者、消費者、地球環境の全てにメリットがあるという考え方で、20年ほど前にアメリカで生まれ、ヨーロッパにも浸透し始めています。
萩生田さんは“スローフラワー”という言葉に、人とのつながりや、自分自身と向き合うことの大切さを込めて、日本に伝えたいと活動し始めています。

今年3月、萩生田さんは「一般社団法人スローフラワー協会」を設立。花を通して、地球の環境や、そこに生きる人たちの生活環境をより良いものにしていくための、活動や発信を始めました。「自分自身がサステイナブルであるために、頑張りすぎないように進んでいきたい」と、萩生田さんは言います。※萩生田さん提供写真

いま萩生田さんは、国内の花の有機栽培の畑を訪ねています。
この日訪ねたのは、埼玉県小川町で有機栽培を行う生産者の畑。季節に合わせておよそ70種類の花を育てていて、インターネットや直売所を通じて直接、農園の思いに共感する人たちに向けて販売しています。

いま見ごろを迎えているのは、キク科の一種「ジニア」(日本名ヒャクニチソウ)という花。この畑では茎が長くなるように育てて、切り花として販売しています。萩生田さんも「こんなに色や形が豊富なジニアは見たことがない」と驚いていました。

萩生田さんは、自分の思いに共感してくれる仲間を増やしたいと考えています。具体的に何ができるのかは模索の途中ですが、将来的には、購入者も販売されている花がどう育てられたのか、環境問題も考えて花を選ぶような、サステイナブルな文化をゆっくり育てていきたいと思っています。

 

生産性を求めなくても、成果を出さなくても、それでも自分が幸せであるという気持ちを大切にして、結果的に周りの人や地球環境にとって良いことにつながればいい。自分の心の中に花が咲いて自分を大切に保てている状態でいれば、自然と人に優しくできるんですよね、我慢しなくても。そういう優しさみたいなものを、“スローフラワー”という言葉を通して伝えていけたらいいなと思っています。

 

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