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新型コロナ 2つの現場を訪ねてみた。

  • 2022年08月17日

取材のきっかけは、私自身が、子どもの通う保育園から受け取った1通のお知らせでした。「当面、病気の症状が改善すれば、医師の書く登園許可証明書がなくても登園が可能」といったことが書かれていて、率直に驚きました。病気からの回復後、登園するにあたって、医師の「お墨付き」が必要ないという異例の事態。やはり、新型コロナウイルスの感染急拡大による医療体制のひっ迫が影響していました。
一方、こういった医療ひっ迫の改善につなげようと、感染者の早期発見・感染拡大防止のためのPCR検査を担う会社では、次から次へと検体の分析が行われていました。
新型コロナの感染高止まりが続く中、気になった2つの現場を訪ねました。

(千葉放送局記者 金子ひとみ)

1通のお知らせが

8月はじめ、子どもが通う船橋市の私立認可保育園から1通のお知らせが届きました。
通常、アデノウイルス感染症や溶連菌感染症などにかかった場合、病気が治ったあとに再受診して、医師が書く「登園許可証明書」を園に提出することで、登園を再開できます。
ただ、しばらくの間、この「証明書」は必要ないというのです。理由は、「医療体制がひっ迫していて、証明書を入手するための受診は控えてほしいと市を通して医師会からお願いがあったから」とのことでした。

保育園生活5年めで初めてのことです。調べてみることにしました。

船橋市役所

まず、船橋市役所の保育認定課に問い合わせしました。

金子記者

「医師の登園許可証明書の提出を不要とする対応は、すべての園に対して行っているのでしょうか?過去にもこういった対応を取ったことはありますか?」

担当者

「はい、医療体制がひっ迫しているということで、市の医師会からの打診を受けて、まず市立保育園が行い、その後、私立の認可保育園と認可外保育園すべてに依頼しています。強制ではないですが、こういった対応は異例と言えると思います」

小児科の3分の1近くが相次いで休診する事態に

篠本雅人医師

船橋市医師会に問い合わせると、忙しい合間を縫って、船橋市医師会の担当理事、篠本雅人医師が時間を取ってくれました。

金子記者

「医療体制のひっ迫、具体的にどのような状況でしょうか?」

篠本雅人医師

「市内には21の小児科クリニックがありますが、7月から8月にかけて、このうち6つのクリニックが、スタッフの新型コロナへの感染で休診する事態になりました。休診していなくても濃厚接触者などでスタッフが休み、人手不足のところもあります。そうすると、周りのクリニックに患者さんが押し寄せることになります」
「お子さんは体調を崩しやすく、熱も出しやすい。新型コロナだけではなく、手足口病やRSウイルス感染症も流行しています。一方で、乳幼児健診や多種多様な予防接種への対応もあります」

手や足、それに口の中などに発疹ができる手足口病は5月末から流行が始まり、県が3年ぶりに警報を出すほど感染拡大が続いていました。

発熱患者の対応は大変なのです

撮影:キッズファミリークリニック ささもと小児科

発熱やかぜ症状のある子どもを診る際には、スタッフ側も感染対策の強化が必要です。こういった子どもを診る際、篠本医師のクリニックでは、駐車場内の車の中に待機してもらうなどして、診察と検査結果を伝えるためにスタッフ側が出向く、という形を取っているということです。

篠本雅人医師

「コロナ疑いの患者さんを診察するには、それなりの準備が必要で、どうしても時間を要してしまいます。今はほとんどのクリニックが完全予約制を取っていますが、なかなか予約を取りにくい。症状が落ち着いた子の保護者が『登園許可証明書』を得るための予約を取るのは大変で難しいだろうと思うのです」

