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“貨物で稼げ”航空会社の新戦略

“お荷物事業”から主力事業へ
  • 2023年12月08日

来年からトラック運転手の時間外労働の規制が強化され、人手不足の深刻化が懸念されるいわゆる「2024年問題」。その中で注目されているのが、航空貨物輸送、「空路」の存在だ。かつて航空業界では、貨物輸送の事業は景気に大きく左右されリスクを伴うことから、“お荷物事業”と呼ばれていた。しかし、コロナ禍で旅客輸送が大幅に落ち込む中、貨物事業は経営の下支えとなった。貨物事業の売り上げは年々増加し、各社は「2024年問題」もチャンスと捉えて事業の拡大を狙う。その動向を取材した。

(千葉放送局成田支局記者・武田智成)

もうひとつの貨物輸送手段

 

ヤマトホールディングスの貨物専用機とトラック

11月6日、おなじみの「黒猫」のマークがペイントされた航空機が成田空港に到着した。宅配大手のヤマトホールディングスが導入した貨物専用の航空機だ。機体はエアバスA321-200P2F。ヤマトは、この機体をはじめ3機の貨物専用機をリース契約で新たに導入する。運航は日本航空に委託する形で、グループ会社の「スプリング・ジャパン」のパイロットが操縦かんを握る。運航開始は来年4月を予定していて、羽田や成田と新千歳、那覇それに北九州などを結ぶ計画だ。

ヤマトは今回初めて自社専用の貨物機を持つことになる。これまでは、旅客機の一部のスペースを利用して貨物を輸送していたが、自社専用の貨物機を持って長距離の新たな輸送手段を確保することで、輸送量の増加のほか、深夜運航も可能になるという。搭載量は最大で28トンで10トントラックおよそ6台分。委託を受けた日本航空としても、貨物事業を拡大する狙いがある。

運航開始は4月11日 “新しい価値を”

11月20日には、この機体のお披露目会が開かれた。成田空港の格納庫にヤマトや日本航空などの関係者およそ140人が参加し、多くのメディアが詰めかけた。冒頭で各社の幹部が挨拶し、意気込みを語った。

ヤマトホールディングス 長尾裕社長
「当社はいま、『陸のネットワーク』をこれからも成長できるネットワークにしていこうとしている。様々な取り組みをスタートしている。その中に、新しい事業としてフレイター(貨物専用機)が加わってくる。いよいよ様々なお客様にご利用いただくためのフェーズに入ろうとしている。このチームで作ってきたビジネスをよりよいものにしていきたい。まずは1機目が入ってきたが、続々と到着する。まずは安全な運航を優先して、みなさんにとって役に立つように精進していく」

日本航空 斎藤祐二専務
「ヤマト様と新しい社会課題の解決に取り組んでいきたい。グループの貨物事業として、さらなる成長を実現していくためにチャレンジする非常によい機会となる。国内の貨物輸送は、ほとんどがトラックで、国内航空による運搬は1%程度。航空が持つ、長距離を速く輸送できる強みをいかして、持続的かつ高品質のネットワークの構築に貢献していきたい。この機体は旅客機から改修した。訓練飛行を開始して、4月11日の開始に向けて準備している。JALとしては安全運航で新しい価値を創造していきたい」

貨物機の機内

 

コンテナを積む作業

今回導入された機体は、もともと旅客機として使われていた。およそ4か月間、シンガポールで改修作業を行い、11月6日に成田空港に到着。公開された機内には、撤去された座席のスペースにコンテナをスムーズに積めるようにレールが敷かれている。この日は、コンテナを運ぶ専用車両から、機体に備えられた大きなドアを通じてコンテナを積み込む作業も公開された。

JALグループ 貨物事業“復興”へ

日本航空は2010年の経営破綻以降、事業規模を縮小するため貨物専用便から撤退した。貨物専用機は2006年に最大で14機保有していたが、その後売却してゼロとなった。担当者によると、貨物事業は景気に大きく左右されるという。景気が良ければ輸送量が増えて黒字になるが、景気が悪化すれば一気に赤字転落する可能性があり、リスクを伴う事業だ。当然赤字を出し続けると、会社にとってマイナスとなる。業界では皮肉を込めて“お荷物事業”と言われることもあったという。貨物専用機の売却以降、日本航空グループの貨物事業は旅客機の貨物輸送スペースを使った輸送にとどまっていた。

