深刻化する人手不足の影響で、成田空港から衝撃の発表がありました。
荷物の積み込みや搭乗客の案内などを行う「グランドハンドリング」と呼ばれる地上業務の担い手が足りず、「新規就航や増便希望のうち2/3程度しか、今年度中に受け入れられる見通しが立っていない」というのです。
今回、航空会社とグランドハンドリング会社の交渉にも密着。新型コロナによる規制が緩和される中、急増する航空需要を取り込めるのか。航空業界は岐路に立たされています。
(千葉放送局成田支局・佐々木風人)
「首都圏ネットワーク」での放送内容は、12月7日午後6時半まで「NHKプラス」でご覧いただけます。
11月30日に成田空港会社が開いた記者会見。発表された内容は衝撃的でした。
今後の新規就航を含めた増便の要望について、9月末の時点で調査したところ、いまの「グランドハンドリング」の体制が受け入れられるのは、要望のうち2/3程度でした。
具体的には、週あたりの就航希望が152便あったのに対して、今年度中に受け入れられる見通しが立っているのは101便にとどまりました。
この先さらに、各国から新規就航や増便の要望をいただいています。そうした需要を受け止めてお迎えするには、受け入れ体制の整備に努めなければならないと認識しています。
海外からの航空需要に対し、発着枠に余裕があるにも関わらず、空港側が応えきれていないことが明らかになったのです。
この要因となっているのが、「グランドハンドリング」の人手不足です。
グランドハンドリングは、空港で行われる地上支援作業の総称で、通称「グラハン」と呼ばれます。コロナ禍による航空需要の減少によって、従業員数は4年前と比べて全国で15%近く減少しました。
その仕事は、カウンターでの搭乗手続き・手荷物預かりから、航空機の誘導、荷物の機体への積み込み、ボーディングブリッジの操作まで、多岐にわたります。
屋外での業務は、雨の日も風の日も、夏は炎天下、冬は寒空のもとでの仕事になります。早朝から深夜まで、航空機の運航には欠かせない存在です。
しかし、国土交通省によると、グランドハンドリング会社の社員の平均年収は約357万円。低い給与水準も人材不足の要員の1つとなっています。
そうした中で、労使交渉も激しくなっています。グランドハンドリング国内大手の「スイスポートジャパン」の労働組合は、12月から一切の時間外労働を行わないと会社に通告していました。
しかし、会社側によると、その後の協議で、12月については航空機の運航への影響は回避できるめどがたったということです。
人手不足はどの程度深刻なのか。
成田空港で、中国やベトナムなど海外の約20の航空会社から地上業務を受託しているグランドハンドリング会社を取材しました。
この会社では、コロナ禍で離職者が相次ぎ、一時、地上業務を担う従業員はコロナ前の4割まで減少。しかし、新型コロナに伴う入国制限が緩和されると航空需要が回復し、人材の確保を急いでいます。
毎月採用を行って人材を確保しています。
2023年4月からは正社員の給与を平均5%程度引き上げましたし、2024年にはさらに引き上げることにしています。
しかし、それでも急増する需要には追いつきません。
この会社には、中国、韓国、中東などの航空会社から新規就航や増便に向けた業務委託の打診が数多く寄せられています。
しかし、2023年4月以降では15社の打診のうち11社は断らざるを得なかったといいます。
すべて受託したいのですが、人材不足で4社以外はお断りしました。
11月中旬、中国の航空会社の担当者が、業務の相談でこの会社を訪れました。
いま、中国の団体旅行のお客様が回復していて、特に春節、旧正月の時はニーズが高まると思います。いまは火、木、土の週3便なのですが、ニーズを想定して1月15日までにデイリー(1日1便)まで増便できればと考えています。
現在、御社以外に問い合わせが来ている航空会社が3~4社あります。いま調整している段階で、どの程度人が必要になるのかが分からず、受託できるかどうか…。
デイリーにすることが難しければ、1便か2便でも増便できればと思いますが。
お断りしているところもありますし、現在調整している航空会社も増便したいという要望なので、それを踏まえて検討しないと…。
グランドハンドリング会社は、どうしても人ぐりがつかないことを説明し、新規の受託は難しいと伝えました。
正直に言うと、受託して少しでもインバウンドに貢献したいのが本音です。ですが、需要と供給のバランスがありますので、難しいというのが今回の判断です。
こうした状況にどう対応していくべきなのか。
空港の業務のあり方に関する国の検討会で座長を務める、慶応大学の加藤一誠教授に話を聞きました。
これまでは低い賃金でも航空業界への『憧れ』で人が集まってきましたが、コロナ禍でこの業界が不安定だという認識に変わってしまいました。
賃金改善など抜本的な労働環境の向上をするべきで、それによる運賃の値上げについても、利用者も理解していく必要があります。
これまで人材確保はそれぞれの会社が行ってきましたが、限界を迎えています。空港会社や国がリーダーシップを取って取り組むべきです。