東京ディズニーシー新エリア「ファンタジースプリングス」公開 チケット値上げ巡る観光施設の戦略は
- 2024年5月7日
「東京ディズニーシー」の新エリア「ファンタジースプリングス」が、6月6日のオープンを前にメディアに公開されました。2001年の「シー」開業以来、最大規模の開発とされます。
ただ近年、「ランド」「シー」では日によってチケット価格が大きく上昇。大人1人が1万円を超える日もある一方で、運営会社は過去最高益を更新しています。
各地の観光施設で相次ぐチケット価格の上昇。それぞれの施設の戦略を探りました。
(千葉放送局記者・渡辺佑捺)
TDS 新エリアを初公開!
千葉県浦安市の「東京ディズニーシー」で6月6日にオープンする「ファンタジースプリングス」。
映画「アナと雪の女王」「塔の上のラプンツェル」「ピーター・パン」の世界が再現されています。
新しいアトラクションは4つ。ボートに乗るなどしながら、映画のストーリーや名シーンを追うことができます。
エリア全体の広さは約14万平方メートル、総工費は約3200億円に上ります。
「東京ディズニーシー」は「ランド」と比べて規模が小さく、来場できるゲストの数が少なかったのですが、敷地が広くなったことで同じくらいまで来場できるようになります。
広大なエリアの中に作り込まれた映画の世界を、体験していただきたいです。
新エリアの様子はこちらの動画でも👇
新エリアに期待も…チケット価格に懸念
新エリアのオープンに、ファンの期待は高まっています。JR舞浜駅前で聞きました。
ネット上で動画などを毎日チェックして、オープンを楽しみにしています。「シー」の中で別世界が広がると思うと楽しみです。
ディズニープリンセスが好きなので、ラプンツェルのエリアを楽しみにしてます。アトラクションが楽しみです。
一方で、近年のチケット価格の上昇に触れる人もいました。
新しいエリアでは「アナ雪」「ラプンツェル」のところを見たいです。ただ、大人で1人1万円近くかかるので、子どもをあまり連れて来られないと思っています。前は結構来ていたのですが、チケット価格が上がって来園の頻度は減ってしまいました。
家族で来るとなると結構お金がかかり、交通費や宿泊費を入れると、さらにお金がかかるので、簡単には来られないです。新エリアは楽しみですが、またそれで値上げされてしまうのではないかと心配になります。
「東京ディズニーランド」「東京ディズニーシー」のチケット価格(大人1人・有効期限1日)の推移です。
1983年の開業当初は3900円でしたが、徐々に上昇。2019年10月には7500円、2020年4月には8200円まで値上げされます。
2021年3月からは、混雑状況に応じた日ごとの変動価格制を導入。2023年10月の改定では、最も混雑する時期に最高で1万900円と、初めて1万円を超えました。この5年間の値上げ幅は、最大で3500円に上ります。
運営会社のオリエンタルランドは、こうした価格改定の理由として、「繁忙期と閑散期の差を抑えて、入場者数の平準化を推進させるため」とか「新しいアトラクションの導入やスタッフの教育などで価値の向上に努めてきたため」などとしています。
チケット価格 各地で上昇も…
こうしたチケット価格の上昇は、西日本のテーマパークでも。
大阪の「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」では、2019年1月、チケット価格を日ごとの予想来場者数に応じて変動させる制度を導入しました。
それまでの価格は7900円で、変動制導入当初はこれを下回る日もありました。しかし、最近では安い日でも8600円、2024年の大型連休中には最高で1万900円の日もあったということで、実質的に値上げされています。
施設では、2021年3月に任天堂の人気ゲームキャラクター「マリオ」をテーマにした新たなエリアがオープンしています。
新しいエリアを増やすなど体験価値が上がっているので、それに見合う価格設定に見直しました。
このほかにも、各地の観光施設が相次いで値上げに踏み切っています。
多くの施設が理由として「物価高の影響」のほか「体験価値の向上」を挙げていますが、東京・大阪の大手テーマパークと比べると値上げ幅は小さくなっています。
【よみうりランド】
2021年4月に、「ワンデーパス」(入園+アトラクション乗り放題・18歳以上)の通常価格を5500円→5800円に値上げ。
【ハウステンボス】
2024年1月に、「1DAYパスポート」(18歳以上)の価格を7000円→7400円に値上げ。
【東京ジョイポリス】
2023年3月に、入場券(18歳以上)の価格を800円→1200円、「パスポート」(入場+アトラクション乗り放題)を4500円→5000円に値上げ。
