乳幼児がかかりやすい「ヘルパンギーナ」の流行警報が首都圏各地で出るなど、ウイルス性感染症の患者が増えています。中でも、熱やせきなど、かぜのような症状が出る「RSウイルス感染症」の幼い子どもが、症状が悪化して入院する事例が増え、千葉市の中核病院では、小児科の病床稼働率が9割とひっ迫した状態になっています。
(千葉放送局記者 金子ひとみ)
「地域小児科センター」として、小児医療の中核的な役割を担う千葉市立海浜病院では、入院の受け入れを要請するクリニックや救急隊からの電話が鳴りやまない日々が続いています。36ある小児科の病床稼働率は9割前後で推移していて、かなりひっ迫しています。
「もしもし、海浜病院です。1歳、SpO2 97%、38.6℃。けいれんは止まっていますか?」
「1歳。約5分間のけいれんで、現在は止まっているのですね?」
「2歳、RS。3日前からの発熱とせき。呼吸状態はいかがでしょうか?ベッドは大丈夫そうなので、来ていただいて大丈夫ですが、こちらまで何分ぐらいかかりますか?」
千葉市立海浜病院小児科 多湖孟祐(たご・ともひろ) 医師
「ここ1か月はほぼ満床の状況です。退院する患者さんが出ないと、新たな患者さんはどうしても入れない状況が続いていて、調整がかなり難しいと現場では感じています。午前中、電話が鳴りっぱなしという状況もよくありますし、その時点でお断りしないといけないこともあります」
病床がひっ迫しているのは、「RSウイルス感染症」で入院する幼い子どもが急増しているからです。
「RSウイルス感染症」は発熱やせきなどかぜのような症状が出る病気で、5類感染症に指定されています。生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼすべての子どもが少なくとも1度は感染するとされています。初めて感染したときは2割から3割が肺炎や気管支炎を起こすと言われ、特に生後数か月の赤ちゃんでは症状が重くなることがあります。
多湖医師によると、家庭内や保育所などで感染が広がり、大人や小学生以上は症状が軽い一方、乳幼児が重症化するケースが目立つということです。
私たちが取材に行った日には、「RSウイルス感染症」で入院中の患者さんの中に1歳の女の子がいました。肺炎を起こして、呼吸が苦しい状況となり、クリニックの紹介で入院。鼻から高濃度の酸素を投与するなどの処置を受け、少しずつ症状が改善してきたということです。
「RSウイルス感染症は特効薬がなく、基本的には対症療法を行います。入院する方は、呼吸状態が悪い方がほとんどなので、呼吸がしやすくなるようなサポートをしていくことが多いです」
国立感染症研究所によりますと、全国およそ3000の小児科の医療機関で6月18日までの1週間にRSウイルス感染症と診断された患者は9093人で、1医療機関あたりでは2.9人と前の週の2.64人から増加しました。去年の同じ時期には0.43人でしたが、ことしは早くから増えていて、患者数が多かった2021年とほぼ同じレベルになっています。
千葉市立海浜病院では、「RSウイルス感染症」による入院患者は5月下旬から増え始め、6月の入院患者数は6月28日時点で、35人に上っています。全員が4歳以下で、このうち3分の2が2歳以下でした。
そもそもなぜ「RSウイルス感染症」の感染者が増えているとみていますか?
千葉市立海浜病院小児科 多湖孟祐(たご・ともひろ) 医師
「新型コロナウイルスの感染対策によって、それ以外の感染症に触れる機会が減り、免疫を獲得する機会も同時に失われていたと考えられます。
新型コロナウイルスが5類に移行したことで、人の活動範囲や接触の機会が増え、RSウイルスなどの感染症が流行しやすくなっている、というシナリオもあるのかなと思います」
どのような感染対策が必要でしょうか?
「特別な感染対策は必要ないと思いますが、これまで新型コロナが流行していたときに行っていたような、マスク着用、手指衛生といった基本的な感染予防の意識を改めてみなさんが持つ必要があると思っています。
マスクを常につける必要はないですが、例えば密な空間や人混みでは着用するなど臨機応変に考えて、基本的な予防策をとってほしいです」
「RSウイルス感染症」になったら、何に注意すればいいですか?
「大人に関しては基本的には風邪症状で終わることがほとんどですが、0歳児や1歳児など小さいお子さんは、全員ではないですけれども重症化するリスクがあります。例えば、呼吸が速くなる、顔色が悪くなる、ミルクの飲みが悪くなる、といった症状が出てきたときは、速やかな受診をお勧めします」
「RSウイルス感染症」などの感染症はこれからも拡大が続くのでしょうか?
「6月はRSウイルスの入院患者が爆発的に増えましたが、ここで折り返すのかさらに増えるのかは、正直まだわからず、ちょうど今が分岐点なのかなと感じています」
「RSウイルス自体に抗生物質は効きませんが、二次的に引き起こされる細菌性肺炎や中耳炎には抗生物質を使った治療をします。抗生物質やせき止めの薬の一部が出荷停止や出荷制限で品薄の状態となっているところが出てきているということで、普段使い慣れない別の薬を使う必要や入院期間が伸びる可能性が出てくることを懸念しています」
現在、「RSウイルス」や「ヘルパンギーナ」が流行していることは知っていましたが、流行によって小児科病棟のひっ迫につながっているとは予想できませんでした。
県内の小児科クリニックの医師は、「近くの病院では、内科や救急のベッドでも、小児用の柵がある限り入院を受け入れているが、受け切れていないようだ。特に夜間や土日などに幼い子どもの急な入院を受け入れる病院が本当に少ない」と言っていました。
厚生労働省がことし5月に公表した小児科の「医師偏在指標」(医師の充足度)は、千葉県が全国47都道府県の中で最も低い数値でした。多湖医師のように現場で奮闘するひとたちに感謝しながらも、ひとりひとりの感染対策に加え、医師不足や入院施設不足への対応も強く求められているのではないかと思いました。