状況が大きく変わるきっかけとなったのが、コロナ禍だ。人の移動がなくなり、旅客事業が大打撃を受けたのに対し、ネット販売の需要の高まりなどを受けて、貨物事業の売り上げは大幅に増加した。2023年3月期のグループ全体の決算では、貨物・郵便事業の収入が2247億円で過去最高を記録。貨物事業が、経営の下支えとなったのだ。さらに直面する「2024年問題」で航空貨物を求める声は高まっているという。日本航空によると、来年2月からは自社の貨物専用機3機を導入して運航を開始する予定だ。貨物専用機を導入するのは経営破綻以降初めてで、実に13年ぶり。Eコマースを中心に需要が高いソウル、台北、上海など東アジアの都市と成田を結ぶ。

貨物専用機の完成イメージ
(画像提供:日本航空)

コロナ禍で、会社の主要事業の1つともいえる存在となった貨物輸送。今後さらに安定的に収益を確保するため、従来と違う新たなビジネスモデル・運用を導入するという。これまでの貨物事業は、荷主に直接営業をかけて輸送する荷物を確保していた。しかしこれでは、荷主からの発注がなければ、事業が続かない。そこで新たに物流会社と契約することで、国内外のEコマース・宅配などの高い需要を取り込む。これをベースに、引き続き独自の貨物輸送を展開していくことで、需要や市場の変動による事業リスクを抑制しつつ、収益を得ることを狙うという。さらに将来的には国内線でも運航することで機材の稼働率を向上させて貨物搭載率の最大化を進める。ニーズに応じてチャーター・臨時便も柔軟に設け、貨物事業を“稼ぐ”事業にしたい考えだ。

日本航空貨物路線部 木田浩部長 
 「Eコマースの物流が非常に大きな潮流になっている。過去になかった非常に大きなムーブメントだ。これに応えていくためには、旅客機だけでは不十分。2024年問題の解決に寄与するととともに、会社として貨物事業を発展させていくために、フレイターの導入が非常に大きなインパクトを持つ。昔と状況が違うのは、Eコマースを中心とした需要が確実にあるという点で、必要な時間に合わせて深夜などにも航空機を運航する。できるだけ航空機を効率的に使っていくように国際線とあわせて国内線もハイブリッドで運航していくのが、過去との一番大きな違いだ。今回の貨物便の再就航をふまえて、さらに大きく発展させて会社のなかでも大きな基軸になっていきたい」

ANAグループも事業拡大へ

一方、日本の航空貨物をけん引してきたANAグループも、事業の拡充に乗り出している。グループ全体の2023年3月期決算によると、貨物郵便収入は3413億円で、2019年度比で2倍以上の伸び率。グループ全体の売り上げのおよそ2割を占めるようになった。来年2月には海運大手・日本郵船の子会社「日本貨物航空」を買収し、事業を強化する。日本貨物航空とはすでに2018年に業務提携して共同運航を行っていたが、今回の買収で国際的な貨物輸送の競争力を高める狙いがある。将来的にはグループの貨物事業と統合するとしていて、すでに保有している貨物専用機11機に合わせて、さらに機体が増える予定だ。

成田空港の第8貨物ビル完成予想図
(画像提供:成田国際空港株式会社)

ことし9月には、成田空港会社が貨物ターミナル地区に第8貨物ビルの新設を発表した。現在、ANAグループは成田空港会社が管理する貨物ビルのうち6か所を使って貨物を搬送・保管しているが、今回新設される第8貨物ビルを活用して、点在する貨物ビルを2か所に集約することで作業の効率化を目指す。さらに、貨物ビル内には自動搬送車を導入することで作業を自動化し、オペレーションの効率化も図る。成田空港会社によると、第8貨物ビルの完成は来年10月の予定だ。

貨物をめぐり大きな転換期を迎える航空業界。“お荷物事業”と言われた不遇の時代を乗り越え、旅客事業に続くもうひとつの柱となり得るのか。業界全体の動きが注目される。

  • 武田智成

    千葉放送局成田支局記者

    武田智成

    2023年8月に成田支局に異動。現在は成田空港でエアラインなどを担当。貨物事業のほかLCC戦略の取材中。

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