「保護者」というよりは「保育園」にお願いしている

「登園許可証明書」の話につながってきました。
ただ、篠本医師は、私が保育園から受け取ったお知らせを見せると、少し驚きました。

篠本雅人医師

「こちらとしては、保護者の方に、『証明書入手のためにクリニックに来ないで』とお願いしているわけではありません。不安があれば遠慮なく受診・相談してほしい。どちらかというと保育園側に、『保護者に証明書提出を求めないで』とお願いしているということです。ことばのニュアンスが難しいですね」

市医師会からの異例のお願い。保護者側に受け止めを聞いてみました。

保護者

「今、医療体制が大変な中で、こういった対応を取ることは理解できるかなと思います。最初に症状が出て受診したときに、療養が必要な日数や、どういう状態になれば登園してもよいかを、お医者さんがしっかり説明してくれれば大丈夫だと思います」

篠本雅人医師

「市の医師会の会員にも今回の対応についてしっかりと周知しています。そのときの医療の状況に応じて、柔軟な対応を取ることが重要だと思います」

PCR検査会社に行ってみた

無料検査会場

医療体制のひっ迫を改善するためには、感染者を早期発見し、感染拡大を防止することが必要です。そのひとつの手段が、検査です。
夏の行楽シーズンを迎え、街角の無料検査センターに市民が殺到する様子が頻繁に報道されていました。
「検体の分析を行う機関は今、相当大変な状況なのではないだろうか?」、そんな素朴な疑問から、松戸市の民間検査会社「プレシジョン・システム・サイエンス」を取材しました。

本社は松戸市ですが、検体の分析を行うラボラトリーは東京・新宿にあります。ガラス越しにその中の様子を見せてもらいました。松戸市内の高齢者施設の職員の検体や、東京都の無料PCR検査センターを利用した無症状者の検体が日々運ばれてくるということです。

全自動の機械ががんばってました

検体と試薬を全自動の装置にかけて、2時間ほどで分析する工程を繰り返していました。

田島秀二 社長

「この全自動の機器がうちの会社の売りで、ヨーロッパにも納入しています。小型なのでスペースを取らず医療機関の人にも評判がいいですし、複雑な過程を自動化することで、検査技師の手間や感染リスクが軽減されます」

無症状の人の陽性率が16%!?

この会社では、「第7波」とされる7月中旬以降の1日あたりの検査件数は、ことし6月に比べると3倍程度にのぼっていて、新たに人を採用したり装置の数も2倍に増やしたりして対応にあたっているということです。

金子記者

「陽性率は、変化がありますか?」

田島秀二 社長

「6月は1か月の平均で3%程度だったんですが、今は5倍以上の16%以上にまで高くなっています。うちの検査は無症状の人が対象です。この数字は、それだけ街なかにコロナがまん延しているということで、問題だと考えています」

その上で、現在の状況に対しては。

田島秀二 社長

「感染を早く見つけて拡大を防ぐ対応をするために広く検査を行うことは重要だと思うので、検査体制の拡充に取り組んでいきたいです。正確な検査結果がほしいという依頼も増えていて、検査の精度にもこだわっていきます」

取材後記

子どもがせきをしたり少し体温が高かったりすると、「かぜかな?コロナかな?」に続いて「小児科の予約取れるかな?」と、とっさに考えてしまうのは、私だけではないと思います。混み合い気味の小児科クリニックですぐに予約を取るのは平時でも難しいことが多く、今はなおさら大変な状況だと思います。ある意味「有事」の今は、本当に必要な人が医療にアクセスできるような対応が必要なのだと改めて思いました。ただ、篠本医師の「不安があれば遠慮せず相談してほしい」という言葉も心強かったです。
一方の検査会社では、無症状者の陽性率が16%という数字に驚きました。どこにいても感染リスクは高いと思わされました。
10月以降、オミクロン株に対応するワクチン接種が始まる見込みです。個人的には、このタイミングをひとつの目標に、withコロナ生活を続けたいと思います。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者

    金子ひとみ

    遊軍記者。船橋市在住。5歳双子(男女)の母。千葉県の企業を応援したい。 

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