ページの本文へ

  1. 首都圏ナビ
  2. ちばWEB特集
  3. 「脊髄性筋萎縮症」新生児検査の普及を

「脊髄性筋萎縮症」新生児検査の普及を

  • 2023年02月08日

「脊髄性筋萎縮症」という病気、皆さん知っていますか?乳児期に発症すると、全身の筋力が低下し、治療を行わなければ死に至ることもある難病です。しかし近年、治療法の開発が進み、千葉県では去年、生後すぐの検査によって2例の患者を発見し治療につなげることができました。検査を行う財団では、病気の早期発見のために積極的に検査を受けてほしいと呼びかけていますが、課題もあるというのです。

(千葉放送局記者 坂本譲)

脊髄性筋萎縮症(SMA)とは

「脊髄性筋萎縮症(SMA)」は、全身の筋力が低下する進行性の難病で、一部の遺伝子の変異が原因で起こり、乳児の発生頻度は1万人から2万人に1人とされています。生後間もないうちに発症して治療を受けない場合、食べ物の飲み込みや呼吸ができなくなり、2歳になるまでに9割の子が死亡するか、人工呼吸器が必要になるとされています。

写真提供:SMA家族の会

この病気は近年、新たな治療薬が開発され、早期に治療を開始すれば進行を食い止めることができるようになりました。しかし、発症後では効果が限られるため、早期発見・早期治療が重要です。

千葉県では検査事業で2例の患者を発見

現在、新生児は生まれてすぐ、「新生児マススクリーニング(NBS)」と呼ばれる検査を受けています。これは少量の血液から先天性の難病について調べるもので、国の制度のもとで、自治体などにより公費で実施されています。

しかし脊髄性筋萎縮症は、この新生児マススクリーニングの対象疾患ではなく、多くの新生児が検査を受けていない現状があります。

このため、千葉県内で検診事業などを行う公益財団法人「ちば県民保健予防財団」では、新生児マススクリーニングの機会に合わせて希望者を対象に検査を行っています。

資料提供:ちば県民保健予防財団

まず、産科施設で保護者に検査の説明を行います。希望する場合、新生児マススクリーニングで採取した新生児の血液の一部を、県内にある「かずさDNA研究所」に送り、検査を行います。結果は産科施設を通じて保護者に伝えられ、陽性の場合は、精密検査や治療のために専門病院が紹介されるという仕組みです。

ちば県民保健予防財団の会見(今月7日)

財団は今月7日に会見を開き、去年11月から12月にかけてこの検査で2例の患者が見つかり、生後1か月前後の早い段階での治療につながったことを発表しました。これまで全国では、検査により10例以上の患者が発見されているということです。

財団は病気の早期発見の重要性を訴えるとともに、積極的に検査を受けてほしいと呼びかけました。

ちば県民保健予防財団 羽田明 調査研究センター長

「これまで脊髄性筋萎縮症には治療法がなく、徐々に筋力が衰えていくのを見守るしかありませんでした。私も小児科医として患者に対応し、なすすべがないことに悔しい思いもしてきました。今では遺伝子治療などの画期的な治療法が見つかり、早期の発見・治療によって子どもたちを救えるようになりました。千葉県では新生児の負担を最小限にしたうえで、他機関の協力もあり、検査体制や治療体制が確立されています。検査を受け、早期の治療につなげるために、保護者の皆さまには検査を検討してもらいたいと思います」

脊髄性筋萎縮症は公費検査の対象外

千葉県では財団が助成を受ける形で、脊髄性筋萎縮症の検査事業を全国に先駆けて2020年度から無料で始めました。しかし、2021年度からは助成がなくなって有料となり、その結果、検査を受ける新生児の割合も80%台から40%台まで大きく下がっています。

資料提供:ちば県民保健予防財団

財団によりますと、半数以上の都道府県ではこの検査は行われておらず、実施しているところでも千葉県をはじめ、公費による補助がないのがほとんどだといい、千葉県では保護者が8000円から1万円程度を負担しているということです。

全国で見ると、熊本県では今年度から検査費用の半額程度を助成する事業を始めました。財団では、検査の普及のためにも、国や県による助成の動きがもっと広がっていってほしいとしています。

ちば県民保健予防財団 羽田明 調査研究センター長

「とにかく検査を受けないと病気を把握することができません。現状では、有料でも受けたい、という人しか検査を受けません。検査が無料だったときの受検率を見れば、金銭的負担が下がれば受検率が上がってくるのは確実です。全額半額は別として、国や県が助成をすることで、その結果、患者を未治療のままで放置することなく、治療に結びつけることができる非常に有用な政策になると思っています。受検率の向上に向け、財団として病気の早期発見の重要性を周知するとともに、国や県に対して助成を要望していきたい」

取材後記

脊髄性筋萎縮症は、治療法が進歩してきた一方、いまだ検査体制が整っていない自治体が多いことや、公費負担がないことなど、すべての子どもが検査を受けることができるまでの道のりはまだ半ばだと感じました。

そうした中、1人でも多くの子どもを救おうと、検査・治療の拡充に向けて尽力している当事者がいます。取り組みが実を結び、すべての子が平等に検査を受け、多くの子が早く治療できる、そんな取り残しのない社会につながってほしいと思います。

  • 坂本譲

    千葉放送局

    坂本譲

    2020年入局。千葉県政を担当。学校教育や子ども関係の取材に励む。

ページトップに戻る