【西武園ゆうえんち】
2023年6月に、「1日レヂャー切符」(入園+園内アトラクション乗り放題・中学生以上)の価格を4400円→4900円に値上げ。
【浅草花やしき】
2022年10月に、フリーパス(入園+アトラクション乗り放題・中学生以上)を2500円→2800円に、2023年6月に入園料(中学生以上)を1000円→1200円に値上げ。
こうした状況についてレジャー施設の経営に詳しい専門家は、大手の施設とそれ以外では経営状況が二極化していると指摘しています。
桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 山口有次 教授
レジャー施設の市場規模は、新型コロナの影響でいったん落ち込みましたが、リベンジ消費やインバウンドの増加もあって急速に回復し、拡大傾向にあります。
ただ、この市場は「東京ディズニーリゾート」や「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」といった大手がけん引している状況です。大規模施設では、入場者数を絞りつつ、1人あたりの単価を上げて収益を上げていくという傾向が基本になってきました。それでも需要が見込まれるため、価格上昇の傾向は続いていきますし、それに伴ってさらに大規模な投資も可能になります。
一方、中小規模の施設では売り上げが伸び悩んだり閉鎖に至ったりするところもあり、大手と比べて経営状況は二極化しています。集客の規模も限られるので、お金をかけずに集客や満足度を高まる取り組みを行っていくことが重要になります。
鴨川シーワールド 地域で集客を
大手とは違った戦略で集客に取り組んでいる施設があります。房総半島南部、千葉県鴨川市にある水族館「鴨川シーワールド」です。
シャチやアシカなどのパフォーマンスが人気の施設ですが、東京都心からは最短でも車で1時間半ほどかかります。
それでも、1年間に施設を訪れた人の数は、市の統計によると、新型コロナの感染拡大前を大きく上回る伸びになっています。
施設では、チケット価格の値上げは最小限にとどめています。
近年は、物価高の影響で光熱費やエサ代が上昇。このためやむなく、2023年1月、大人(高校生以上)の1日の入館料を3000円から3300円に300円値上げしました。
都心から距離があり大規模とは言えない施設にとって、値上げは客離れにつながりかねません。施設として模索を続けているといいます。
お客様にはファミリー層が多いので、家計の負担にはならない程度での料金設定を検討しています。
そうした中で集客対策として力を入れている1つが、地域との連携です。
5年前から販売している2日間の入館券では、2日目は半額まで大幅に割り引きされます。地域での宿泊とセットで楽しんでもらおうという狙いです。
また、車で40分ほどの距離にある「マザー牧場」(富津市)と連携して共通のチケットも発売。通常価格より700円安く、2つの施設を別々の日に楽しむことができます。
2か所行くと決まっているので、プランを決めやすかったです。大学生だと、とりあえずドライブしながらどこかに行くことになりますが、場所が決まっているチケットだと迷うことがないのでいいと思います。
さらに、房総半島にある近隣の施設どうしでは、毎月の来館者数などの情報共有を行っています。
ほかの施設の動向を互いに把握することで、地域で連携してのPR活動やイベントの開催などにつなげているということです。
南房総エリア全体の観光業の強化を目的に、施設間で連携した取り組みを行っています。
決して都内から近い距離ではないので、せっかく南房総エリアに来ていただくのであれば、日帰りではなく宿泊して楽しんでいただきたいと思っています。
大手以外の施設の集客対策について、専門家は次のように話しています。
一番大事なのは、それぞれの施設がどういう特徴を持っているか、他とどういう違いがあるかを認識し、強化するような対策です。そして特徴や魅力を磨き、効率的に集客したり、単価を上げたりするような戦略を考えていくと、いい経営の循環が生まれると思います。
大手の施設しかないと、総合的な魅力が欠けるように思います。やはり大規模施設があり、中小規模の施設があることによって、総合的に日本全体の観光業界の魅力づけが図られていくと思います。
また、地域の他施設と連携しながら地域全体の魅力づけを図っていく考え方は非常に正しい方向性だと思います。ただ、既存の施設が既存の枠内で連動するのにとどまらず、相乗効果を生む仕組みを構築していくことが重要です。
「首都圏ネットワーク」での放送内容は、「NHKプラス」で5月14日(火)午後7時まで配信しています。